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第9話 私服も似合うメイドさん

 ミニスカメイドから私服に着替えて玄関前まで戻って来てくれた大平有希。


 彼女の私服は、ゆったりとした白のTシャツにデニムパンツといったシンプルかつボーイッシュなファッションでのご登場であった。


 ミニスカメイドから大分印象が変化したが、このシンプルな格好もかなり似合っている。


 彼女が着るだけで、そのTシャツも、そのデニムパンツも、ハイブランドを着ているかのような錯覚に陥る。それというのも、彼女の素材が良いのと、努力の結晶と言わんばかりのスタイルが成せるコーディネートと言えるだろう。


 俺も、柄物のシャツにジーンズという、シンプルで似た様なファッションだが、彼女の着こなしには到底及ばない。


「なんです? そんなマジマジと見てもパンツは見えませんよ」


 先程のセリフが効いているのか、警戒されてしまっている。ただ、もうそのデニムパンツの下にはエメラルドグリーンの宝があることを知っているので、必死こいて見ようとも思わない。


「いやいや。私服姿も似合ってると思ってな」


 別におだてたつもりはない。俺の素直な感想に彼女は嬉しそうな顔はせずに顔を背けた。


「おだてても何も出ませんよ」

「料理が出るんだろ?」

「……ああ言えばこう言う人ですね」


 少し苛立った顔を見せると、「ほら、行きますよ」と言って、5階の真っすぐ伸びた廊下を501号室方面、エレベーターの方を目指して歩いて行く。


「あ、待てよ」


 彼女に続いて歩く。待てよというセリフを律儀に守ったわけではなく、エレベーター待ちで待っている彼女に簡単に追いつく。


「食材の買い出しってどこ行くんだ?」


 エレベーターの下ボタンしかないボタンは既に押されており、黄色かオレンジか微妙な光を出していた。


 その前でエレベーターの現在地を表す階層表記の数字を見ながら大平有希は答える。


「そりゃ、スーパーでしょ」

「仰る通りで」


 当たり前の答えに、俺はなんて間抜けな質問をしたのかと内心苦笑しながら、やって来たエレベーターに乗り込む。


 先に大平有希から入って、エレベーターの開くボタンを押し続けてくれているので、サッと奥まで入り、壁にもたれた。


「でも、良いのか?」

「なにがです?」


 こちらの主語なしの質問に、1のボタンを押しながら質問で返される。


 当然の質問に詳細を加えてもう1度質問を返した。


「大平みたいな生徒会長が、俺みたいな生徒と一緒にスーパーに買い物なんて見られた日にゃ、学校でなに言われるかわかったもんじゃないぞ」


 大平有希は人気者の生徒会長だ。その人気者って単語には、尊敬や好意の他に、恋愛的な思想も入ってくるだろう。


「彼氏とかにバレでもしたらやばいんじゃない?」


 彼女に浮いた話は聞いたことがない。見ている限りでは学内に彼氏はいないだろうと予測できるが、もしかしたらいるかも知れない。


 ガコっと下に降りるエレベーターの振動と同時に彼女から答えが返って来る。


「別にクラスメイトと一緒にスーパーにいるところを見られたからなんだと言うのです? そりゃ、さっきみたいにメイド服で一緒にいれば怪しい関係と思われますが、この格好なら別になにも思われないでしょうに」

「大平は大人気の妖精女王ティターニアだし、ファンが多いからな。男といるだけで噂になるかもな」

「その恥ずかしいあだ名で呼ぶのはやめていただけません?」

「気に入ってないのか? 綺麗な銀髪とマッチしたお似合いのあだ名だと思うが」


 からかっているわけではない。こちらの本心からなの言葉をどう受け取ったのか。こちらからでは背中しか見えないので表情まではわからないが、大平有希は自分の長い銀髪を少々強く掴んでいるのが少しばかり見えた。


「この髪も、そのあだ名も気に入っていないので、2度と言わないでください」


 怒っているような、悲しんでいるような、それが合わさったような。か細い声で言われて、どうやらこの件は彼女にとって嫌悪感を抱くストレス案件だと察した。


「了解。もう言わないさ」


 俺も別に人の嫌がることを言いたいわけじゃないので、素直に彼女の要望に応えると1階に辿り着く。


 エレベーターの開くボタンを押してくれているので、先に出ろと言っているのだと察し、先に出た。


「さっきの続きですが」


 彼女もエレベーターを降りて、狭いロビーに降り立つ。


 ロビーというにはあまりにも狭く、表現するなら階段とエレベーターとポストがあるだけの場所って表現した方がピッタリだ。


「好奇心旺盛な人が聞いてきたら、たまたまスーパーで出くわしたって言えば良いだけです。バレない限りはその言葉だけが真実です。わざわざ馬鹿正直に言う必要性を感じません」

「バレない行動は得意ってことか? メイド喫茶のバイトも隠れてやってるもんな」

「なんです? 『俺にバレてるけどな』なんてうまいこと言おうとしてます?」

「そんなこと思ってねぇよ」


 こちらの回答を聞かず、ふん、と鼻息荒くしてマンションのロビーからオートロックの扉を開けて出る。


 怒った表情のまま大平有希が言ってくる。


「それから。私、彼氏なんていませんので」

「意外だな。彼氏の1人や2人はいそうなくらいにモテてると思ったが」

「忙しいので彼氏なんて必要ありません。仮にいたとしてら、秘密を守ってもらうためとは言え、あなたの専属のメイドになるなんて言いません」

「そりゃそうか」

「考えたらわかるでしょ」


 ボソッと毒を吐かれてマンションを出ると、日に日に弱くなってきているセミの鳴き声がお出迎えしてくれる。弱くなってきているといえど、彼等の合唱を聞いているだけで汗が出てきた。

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