第117話 ノリの良いクラス
高校2年生も、段々と終わりが近づいてきている2月の下旬。
もうすぐ3月になろうとしているのに、未だに寒い日が続いている今日この頃。
日本全体が凍っており、足踏みをしたら地面が割れるんじゃないかと思えるほどの寒さ。
教室の窓の外も、明らかに寒い風が吹いており、隙間から俺の席へ冷風がやってくる。
冷風さんやい、夏にやってきてくれ。
なんて願っても、その時期になると冷風は熱風に代わり、サウナのロウリュウサービスよろしく、熱波を運んでくれるだろう。ほんと、世の中上手いこといかない。
それに、寒いからといって学校が休みになるわけもなく、ましてや学年末テストがなくなることもない厳しい世界。世知辛い世の中だな。現実逃避したくなる現状に嫌気がしそうだ。
そんな時は、クルリと後ろの席を見る。
「?」
そこには、玉座に座るかのように、プラチナヘアの妖精女王がいる。
凛とした中に愛らしさのある顔立ちの彼女が、小動物みたいに小首を傾げている姿を見るだけで、嫌気が差していたところに癒しをもたらしてくれる。
「どうかしました?」
パタンと手帳を閉じて改めて聞いてきてくれる。
「あ、ごめん。忙しかった?」
なにか作業をしていたところ、タイミング悪く振り返ってしまったみたいだ。
「いえ。晃くんより優先すべき事はありませんので」
そんな嬉しいことを言われて、心の底から申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「ほんと、すみません。寒くて嫌な気持ちになってたから、有希の顔見て癒されたいと思って」
素直に謝ると、「そうですか」と短く放ち、微笑みかけてくれる。
「癒されましたか?」
「めちゃめちゃ癒されました」
「ふふ。良かったです♪」
大人びた笑顔を見してくれると、そのままこちらに心境を教えてくれる。
「私も、ちょっと疲れていたので、ご主人様の顔を見てとても癒されました」
互いに、顔を見合わして心が癒されたところ。
「あのさー」
元気なアイドル風の女の子の声が聞こえてきた。
有希と共に振り向くと、そこにはアイドルグループのセンターにいそうな、白川琥珀がジト目で俺達を見ていた。
「2人が付き合ってることは、学校ですっかりお馴染みになっちゃてるから、ラブラブするのは良いと思うんだ。わたし的にも目の保養になるし。でも、専属メイドだっけ? なんて設定はわたしと近衛くんしか知らないんだし、学校でご主人様とか言うのはやめた方が良いんじゃない?」
ごもっともな意見に俺は論破されて口篭ってしまう。
「しかしですよ、琥珀さん」
だが、妖精女王は一味違った。
「愛があれば乗り越えられるのです!」
「何を!? 何を超えるの!?」
「ご主人様とメイドのいけない恋も、愛があれば乗り越えられるのですよ!」
「中世ヨーロッパか! 公爵家の公子とそのメイドのいけない恋かっ!」
「設定ではね」
あ、そうなんだ。初めて聞かされる設定に有希の方を見ると、強く頷いている。
そういえば最近、有希と本屋に行った時、公爵家かなんとか書かれたタイトルの少女漫画を買っていたような気がする。
結構ミーハーなところあるよな。
「はぁ。なに言ってんのよ、ゆきりん。あんたら普通の高校生──」
言いかけて彼女はすかさず言葉を止めた。
「じゃないわ! 彼氏の方は野球部でもないのに謎に野球チート野郎だし、彼女の方は歴代最高の生徒会長の妖精女王だし。なんなのあんたら、何者だよ!」
「「愛し合う者」」
「がああ! 息ぴったりですげームカつくー! 永遠に爆ぜろー!」
どうやら猫芝先生特化の、愛のフュージョンアタックは、白川にも有効みたいだ。
「そんなことよりも琥珀さん。どうかしましたか?」
有希が白川の手に持っている紙に視線を向けると、「あ、そうそう」と思い出したように白川が話題を提供しようとしたところ。
キーンコーンカーンコーン。
休み時間を告げる鐘の音が鳴り響く。
「ちょおおおい! まじの用事あったのにー! あんたらバカップルのイチャイチャ見せつけられて終わってもうたやないかーい!」
白川の流暢の関西弁が炸裂すると。
「もうええわっ! また後で来るさかいっ!」
先程とは別人みたいなエセ関西弁を放った。
「関西の人は、語尾にさかいってあんまり使わないぞ」
「ほんまでっか?」
「関西の人は、語尾にでっかをあまり付けませんよ」
「……」
俺と有希の指摘によって白川は、プルプルと震え出す。
「おーい。白川さーん。席着いてねー」
次の授業の担当である猫芝先生がやって来て、いつまでも席に着かない彼女を注意すると、白川は泣きながら先生にチクった。
「うわーん! 先生ー! バカップルがいじめてくるよー!」
清々しいほどの嘘泣きなのに
「あ、察したわ。まじで察した」
猫芝先生は、白川に自分を重ねた様子だった。
「それはそこのバカップルが悪いわ。1京:0だわ」
「うそん! 過失割合バグってんだろ」
「罰として、バレンタインのキービジュ! はよ!」
「そんなもんあるかっ!」
あ、あるわ。
否定したけどあるわ。
裸リボンでツーショットのキービジュあったわ。
まさかあれがキービジュになるとは思わなかったけど、あれこそバレンタインのキービジュにピッタリだわ。
「せんせーい」
徐々に騒がしくなる教室内で、クラスメイト達もノリにノってくる。
「最近教室が甘いでーす」
「今日も甘いのでブラックコーヒーをくださーい」
「守神くんを処刑したいでーす」
「晃を俺のものにしたいでーす」
1人やばい奴がいた。
「「「きゃあああああ!」」」
やばい奴のやばい発言でクラスメイトの女子達の黄色い歓声がわいた。
「諦めてない。私は諦めてないわよ。しょう×こうのカプ……。ブヒッ!」
「ゆっこおおおおお!」
おいゆっこ。修学旅行の飛行機に引き続き鼻血出して倒れたぞ。しかも、すごい満足そうな顔をしている。
そんな中、やばい発言をした、ガタイの良いイケメンが立ち上がり前の席からこっちを見てくる。
「晃! 俺と不倫しようぜ!」
「寄り道しようぜのノリでとんでもないこと言ってきやがんな、おい。誰がするかっ! お前は白川とくっつけ!」
「なんでわたし!? すごい流れ弾飛んできたけど!? なんでそうなるの!?」
「わりっ、白川。俺は晃一筋だ」
「おいこら! なんでわたしがフラれたみたいになってんだよ! ちくしょうがっ!」
「ちょっと近衛くん」
場が凍るような声で有希が正吾を呼ぶと、視線だけで正吾を殺せそうな鋭い眼光が正吾へ飛んだ。
「晃くんにちょっかい出したら、どうなるかお分かりですよね?」
「すみませんでしたっ」
秒で白旗を振る正吾は、命を危機を察したみたいで大人しく席に座る。
「近衛くん! 負けないで! ゆっこの犠牲を無駄にするの!?」
「そうよ! ゆっこの死を無駄にしないで!」
ゆっこ死んだの?
「あん……?」
キリッと妖精女王が俺には見せないやばい目を女子生徒に向ける。
「「「きゃああ! 抱いてええ! お姉様ああ!」」」
あいつらなんでもありなんだな。
てか、また有希に新しい称号が与えられてしまった。
この子は一体いくつの属性を持ち合わせるのだろうか……。
てか、うん。授業中にこんだけ騒いだら、そりゃ隣のクラスの先生から苦情があるわけで、猫芝先生は呼び出されて、しこたま怒られてしまっていたな。
でも、先生は気にしていない様子で、どこか楽しそうに、どこか寂しそうに戻って来た。
なんだかんだノリの良いクラスとも、もうすぐお別れと思うと、寂しいものがある。
クラスともお別れ……?
そうか、3年生になったら、有希とも違うクラスになる可能性もあるのか……。




