第68話 お家で勉強会
有希とクリスマスを過ごせる。
そう思うだけで心が躍る。
周りの目を気にせずに本当に踊り出しせそうな気分だ。ソーラン節がかかったら、自慢の引きを披露できそうである。いや、まぁ、そんなことしたら有希に引かれてキャンセルされそうだからやらないけど。
だが人生、楽しいことだけではないのが現実。
心躍るイベントの前に訪れる壮絶な壁がある。その名も期末テスト。
期末テスト前となったので、部活動は原則禁止。全員、家で大人しく勉強しろということだろう。
そんな時期なのに俺のメイド様は、ガンガンシフトに入っているみたいだがね。それで成績1位になるんだろうから、心底尊敬する。
「ねぇねぇ、大平さん。守神くん」
休み時間に、トコトコとミディアムヘアを揺らしてやってきたのは白川琥珀。
美少女同士は引かれ合うのか、ここ最近、有希と白川が一緒なのを良く見かける。
「期末も近いし、中間の時みたいにみんなで勉強しない?」
白川の誘いに俺は一旦、有希を見る。
彼女も俺と同じ思いだったのか、ガッツリと目が合ってしまう。
そして、慌てて視線を逸らすと、有希が先に答えた。
「私は大丈夫ですよ。こぉく……ん、こんこん」
学校では名前呼びをしないルール。しかし、名前呼びに慣れてきて、最近は破綻しかけている。今のも完全にアウトだろう。晃くんって聞こえたもん。そこを無理くりに誤魔化して意味不明な語尾になっていた。
「キツネ?」
いけたわ。今のでかわせたわ。今のは確実に晃くんと呼んだのにいけたわ。
てか白川。お前は恋ばなに鋭い奴なのに、なんで今のは気がつかないんだ。
「最近、キツネにハマっていた時期が私にもありました」
「過去形?」
「はい。今、飽きました」
「はやっ」
なんか、最近この2人仲良いんだよな。なんかあったのかな?
俺としては、美少女2人が仲良いなんて、アイドルくらいでしか見たことないから、学校でこんな光景が見れるなんて嬉しい限りなんだけどな。
「晃くんは大丈夫ですか?」
「……」
今の誤魔化しをチャラにする発言に、有希も気が付いたようで、壮大にキョドりだす。
「あ、あわ、わわ……」
口を魚みたいに、パクパクさせて声を出せずにいる姿は、頭が真っ白になっているんだろうな。
もう、ここまで来たら白状して──。
「守神くん、いけそ?」
なんでバレてないん?
や、今のは、バレるやん。完全にアウトやん。もう、モロやったやん。誤魔化しも効かんやん。
あんた、あんなに鋭い探偵みたいだったのに、今日はどうしたん? 耳にパン屑でも詰まってるんか?
いや、待て……。もしかしたら、気がついていないふりして、俺たちを泳がせて遊んでいるということも……。
「ん? どうかした?」
純粋な瞳を疑ってごめんなさい。あんた、美少女よ。アイドルになったら握手会めっちゃ行くわ。
「あ、いや。俺もいける。大丈夫」
「やた。それじゃ、近衛くんも誘っておくね。近衛くんも、守神くんが来るなら、来るでしょ」
正吾の扱いをわかっておられる白川は、それだけ言い残して、「それじゃ」と言って、正吾のところへと向かって行った。
「……なぁ」
「言わないでください。今、壮大に反省しております」
俺がなにを言おうとしているか察して、気まずそうに視線を逸らしている。
「いや、俺としては名前で呼んでもらうのは嬉しいんだけどさ」
「嬉しいんです?」
途端、パッと顔を上げて言ってくる。
「あー、その……」
「今、嬉しいって言いましたよね? 言いましたよね?」
なんで俺が攻められているのだろうか。今の状況って、俺がこいつを攻めるところだと思うのだが……。
「てか、あれだな。白川のやつ、ガッツリと名前呼びしたのスルーしてたな」
ここは、俺も攻めないからお前も攻めてくるな、作戦で行こう。
「そうですね」
有希も察してくれたのか、簡単に作戦に乗ってくれた。
「白川さんも、色々とあるみたいで、少し余裕がないのかもしれませんね」
「色々?」
言われて、そういえばこの前、有希に何かを相談していたな。
「はい。女の子には色々あるのですよ」
「へぇ」
恋の悩み的な感じかな。あんな美少女でも恋で悩んだりするのだろうか。男には困らないと思う容姿と性格だが。
「まぁ、彼女の場合は女の子というか、なんというか……」
ゴニョゴニョと聞こえない程度に呟くと。
「乙女には色々とありますよ」
乙女だけではなく、みんな色々とあるだろう。
俺だって、有希だって、色々とある。
あまり詮索するのは良くないだろう。
♢
「おっじゃましまーす」
俺の家に白川琥珀の元気な声が響き渡る。
「いやー。晃の家って、なんか久しぶりな気がするな」
正吾がいつもの声が聞こえて。
「お邪魔します」
有希が最後に俺の家に入ってくる。それにはもちろん理由があり、彼等がいきなり押しかけた訳ではない。
少し前。マックスドリームバーガーで勉強をしようとしたところで席が満席であった。場所を変えて、ファミレス、カフェ、その他諸々──。勉強をしようとした日に限って店が満席。
このままでは、せっかくの勉強会ができないので、仕方なく俺の家に招待することにした。元々、正吾は俺の家に頻繁に来ていたので抵抗はないだろう。
白川的には彼氏の家でもない男の家に上がるのはどうかと思ったが、ノリノリで行きたいと言ってくれた。
有希は難しい顔をしていたが、場所がないので仕方なしと言ったところだろう。
「まぁ、いつも掃除はしております。ですので、私達の関係がバレることは、万に一つもないでしょう」
全員の靴を揃えながら有希へ、「ありがと」と礼を言うと、「いえいえ」と返事をくれる。
「まぁ、俺と有希が一緒って形跡の物はなにもないもんな」
「……なんだか、それはそれでいやですね」
むすっと、拗ねたような声を出す有希は切り替えるように俺へ注意を促してく
る。
「くれぐれも私達の関係は内密にしてくだい」
「いや。それはこっちのセリフだわ。切実にこっちのセリフだわ」
「……」
大事なのことなので2回言うと、視線を逸らされる。
「ほら、玄関で突っ立ってると怪しまれます。早く行きましょう」
誤魔化すように言う有希の言葉は的を射ている。確かに、こんな所で突っ立っていること自体が怪しまれる。
『これが男の子の部屋かぁ』と白川の声が聞こえてくるので、俺と有希も部屋の方へと向かった。
有希が掃除してくれてる部屋だから余裕の心で部屋に入った。
瞬間。
俺の余裕の心は死んだ。
有希も部屋に入った瞬間、驚愕の顔になる。
窓のカーテンのところに、メイド服が掛かってあった。
「万に一つのバレる形跡あるんだけど」




