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生徒会長の秘密を知ったら専属メイドになってくれました  作者: すずと


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第21話 メイドと過ごす朝

 ピンポーン。


「んぁ……?」


 早朝の部屋に響き渡るチャイムの音は、夢の中の俺を容赦なく現実世界に引き戻す。


 どんな夢を見ていたかなんて今の時点でもう覚えてもいない。素敵な夢だったのか、それとも悪夢だったのか。どちらだったとしても、強制的に起こされたのは悪夢の続きなのでかもしれない。


 半分も覚醒していない、眠たい瞼をこすりながら、ベッドの枕元に置いてあるスマホをなんとか手に取り、画面を明るくする。まだ光に慣れていない目は開けることが困難で、半目で確認をする。


「ろく……じ……。にじゅーな、な……」


 スマホの時報は6:27を刻んでいるみたいだ。


 こんな時間からなんの冗談だ? 誰だよ。悪戯か? 悪戯にしたらコアな悪戯である。


 ピンポーン。


 どうやら悪戯ではなく、本気で早朝の俺に用がある人物がいるらしい。


 音から察するに、俺の部屋の玄関にあるインターホンを押している。マンションの玄関口にある、部屋番を押すインターホンの音は、テュルル、テュルルだ。


 つまり、インターホンを押している人物は既にマンション内に入っているということ。こんな早朝からマンション内にいるということは、マンションの住人。つまり……。


 ピンポーン。


「勘弁してくれよ……」


 大体、誰だか予想ができ、まだ半分しか覚醒していない脳みそを頑張って活動させながらベッドを出る。


 普段ならまだ夢の中をさまよっている時間に、自分の家の廊下をさまようように歩く。ふらふらと、ようやくと玄関を開けた先。


 そこには、朝日を浴びて凛と立つ銀髪の妖精が立っていた。


「おはようございます」

「朝からなんの冗談だよ」


 朝1番に美少女を見れて男冥利に尽きると言いたいところだが、今の俺の大罪は、色欲ではなく怠惰だ。今すぐにベッドに戻り、2度寝の快楽を味わいたい。


「約束したではありませんか」

「約束ぅ?」


 男が美少女と約束をしたのなら忘れることはないだろう。だから自信を持って言い切れるが大平有希と早朝から約束なんかした覚えはない。もし、仮に約束をしていたとしても、俺は朝が弱いので、約束をするとしても昼以降だと思う。


「もう忘れたのですか?」


 やれやれと呆れた様子で言われてしまい、すぐに回答を受け取る。


「食費。折半するかわりに毎日料理する約束でしょ?」

「あー」


 寝ぼけている頭でも、その約束のことは覚えている。昨日、昼休みに生徒会室でした約束だ。あの提案は俺に取っても非常にありがたい案件なので、忘れるはずもない。


 ん?


「あれって晩飯だけじゃ?」

「食費なんですから。朝、昼、晩、でしょ?」

「そうだったんだ……」


 口をぽかんと開けて間抜けな顔を披露してしまう。


 こちらはてっきり晩御飯だけかと思っていたので、なんとも予想外な展開だ。


「まぁなんにせよ、中に入れてくれます? 朝ごはん作るので」


 言いながら半ば強引に中に入って来る。


 なにか悪いことをしようと強引に入って来ようとしているわけではないので、素直に彼女を招き入れる。


 もう慣れたような足取りで俺の部屋まで来ると、スクールバッグを部屋の隅に置いた。スクールバッグを開けると中から、可愛いネコのエプロンを取り出して、慣れた手つきで身に着ける。


「朝ごはんの要望はありますか?」

「玉子焼き食べたい……」


 まだ完全に覚醒していない頭でも、食べたいものを聞かれてすぐに出てきた答えがそれだった。


「わかりました」


 簡単に答えて大平有希は俺のキッチンにある冷蔵庫を開ける。すると小さく肩を落として苦笑いを浮かべた。


「この家の冷蔵庫は歯磨き粉だけでしたね」


 そう言って彼女は歯磨き粉を手に取り、こちらに投げてくる。それを反射的にキャッチする。


「食材を家から取って来ますので、歯を磨いて待っていてください」

「ふぁい」







 言われた通り、歯を磨いて、顔を洗って、ようやくと脳が覚醒を果たす。


 いつもより1時間半も早い脳の覚醒である。


 大平有希はその間に、あっという間に朝ごはんを作ってくれたみたいで、俺のコタツテーブルの上に朝食を並べてくれる。そこには注文通り、綺麗な玉子焼きがあった。


「うまそうだな」

「さぁ、食べましょう」


 言いながらお互いコタツテーブルに向かい合うように座る。並べられた朝食を、互いに手を合わせていただきますをしてから食べ始まる。


 まずは、注文した玉子焼きをいただくことにした。


「どうです?」


 少し、心配そうな瞳でこちらの食事を見守る大平に質問をされる。


「美味しいな。甘くて、すごく好みの味」

「良かった」


 ホッと安堵の息を吐くと、大平有希も玉子焼きを食べた。


「玉子焼きって好みが人それぞれですからね。難しいんですけど、お口に合ったのなら良かったです」

「うん。これなら普段朝を食べない派の俺でも毎日食べたいな」

「大丈夫ですよ。毎日食べれますから」


 言われて箸が止まる。


 今のは見ようによっちゃ、毎日お味噌汁を作ってくれに似たプロポーズと捉えられるかもしれない。だが、今はそれよりももっと重大なことがある。


「毎日って……」

「あ、守神くん。エプロンは明日も使うのでここに置いておいても良いですか?」

「明日も来るのか」

「契約ですからね」


 淡泊に答える大平有希は、「良かったじゃないですか」と他人事みたいに言ってのける。


「学校が近いからっていつも、ギリギリまで寝ているんでしょ? これからは毎日この時間に起こしてあげます」

「鬼」

「女神の間違いでしょ? 早起きは三文の徳とも言いますし、早起きは気持ちが良い物です。こんな女神みたいなメイドに毎朝起こしてもらって朝ごはんも作ってもらえるなんて、宝くじに当たるよりも難しいかもしれませんよ?」

「自分で言うなよ……」


 美味しい玉子焼きを食べているはずなのに、大きなため息が出て憂鬱な気分になる。これから毎日、この時間にやってくるのか。早朝の6:30に? どこの朝練だよ……。


「食費はちゃんと払うから、朝はなしとか」

「契約違反です。却下」

「せめてもう少し遅くとか」

「これ以上遅いとご飯を作る時間がなくなるし、あなたの性根を叩きのめせないので却下です」


 あ、これ、最後の奴が本音だわ。このメイド、俺の自堕落な生活を叩きのめそうとしている。やだ、怖い。


「不幸だ」

「幸せの間違いでしょ♪」

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