第124話 結局両親ってカオスなんだよね(偏見)
閑静な住宅街の一角に実家はある。
自分で言うのもイヤらしいが、家はそこそこ大きい。俺の心が折れてしまった時、1人暮らしをさせてくれるくらいには裕福な家庭である。
もし、1人暮らしをしていなければ、有希と出会うこともなかったし、心が回復して、再度夢を描くこともできなかったと思うと、両親には感謝しかない。
心の中では感謝でいっぱいだが、父さんに会うのは久しぶりである。
あの人も忙しい人で特殊な仕事をしているので、中々会う時間がない。
なんていうのは言い訳だ。
人間、会おうと思えばいくらでも会える。連絡を取れば良い話である。
向こうから連絡をないことを言い訳に、会うのが億劫になっていただけだ。
本当に感謝はしているが、仇で返している感が否めない。
怒ってるかな……。ちっとも帰って来ない息子に激おこかな。いや、それはないか。
「晃くん?」
玄関の前で突っ立っていると、一緒に実家に帰って来た有希が名前を呼んでくれる。
「入らないのです?」
「あ、ああ」
流石は生徒会長、妖精女王の異名を持つ有希。
俺の実家のはずなのに俺の方が緊張してしまっている。
有希は、いつも通りの落ち着いた様子で、長い銀髪を耳にかけて凛と立っていた。
アウェイの彼女が平常心で、ホームの俺が緊張していたら格好がつかない。
俺は深呼吸をしてから、気合いと共に玄関のドアを開けた。
「ただいま」
見慣れた玄関だが、やけに久しぶりな気がする光景に向い、帰ってきた挨拶をする。
「たのもー!」
「たのもー!?」
有希が道場破りよろしくの挨拶をしやがった。
もしかして緊張してる?
「なにやつだ!?」
久しぶりの中年男性の声が聞こえて来たかと思うと、奥の方から大男が、ドスドスとやって来て、そのままでんぐり返しで俺達の前に現れる。
「これはこれは姫ではありませんか! あっしは配管工の服部半蔵。囲碁しません?」
意味がわからないが、中年の状況だけは理解できた。
こいつ、めっちゃ酒飲んでる。顔真っ赤だ。
「します」
「有希。ノらなくて良いから」
「二歩にしてやるぜ」
「あんたは囲碁の勉強してから誘えや。それは将棋だわ」
「あ、やべ。今のでんぐり返しで吐きそう」
なんなの? このカオスな中年。
「おかえりなさいませー!!」
「ぶっ!」
次にやって来たのは、メイド服を来た中年のおばちゃんだった。
ただ、マニアックな人には差さる。でも俺からしたら親がメイド服でやって来たら吐きそうになった。
「きゃあ! 美咲さん! そのメイド服、とっても可愛いですー!!」
ここに差さる人がいたわ。
「きゃあ! 私服の有希ちゃんまじ至福!」
「ありがとうございますー!」
ピョンピョンと飛び跳ねる女性陣。
「ちょ、まっ! 揺らさないで! 三半規管弱いんや!」
1人酔っ払いが吐きそうになっていた。
なんなん。このカオスなお出迎え。
♢
玄関でカオスな状況は終わったかと思ったのに。
「まずはおかえり晃。そして、よく来てくださいました大平さん。自分の家だと思ってくつろいでください」
「そうよ有希ちゃん。遠慮はいらないからね」
「ありがとうございます。お義父様。お義母様」
有希のきっちりとした礼儀に母さんのボルテージが上がる。
「ちょっとちょっと。今の明らかに、義理のお父さん、お母さんの呼び方だったわよ」
「晃……。こんなに美しくも礼儀ができている女性を連れてくるなんて、父さん、鼻が高いぞ」
「無理無理無理! 入ってこん!」
我慢できずに俺は声を荒げて、バンっとダイニングテーブルを叩いた。
リビングのダイニングテーブルに、4人が囲む形で座っている。目の前に父さんと母さん。隣には有希の席順だ。
それだけ聞けばなんの変哲もない光景。
だが、その実態は……。
「なんで全員仕事着着てんだよ!?」
そうである。
有希と母さんはメイド服を着ており、父さんは野球のユニフォームを着ていた。
「てか、この状況で仕事着を着ていないプー太郎がいるんだけどー」
「だな。我が息子ながらに恥ずかしい」
「やべー両親が俺のことを恥じてくる。死にたい」
だけど、俺だけ働いていないのもまた真実。2重の意味で死にたい。
「大丈夫ですよ晃くん。プー太郎だったとしても私が養いますから」
「有希……」
「晃くん……」
俺達のやり取りに両親が、コソコソと喋り出す。
「おいおい。こいつらシラフだよな?」
「そうね。シラフでこれなら孫の顔を見るのも早そうね」
「え? やっぱ付き合ってるの? この恐ろしいくらいの美人と? まじ?」
「そりゃそうでしょ。見てみなさいよ、あの距離感。恋人でも中々行きつかない聖域よ。ピチピチのズボンよりピチピチよ」
「やべー。孫の顔絶対整うやん。神様の最高傑作の孫が爆誕するやん」
「おい、酔っ払いども。全部聞こえてるぞ」
ちなみに、ダイニングテーブルの上には、500ミリリットルのビールの空き缶が6本あった。平日の昼間から飲みすぎだろ。
「あの、お義父様?」
「は、はい。なんでしょうか、大平さん」
この恐ろしいくらいの美人と付き合っているとわかり、いきなり緊張した声を出す酔っ払い。
「その格好が仕事着ということは……」
「ええ。ご察しの通り、プロ野球の2軍投手コーチをしておりやす。はい」
「コーチ!?」
嘘ですよね? と言いたげな顔して有希が見てくるので、俺はゆっくりと首を横に振った。
「それが、まじなんだなぁ。こう見えても元プロ野球選手だし」
「へへ。ピースピース」
「これが!?」
「信じられないかもしれないが、これが元プロ野球選手なんだ……」
「はへぇ……。世の中は摩訶不思議とは言いますが、こんな中年でんぐり返し配管工の服部半蔵がプロ野球選手なんて……」
「この子めっちゃ言うやん……。辛くなった。死にたい」
俺の豆腐メンタルは親父譲りなんだよなぁ。
「うん。てか、正直、んなこたぁどうでも良いんだよ。俺は進路の話をしに来たんだ」
本来の目的を話そうとすると、父さんが舌打ちをしやがった。
「は? んでそんな面倒なこと話さないといけねんだよ。べらぼうめ」
「そうよそうよ! 今は晃の進路なんてどうでも良いわよ! それよりも飲みましょう!」
「未成年の飲酒は法律で固く禁じられております」
「じゃ、2人共ジュースで酔え」
「新しいタイプのアルハラだな」
「母さん! こいつらだめだ! ストゼロまいとけ!」
「塩まいとけみたいな言い方すんなよ」
「晃。有希ちゃん」
冷蔵庫からストゼロを2本持って来た母さんが優しく俺達に問いかける。
「問題です。ベロンベロンの私達がストゼロを飲みました。どうなるでしょうか」
「答えは!」
父さんと母さんが問いに対して、実演してくれる。
「「死亡!!」」
2人はテーブルに突っ伏して寝てしまった。
「なんなの!? この両親!?」
「羨ましいです」
「有希!? 正気か!?」




