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第7話 掃除が得意なメイド様へ感謝

「しゅ、しゅごい……」


 見えなかった……。超スピードとか、そんなチョロい単語で表せるもんじゃあねぇ。ありゃ異次元の能力だった。彼女の世界だけが加速し、その他を置いてけぼりにする能力。神をも超えた能力。妖精女王ティターニアの名は伊達じゃあねぇ。


 なんて、大袈裟なリアクションを取ってみるのも、今しがた掃除中に見つけたバトル漫画を読んでしまっているからだな。


 しかし、だ。


 人間離れした動きというのは大袈裟だが、大平有希は段取り良く掃除をしているので、気が付くと部屋が綺麗になっていっているのは事実だ。


 だからだろうな。


 俺も少し手伝おうとしたのだが、「ご主人様でしょ。大人しくしていてください」と言われてしまった。


 こりゃ、俺が手を出した方が遅くなるってわけだ。なので彼女の言いつけ通りに唯一片付ける必要性のないベッドの上で大人しく漫画を読んでいたってわけだ。


 しかし、掃除をしてくれているのに俺だけ漫画を読んでいても良いのか? という若干の罪悪感が芽生えてしまう。かといって、彼女の手伝いは作業の効率化を著しく下げるだろう。


 手伝う気持ちはあるが、なにもしないのが最善策という葛藤を脳内で起こしながら、読んでいる途中のバトル漫画を指で挟んで、そのままベッドで寝転がる。


 左肩を下にして寝転がると、弱くベッドが軋む。本当に微弱に揺れるベッドから大平有希を見る。


 黙々と掃除をしてくれている彼女は、俺の脱ぎっぱなしの服や靴下も、ジュースの空き缶やペットボトルも、いつ食べたのかわからないコンビニ飯の容器も。全部、嫌な顔1つせずにやってくれている。


 年頃の女の子が、男の物を触るなんて嫌悪感を抱くと思うのだが、彼女にはそういったものがないのだろうか。


 そういえば、学校でも掃除やゴミ出しを率先してやっているな。それは生徒会長になるための選挙活動じみた行動と思っていた。別にそれが目的でも掃除やゴミ出しをしてくれるならば俺達は特になにも思わないし、むしろ1票やるだけで掃除とゴミ出しをしてくれるならラッキーって思ってたくらいだ。


 でも違う。彼女は掃除が好きだからやっているんだ。


 俺の部屋を掃除してくれている彼女を見て、自分の考えはその人の上辺だけ見た妄想だと知る。


「なんです?」


 大平有希を眺めながら、心の中で謝罪でもしようかと思っていると、口を一文字に結び目を細めてこちらを見ているのがわかった。


 あんたは生徒会長になるために掃除してると思ってたけど、実際は掃除が好きなんだな。変な妄想してごめん。


 先程思ってたことをそのまま口に出すのは違うな。勝手に決めつけて謝るなんてバカすぎる。


「もうちょっとでパンツ見えそうだったんだけどな」

「なっ!」


 バッ!


 目を見開いて、彼女はミニスカメイド服のスカートの裾を掴んで無意識に下に引っ張った。引っ張っても伸びていないスカートを押さえながら、見開いた目は次第に険しい目つきとなり、こちらを目だけで相手の動きを止めれるのではないと言わんばかりに睨みつけてくる。


「変態っ!」


 震えながらも大きな声で短くも的確な罵倒をしてくる彼女へ1つ提案してやる。


「だから別にメイド服じゃなくても良いって言ってるのに」

「嫌です! 合法的にメイド服が着れるのに着ないバカがどこにいるのですか!」


 そんなにメイド服が好きなのね。この子はメイド喫茶が天職みたいだな。この年齢で天職を見つけられて羨ましい。


 内心で感心していると、怒った表情のままベッドにやってくる。間近で見る彼女の顔は怒りで顔が赤くなっている。


「変態行為の罰です。そこだけは勘弁しようと思いましたが、掃除させてもらいます」


 掃除が得意な大平有希は俺のことをゴミでも見るかのような目で見下しながら言ってくる。次に彼女はしゃがみ込み、膝をついた。


 反対方向に立てば余裕でパンツが見える格好。しかし、彼女は俺がそんなことをしないという自信があるのか、それとも、その行動をとった場合俺を抹消するくらいは簡単だとでも言いたいのか。四つん這いをやめなかった。


 わざわざ立ち上がって反対方向に立ち、大平有希のパンツを見ようとは思わない。


 だって、掃除してくれたおかげで綺麗になった姿鏡から、パンツが丸見えだったから。


 エメラルドグリーンのパンツ。


 鏡越しにミニスカから覗くパンツは、大自然を彷彿とさせる自然豊かな緑色。エメラルドグリーンのパンツ。深い深い綺麗な森の中、妖精女王ティターニアの名に相応しいパンツをはいておられる。 


 鏡越しだが、ミニスカメイドパンツを拝めるなんてとんでもなく良い日だ。俺の息子も大層お慶びになられており、急成長を果たしている。


 ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。妖精女王ティターニア


「なんで土下座しているのですか?」


 無意識にエメラルドグリーンのパンツをはいている妖精女王ティターニアを崇めていたみたいで、俺は正座をしてそのまま鏡に向かって土下座していたみたいだ。


「感謝の最上級……。だな」

「……? 掃除したくらいで大袈裟ですね」


 彼女は俺がパンツを崇めていることなど知る由もなく、四つん這いのままベッドの下に手を伸ばしていた。


「しかし、大袈裟な感謝をして誤魔化そうとしても無駄です。今の私に慈悲はありません。今から守神くんの恥ずかしいものを披露させてやります」


 一体、なんの話をしているのかわからないが、大平有希は勝ち誇ったかのような顔をしながらベッドの下を弄っている。


「ビンゴ♪」


 怪盗が目的のお宝を手にしたかのような、嬉しそうな声を出して、ミニスカメイド服を来たメイドはベッドの下からなにかを引っ張り出した。


 それはスポーツ様のエナメルバッグ。俺が中学の時に使用していたエナメルバッグだった。


 大平有希の体勢が四つん這いから、そのまま正座に変わってしまい、妖精女王パンツが見えなくなった。


「ああ……」

「ふふん。そのやましい声。やはりありましたか。男の子の部屋のベッドの下には恥ずかしいものと相場が決まっていますからね」


 どうやら酷く勘違いをしてしまっている大平友希は、エナメルのバッグを見せびらかしながら、勝ちを確信したスポーツ選手みたいな余裕の表情で言ってくる。


「ここだけは掃除してはいけないと思いましたがね。あなたは私を怒らせました。今更弱々しい声を出しても無駄です。容赦なくあなたの性癖を曝け出してあげましょう!」


 シュリュァアアアア


 勢い良く開かれるエナメルバッグのジッパー。両開きの扉を開くように開かれるエナメルバッグの中身。


「へ……?」


 全然予想外だったのだろう。見た目からは想像も出来ぬほどの間抜けな声を出した大平有希はエナメルバッグからその中身を取り出した。


「グローブ……?」


 彼女が持っているのは色褪せた硬式用のピッチャー用のグローブ。


 慣れ親しんだはずのグローブ。だけど使っていたのは遠い過去のように感じてしまう。


「野球部でしたっけ?」

「んにゃ」


 俺は帰宅部だ。その証拠に、始業式が終わってすぐに家にいるのが証となるだろう。


 こちらの言葉を簡単に信じて、彼女はエナメルバッグの中身を漁った。


「野球ボールと……グリス……? あとは……。え? エッチな本は!?」


 彼女はスマホのライトを照らして再度、ベッドの下を確認する。


「んなもんあるはずないだろ」

「そんな……」


 彼女は解雇されたサラリーマンみたいにがっくりと肩を落としていた。


「それを見つけて強請ろうと思ったのに」

「とんでもない考えのメイド様なこって」


 こいつも大概性格が悪いな。


 まぁ人間らしいというかなんというか。


「あ、大平。掃除ついでにそれ捨てといてくれよ」

「え?」


 こちらの言葉に耳を疑うような応答を示す。


「良いんですか? これだけ大事に使ってた形跡ありますけど」

「いやいや。ベッドの下で放置してたんだよ。大事なものなんかじゃないさ。捨てといて」


 なんとか簡単に言ってのけることに成功したと思う。これだけは残しておこうと思ってベッドの下に置いていたのだが、もう潮時だろうよ。時が来たのだ。


「わかりました。捨てておきますね」

「ありがとう」


 これも何かの縁だ。


 自分で捨てるよりも彼女が捨ててくれるのはありがたい。自分で捨てるのはやっぱりちょっと辛い。でも、いつまでも残しておくと未練が残るだけだ。だから、大平有希へ、本当のありがとうを送る。


 これで本当にスッキリしたって言える……かな……。

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