第64話 初恋は高校2年生
ストライクアウトにも種類がある。
ほとんどが9枚で構成さえれたものになる。
ピッチャーは9分割に投げ分けろ、なんて王道的指導から成り立つものだと思われる。
その他に、18枚のストライクアウトを置いている店を見たことがある。
どんだけ量があるんだ、と思ったな。
しかし。
まさか、その上が存在するとは思いもしなかった。
「27枚……」
なんの冗談だよ。と言うか、端っこの方はデッドボールじゃねぇかよ。
これを作ったやつは絶対にふざけて作りやがったな。
「29はないんですね」
一緒にゲージに入った有希が、ストライクアウトのパネルを見て声を漏らした。
「ん?」
「あ、や、その……」
無意識に声を漏らした様子で、こちらの反応に、パタパタと手を振っていた。
「ええっと……」
なんて言い訳をしようか考えている様子の彼女へ問いかけた。
「もしかして、誕生日の日にちとか?」
観念したかのように、コクコクと頷いて肯定する。
「1月29日?」
「や、2月29日です」
つい言ってしまったと言わんばかりに、口元に手を持っていき、抑えているが、もうこちらの耳に彼女の誕生日が届いてしまっている。
「へぇ。閏年なんか。生徒会長が4歳だなんて知ったらみんな驚くぞ」
「もう! そういうイジられ方するから誰にも教えてなかったんです!」
あはは、と怒っている彼女を見て、笑ってしまう。
ん?
ふと、彼女の言葉を思い返した。
「誰にも言ってないの?」
「祝ってくれる人なんていませんからね。言う必要もありません」
それは比喩表現ではなく、家族含め、本当に今まで祝われたことがないということだろう。その証拠に、彼女の表情はどこか寂しげだ。
「私の誕生日なんてどうでも良いです。さ、早く始めてください」
「へいへい」
コインを投入する機械へ、400円を投入する。
バッティングゲージの時と同じように、『プレイボール』だなんて、機械音声が開始を宣言してくれて、地面からいきなり、軟式のA球のボールが飛んでくる。
「軟式か」
そりゃ、硬式のバッティングセンターなんてあまり聞いたこともないから仕方ない。
「なにか違うのですか?」
「俺も詳しい違いなんて説明できないな。柔らかいとかそこら辺かな。ただ、俺はガキの頃から硬式野球しかしたことなかったから、違和感しかない」
「カッコ悪いところ見せてしまった時の言い訳?」
「うるせ」
ここはマウンドみたいに足元にプレートがある訳でもない。なので、キャッチボールをするみたいに、軽く投げてみる。
『ストライクッ!』
軽く投げると、12番のパネルを射抜くことが出来た。パネルと言っても電子パネルなので、その数字が消えるだけだけど。
「おお!」
パチパチと可愛らしい拍手を送ってくれる。
長いこと野球してなかったけど、案外投げれるもんだな。ま、27枚もあれば適当に投げてもどれかに当たりはするか。
「98kmって速いんですか?」
ストライクアウトの上にある電光掲示板はどうやらスピードメーターになっているようで、そこの数字に98kmと表示されていた。
「高校生だと遅いな」
「では、次は160kmを目指しましょう」
「無茶言うな」
どこの二刀流のメジャーリーガーだよ。
「さ、次は何番を狙いますか?」
有希が急にアナウンサーみたいな口調で聞いてくるので、甘んじてそれに乗っかってやる。
「14番」
「14番! さぁ注目の第2球!」
彼女の実況に合わせてボールを投げると、14番とは程遠い、3番のパネルに当たった。
「ああー!」
「それ、外れた時のリアクションでは?」
「外しましたね」
「いや、当たっただろ」
「なので、晃くんには恥ずかしい過去を語ってもらいましょう」
「え!? 当てたのに!?」
「宣言通りじゃないとダメです」
「鬼畜ルールが過ぎるだろ」
こちらの声を無視して、「どうぞ!」なんて催促してきやがる。
しかし、恥ずかしい過去ってのはなにを言えば良いかわからず黙り込んでしまう。
「しょうがないですねぇ」
やれやれと、ため息を吐かれてしまう。
「では、私が質問をしますので、答えてください」
「ああ。じゃあ、それで」
「では、ジャジャン」
テンションが上がっているのか、有希らしかぬ、お手製サウンドエフェクトを放ち、質問をしてくる。
「ズバリ! 初恋はいつですか!?」
「初恋?」
「そうです。初恋です。あ、幼稚園のエミちゃんとかなしですよ」
「誰だよ。エミちゃん」
「物心ついた時に、ガッツリ、その子のことしか考えられないくらい好きになった相手のことです!」
そう言われても、そんな相手のことは1人しか思い浮かばない。
「高2」
「……へ?」
間抜けな声をいただいて場に沈黙が訪れる。
「ず、随分と、遅い初恋、なんですね」
「悪いか?」
「いえ……。そんなことは……。えと、それって……」
「おいおい。質問は宣伝を外してからにしてくれよ」
「あ、は、はい。それも、そうですね……」
気を取り直して有希が、「次は何番です?」と聞いてくる。
「1番」
♢
「……あのぉ……。もう、晃くんがチートキャラなのは十分に理解しました。なので、質問させてくれません?」
「おいおい。生徒会長たるものが、ルール変更か?」
「ぐぬぬ……」
悔しそうな顔をして見せる有希。負けず嫌いだが、自分からけしかけた勝負事でルールを変更するのもはばかれるといった様子であった。
あれから俺は意地になり、宣言通りのパネルを射抜きに射抜いた。
流石に26枚全て宣言通りというのには自分でも驚いたがな。
どんだけ有希の質問に答えたくないんだと、自分でもツッコミをしてしまう。
26球も投げたので、肩が大分温まったラスト1枚。
「最後は13番。ど真ん中だな」
「それ外したら、初恋の人の名前教えてください」
「……わかった」
ピッチャーがかなり不利な条件を突きつけられたが、アドレナリンが大量に出ている俺は甘んじてその挑戦を受けて立つ。
「肩も温まったし、全力でいくわ」
「全力って……。確か、怪我して?」
「もう完治はしてるから大丈夫。それに、有希との勝負。全力出さないと失礼だろ」
俺はワインドアップ、大きく振りかぶって、お得意のストレートを放つ。
縦回転ではなく、ドリルが回転するような、ジャイロ回転で放たれたボールは、そのまま吸い込まれるように、13番のパネルを射抜いた。
『ストライクッ! バッターアウウ! パーフェクトゲーム!』
「135km出てますよ?」
電光掲示板には、135kmの数字が表示されて、有希が色々な意味で引いていた。
「全盛期はもっと速かったんだけどな」
「あっ、そうですか……」
『パーフェクトおめでとうございます。こちらを受け取り、豪華賞品をお受け取りください』
機械音声が、コインを投入したところから、なにやらお釣りみたいに何かを吐き出した。
有希の方が投入機に近かったので、見てみると、唖然とした顔をしていた。
俺もそちらに駆け寄り見てみると。
「豪華賞品ね」
それは、野球ボールのキーホルダーだった。どっかで300円で売ってそうな、安っぽいキーホルダーだ。
「ぷっ……」
つい、吹き出すと、有希もつられて大きく笑い出す。
「豪華賞品がこれですか」
「んだよこれ。く。あはは!」
お互い、腹を抱えて笑い、落ち着いたところで有希に言ってやる。
「それ、やるよ」
ええ。いらないですよ。
そう言うと思ったが、彼女はそのままキーホルダーを握りしめた。
「では、遠慮なくいただきます」
「……良いの?」
逆に貰ってくれることに感謝するレベルなのだが、彼女は嬉しそうにカバンにキーホルダーを付けた。
「もう、返してって言っても返してあげません」
「別に良いよ」
野球に興味持ち出したって言ってたし、もしかしたらそういうグッズを集め出したのかもしれないな。




