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生徒会長の秘密を知ったら専属メイドになってくれました  作者: すずと


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第62話 有希の過去

 タブレット注文をしてから、有希はキョロキョロと店内を見渡しては、「はぁ」とため息を吐いた。


「どうかした?」


 なにが不服なのだろうか。


 店内は可愛い猫ちゃんの顔をした掃除ロボットが、セクセクと掃除してくれて綺麗だし、他の客もほとんどいないので、静かな店内だし、店員さんも別になにも悪くない。


 なのに、どこか納得いっていないというか、不服そうな顔をしている。


「あ、すみません。空気悪くしてしまいましたよね」

「いや、全然大丈夫だけど」


 料理はまだ来ていないから、俺にはどうして有希が不服なのか理解が追いつかない。


「私が食べたいと言って、晃くんが付いて来てくれたのに、こんな態度ではいけませんね。すみません」

「なんか嫌なところでもあった?」


 聞くと、慌てて手を振ってくる。


「いえ! 決してそんなことはありません。お店も綺麗ですし、猫ちゃんの掃除ロボットも可愛いですし。良いお店ですよね」

「ほぉあぁ?」


 店を褒めているのに、どうして不服そうなのか更にわけがわからなくなり、頭の上に?が大量に飛んでいく。


 こちらの疑問の念に気が付いた有希が理由を話してくれる。


「もっと汚くて、わいわいとしているのを期待してしまいまして」

「へ?」


 明後日の方向にでも飛んでいきそうな回答に、心底変な声が出てしまった。


「これだけ言うと語弊がありますね」


 前置きをして、「実は……」と説明を開始してくれる。


「今でこそ、マックスドリームバーガーは有名になりました。そのおかげで、大平フーズは大企業となりましたが、それはお父様が1代で築き上げたもの。マックスドリームバーガーは、先代である私のお祖父様が作ったお店なんです」


 由緒正しき家系だと思ったが、そうではなく、有希のお父さんがたった1人で会社を大きくしたのか。それは凄い努力だったのだろう。


「お祖父様のお店は、それはそれは汚くて、なんだか色々な匂いが混ざっているのですが、嫌いじゃなくて。それに、温かい常連さん達で毎日楽しそうにお店を切り盛りしていました。あの時のお店が私は大好きで……。それでね、私に出してくれるハンバーガーが私の顔より大きくて、それがおかしくって」


 懐かしむように語る有希は楽しそうにしているが、すぐに悲しそうな顔になる。


「しかし、元々体の弱かったお祖父様は若くして他界してしまいました。店を継ぐことになったお父様は、人が変わったように金儲けしか考えない店づくりにしてしまい……。結果とすれば、大企業にまで肩を並べたのですから、お父様は相当優秀な経営者なのです。しかし、その代償に色々なものを失った気がします……。そして、お母様はそのお金で外で遊びたい放題……」


 高校生の俺にはなんて答えていいのかわからない。よく両親は俺に、『よそはよそ、うちはうち』なんて言ってくるが、その規模が違いすぎて、沈黙しかでない。


「以前にも言ったかもしれませんが、私が両親が嫌いなのはそれが理由です。嫌がらせとして他のハンバーガーを食べまくっているのも、それが理由です」


 そういえば、前に、ハンバーガーの心得はあるって言ってたな。


 こちらがなんと答えたら良いかわからずに、うんうんと頷くだけしていると、有希がハッとなり頭を小さく下げる。


「すみません。料理を食べる前にこんな愚痴を言ってしまい」

「ううん」


 首を横に振った。そして、素直な感想を言う。


「有希のことを知れたから嬉しいよ。それが愚痴だったとしても、なんでも良い」


 彼女は視線を逸らして、少しだけ顔を赤くしてみせる。


「そ、そうです? だ、だったら、また今度、オールで愚痴を言っても良いんですか?」

「一緒にオールするのか? だったらお菓子大量に買わないと」

「あ、いや! その……」


 珍しく口を、ぱくぱくして、「うう」と睨みつけてくる。


「なになに?」

「なんでそんなに余裕なんですか。もう」


 有希には俺は余裕に見えているらしい。こちとら手汗ぎっしりで、冬なのに脇汗もやばいくらいだってのに。


「お待たせしましたー!」


 彼女が怒っていると、注文したラーメンが届いた。


 俺と有希の前に、コテコテのコッテリスープは入った、ラーメンが置かれる。嗅ぎ慣れた美味しそうなコッテリラーメンは、匂いだけで俺の胃袋への催促を爆速させる。早く食べろと胃がうねりを上げるように鳴り響いた。


有希は、初めてのラーメンを見て、思っていたのと違うと言いたげな顔をしていた。


「お客様。これをどうぞ」

「あ、ど、どうも、ありがとうございます」


 しかし、店員さんに声をかけらて、いつも通りの表情へと戻る。


 店員さんが彼女へ何かを渡し、彼女はそ素直に受け取っていた。


 有希は受け取ったものを髪の毛にくくりつける。どうやらヘアゴムを借りたようだ。


 そういえば、テーブルに、『女性のお客様へ、ヘアゴムを貸し出しております。使ったものはこちらへ』と書いてある。


 彼女は手慣れた様子でヘアゴムをして、あっという間に見事なポニーテールを作った。


「……」


 プラチナのポニーテールとか、どんだけレアで可愛いんだよ。


 って、口を、ポカンと開けて見惚れてしまう。


 と言うか、この子、どんな髪型でも似合うなんて、美の申し子がすぎるだろう。


「? 食べないのですか?」

「あ、や、うん。食べますよ」

「もしかして……」


 ニヤリと笑って覗くように俺を見てくる。


「おまじないして欲しいのですかぁ?」

「は、はぁ?」

「ダメダメー。あれはお家だけですよぉ? こんなところでもおまじないが欲しいなんて、どんだけ、萌え萌えキュンして欲しいんですかぁ?」

「い、いや、そんなことは……」

「まぁ? どうしてもって言うならしてあげなくもないですが? どうします? します?」


 ラーメンに萌え萌えキュンはいらないな。


 それに……。


「やるなら有希の手料理が良いな。そっちの方が美味しさ倍増するし」

「えっと……」


 有希が後ずさるような弱々しい声を出した。


「ストレート過ぎるんですよね……。うちのご主人様は……」


 ボソボソと言っているので首を傾げると、「なんでもありません!」と若干怒ったような口調になる。


「さ! 早く食べないと麺が伸びますよ」

「だな」


 お互い、いただきますをして、天一のコッテリラーメンをいただくことにする。


 まずはレンゲでスープをすくい飲む。


 かなりドロッとしたクリーミーなスープは、飲むと言うよりも噛むと表現しても良いのかもしれない。それくらいに濃厚スープ。鳥がらや野菜をとことん煮込んだ自伝のコッテリ濃厚スープ。


 続いて麺を箸ですくって、ラーメンの正しい食べ方と言わんばかりに、ずずず! と勢い良くすする。

 だが、濃厚コッテリスープを存分に吸っている面は、普通のラーメンよりも、麺にブレーキがかかり、思うように吸えない。だが、それが良い。その分、麺にうまみ成分たっぷりの麺となりて、我が身へと吸収される。


 うまい……。


 しみじみと思いながら有希の方を見ると、音を立てずに頑張って麺をすすっている。しかし、バキュームが足りないのか、濃厚スープを絡んだ麺はブレーキがかかっているみたいで、なかなか思い通りへと吸えない様子。


 正直、頑張って、チューチューしてるのが可愛くて、微笑ましい笑みで見守ってしまう。


 幼い妹を見る兄の気分で有希を見ていると、こちらの視線に気が付いて、睨んでくる。だが、今の彼女の睨みつけるという行動が愛らしくも感じる。


 カルボナーラを食しているみたいに、ようやくの1吸いを終えて、若干の達成感を見せた。


「なんですか? ジロジロと見て」

「んにゃ。べっつにー」

「ラーメン初心者をバカにしています?」

「バカにはしてない。あ、ほらほら、早く食べないと麺が伸びるぞ」

「……それもそうですね」


 食べるのを急かすと、有希は素直に麺をすすった。


 うーむ。銀髪ポニーテール美少女メイドがラーメンをチューチューしている姿はなんだか異常な背徳感があるな。


「おいしい?」


 有希へ聞くと、一旦、箸を置いてから、口元を丁寧におしぼりで拭いて答えてくれる。


「濃厚なスープに絡む麺が私の体へ直接響きわたるような感じがします。思っていた味と違いましたが、非常に美味しいです」

「良かった」


 こちらの返答に有希が更に睨みつけてくる。


「どうして晃くんが喜んでいるのですか?」

「そりゃ、俺が好きなラーメンを美味しいって言ってくれたら嬉しいだろ」

「その気持ちはわかりますが、どうしてそんなに微笑ましいものを見ている雰囲気を出しているのです?」

「え? そう?」

「そうですよ」

「まぁまぁ。早く食べようぜ」


 答えずに箸を進めることを促すと、どこか納得のいっていない様子でラーメンをすすっている。


 どうやら俺は、有希の食べている姿も好きらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔の天一通信に、野菜などたっぷり煮込んだ天一のスープは、風邪の時に効くとか書いてあったw 体に染み渡るのは、たしかにそうなのかもしれない。
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