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生徒会長の秘密を知ったら専属メイドになってくれました  作者: すずと


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第89話 新しい夢

 ナイスピッチ!


 野球部達がベンチに戻りながら声をかけてくれる。


 その声を聞きながら、上昇した気分を抑え込むようにベンチに座った。


「いやいや。本当に何者なの?」


 白川琥珀が心底驚いたような顔をして、聞いてくる。


「白川のクラスメイトだっての」

「ただのクラスメイトが手品みたいなボール投げないでしょ。いくらサッカー部だからって、全然違うところ振ってたよ。なにあれ。幻でも見せてんの?」

「かっかっかっ」


 まるで自分のことのように、キャッチャー防具を外しながら、正吾が白川に言ってやる。


「晃は中学の日本代表で、幻術使いと呼ばれていたんだぜ。どうだ? すごいだろ?」

「いや、うん。すごいダサいネーミングだけど、ネーミング通りだから、反論できないでいる」

「ダサくないやい。晃のジャイロは凄いんだぞ!」


 正吾は、自分がばかにされたかのように白川と言い争いを始めた。


「ナイスピッチング。です」


 2人の言い争いを見ていると、有希が隣に来てくれる。


 あいつらの言い争いなど微塵も興味がないので、専属メイドの方を見た。


「ありがと」

「すごく、カッコいいですね。あ、お茶をいただきましたのでどうぞ。冬ですが、水分補給は大事ですよ」

「ども」


 差し出されるコップを受け取り、飲みながら有希へ言う。


「なんか、マネージャーみたいだな」

「ふふ。そうですね」


 なんだか嬉しそうな有希は、楽しそうに言ってのける。


「メイドと野球部のマネージャーってちょっと似てるから、私には天職だったかも」

「有希がマネージャーだったら、毎日練習に行くわ」

「晃くんが野球部に入るのなら、やってみても良いかもですね」

「いやいや、流石に……」


 2年の冬から野球部に入るのは遅すぎると思ってしまう。


 何かをやるのに遅すぎることはないと世間的な謳い文句があったりするけれど、流石に後、半年で引退の野球部に入る気にはなれないな。


「……でもさ、有希」

「はい」


 俺は、有希が持ってきてくれたグローブを撫でながら彼女へ問う。


「逃げ出した事から、もう1度立ち向かうのってカッコ悪いかな……」

「カッコ良くはありませんね」


 即答で言われて、苦笑いが出てしまう。


「でも」


 彼女は優しい顔をして言ってくれる。


「逃げたことで、本当にその事が好きだと再認識できたのであれば、それはとても素敵なことだと思いますし、私はそういう人を応援したいです」


 彼女の言葉を受けて、さっきのマウンドでのことを思い出す。


 相手が誰であれ、全力で投げる楽しさ。


 相手を空振りにした爽快感。


 相手をアウトにした嬉しさ。


「俺、やっぱ野球好きだわ」

「はい。わかっていましたよ。あなたと最初に出会った頃から」


 有希は当然のように言ってくれる。最初から、彼女には見透かされていた。


 空を見上げた。


 冬の澄んだ空が広がっている。


 その綺麗な空を見ていると、どうしてこんなにも野球が好きなのに、今まで逃げていたのか疑問に思ってしまう。


「大学で、もう1回、チャレンジする」


 自然と出た言葉を彼女はなにも不思議がらずに拾ってくれる。


「なら、勉強しないとね」


 まるで、いつも朝起こしてくれるみたいに、夢の中から現実へ引きずり出された気分になる微笑みに、沈黙しかできなかった。


「大丈夫です。私が付いていますので。希望校を教えてください」

「や、やだよ。また、スパルタ授業する気だろ?」

「スパルタメイドゆきち♪」

「なに? 最近、それハマってるの?」

「や……。なんか、そういう流れかなって……」

「全然違う」

「なっ……!?」


 ガーンと、有希はガックリと肩を落とした。


 頬を膨らませて、ポコポコと叩いてくる。


「晃くんはご主人様なんですから、そういうのは黙って受け止めるべきだと何度も言ってるじゃないですか。ばかばか」

「痛い、痛い。あはは。ごめんて」

「ううぅ。許しません」


 ポコポコと殴られていると。


「おーい」

「お2人さーん」


 正吾と白川がこちらに声をかけてくる。


「お前らの関係は隠しているんじゃなかったのか?」

「負けてる方のベンチでイチャコラ、イチャコラ。不思議ですなぁ。これで付き合ってないとか、よく言えるよ」


 2人がご立腹であり、野球部員達は見てみぬフリをしていた。


 有希は顔を赤めて、俯いた。


 確かに……。俺も有希も、気分が高揚していて、隠す気なかったな。


「ぬぁ。いけえ! 晃くん! 全員滅せよ!」


 有希はもうヤケになったセリフを吐いた。







「さて、9回の裏の最後の攻撃ですが。晃くんの打順ですね」

「解説どうも」


 さっきまでの焦りはもうなくなった有希は、もう俺との関係がバレてもどうでも良くなったのか、いつも通りになっていた。


 ここまでゲームは動かず、最終回までやってきた。


 船橋は、シンカーを投げれるので、もしかしなくても野球経験者なのだろう。7回以降も点をやらずに鬼気迫るピッチングをしていた。


 相当プライドを傷つけられたのか、迫力のあるピッチングだったけど、それを続ける代わりに、応援の女子が減っていっていた。


 どこかで見たことのある光景だと思ったら、正吾だわ。


 あいつに目がハートの女子が正吾の本性を知ると去っていく現象。それのやばい版が船橋だな。


「とりあえず、同点のホームランですね」

「とりあえず生、みたいにとりあえずホームランなんて難しいから」

「晃くんならできるでしょ。チートだし。それに専属メイドが見ているんです。それで打たないなんてご主人様失格です。ね? そうですよね? ね?」

「もう、周りに知れ渡ったからって、バフ効果がプレッシャーをかけてくるなよ」


 苦笑いをしながら俺は打席に入る。


 マウンドを見ると、最初に見た美形はどこへやら、船橋はブチ切れた顔をしてマウンドに立っていた。


「んで……。陰キャのフンが……大平とぉ……」


 殺気だっている。


 そんな俺と船橋の2回戦。


「オラァ!」


 気合いと共に放たれた渾身のストレートが。


「いっでえ!」


 俺の尻に命中した。


「あああああああ!」


 雄叫びを上げる船橋は、マウンドの土を思いっきり蹴飛ばした。


「ちょっと! 今のわざとでしょ!」


 白川が出て行こうとする勢いでベンチから飛び出そうとするのを正吾が止めた。


「やめとけって」

「だって、明らかに……」


 マウンドで悔しがる船橋を見て、ベンチに大丈夫というポーズを取って1塁に

向かう。


 今のはわざとじゃないな。


 船橋の性格上、報復するなら頭狙うだろうし、力入りすぎて内に入りすぎたって感じだ。


 なによりも、マウンドで悔しがってるのを見ると、俺を力でねじ伏せたかったのがわかる。


 まぁ、謝れやと思うが、それはあいつの性格なんだろうな。


 わざとじゃない以上、いうこともない。


 とりあえず、同点のランナーが出た。


 しかし、船橋はその後のバッターを2人抑えて、ツーアウト。


 後、1人の場面で、バッターは正吾に回ってくる。


「正吾! 俺、ケツ痛いから走るの嫌!」

「おっけー! ゆっくり帰してやるよ!」

「ゴミどもがぁ……」


 俺と正吾の会話に火が点いた船橋は、振りかぶって投げた。


 ランナー無視の振りかぶり。


 だけど、今までで1番のボールを投げた。


 9回でこの球は、サッカー部に置いておくのは勿体無いほどのボールだ。


 しかし。


 キィィィン!


 物凄い金属音が響き渡ると共に、白球はレフト方向、校舎の屋上まで飛んで行った。


 逆転さよならツーランホームラン。


「晃。抜かしちまうぞ」


 いつの間にか、後ろまで来ていた正吾が、したり顔でやってくる。


「いや。飛ばし過ぎだろ」

「自己最高飛距離」


 ブイっと言いながらピースサインをしてくる。


 呆れて俺はゆっくりとダイヤモンドを走る。


「なぁ晃」

「ん?」

「俺、やっぱり野球好きだわ」

「奇遇だな。俺もだ。だから、お前の次のセリフがわかる」

「まじで?」

「大学で一緒に野球やろうぜ。って言うんだろ?」

「へへっ。やっぱ晃と俺は相思相愛だな」

「……幼稚園から大学まで一緒だったら、もうそうなんだろうな」

「お、認めた」

「うるせーよ。ばか」

「ツンデレか?」

「ツンデレは有希と被るからやめろ」

「ほんと大平が好きだな。嫉妬しちまうぜ」

「うるせーよ。ばかたれ」


 公式戦で駄弁りながらダイヤモンドを1周していたら、絶対怒られるけど、今日くらいは許してほしい。


 だって、俺と正吾に新しい夢ができたのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと過去が吹っ切れましたか。 サッカー部は、良い噛ませ犬でしたw
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