海の魔物
明日の午前中にはオルケイア国に着く予定だそうです。
私は一人、船室のベットの上に座り、窓の外に広がる海をぼんやりと見ていた。水面は穏やかで、時折太陽の光に反射しキラキラと輝いて美しい。
キハラ様とは同室だったようで、反対側にもう一つベットがあった。
部屋に戻された時に、食事時に成ったら呼びに来るので、それまでは極力外へ出ないようにと言われ、静かに部屋にいるのですが、読む本も無く、とても暇です。
こんなに暇を感じる事が出来るのは、物心を付いて初めての様な気がします。
だけれども、これからの事を考えると、不安と期待で一杯です。
この3年間の間に、何で身を立てるのか、仕事も探さないといけません。興味のある事が有れば、相談して下さいと言われましたが、今まで王太子妃になると思っていたので、他の勉強を怠っていました。
一から身の振り方を自分で考えなければいけないのに、どんな仕事があるのかすらも分からないのです。
休日は、逃走を図らない限り、どこへでも連れて行ってくれるそうです。
今まで、学校と家の往復しかした事が無いので、ソワソワします。
ですが、問題は語学は勉強したのですが、オルケイア国の事は殆ど知りません。
平民の生活もよく分かりません。こんな事になるなら、勉強しておきたかったです。
私には、もう一つの記憶があります。まだ、しっかりと融合出来ていないようで、自分の事だけど、そうでない様な違和感もあります。
基本的に、私はやっぱりエリンシア・・・いいえ、エリンなのです。
ただ、前世の私から、私は強い力を頂きました。本来であれば始めから持っていた筈の力。使い方の分からない力。でも、何となくですが、誰にも言えない力。誰かに知られてしまったら何かが変わってしまいそうで言えません。優しいあの方々であっても。
だから、誰にも気付かれない様に、そっとこの力を調べてみようと思います。
◇◇◇◇
「エリン様!起きて下さい!!」
悩みあぐねて、そのまま寝てしまっていたみたいです。私は突然、キハラ様に揺り起こされました。
「船室に居るのは危険なので、一緒に来て下さい!」
私は驚き、何も言えないまま、キハラ様に連れられて船室を出た。
船は、先程から考えるまでもなく大きく揺れています。いったい何が?と前方をみて絶句しました。
・・・イカ。いいえ、それよりも大きいのでダイオウイカ?いえいえ、それよりももっと大きいですわね。
イカさんから、私達が美味しい食事に見えてしまうくらいには・・・。
「エリン様、こちらへ!」
「あれは、なんですか?」
キハラ様に連れられて、乗船客と一緒に後方へ逃げている途中で聞いてみる。
「あれは、海の魔物でシェズガです。あんなに大きなのは初めて見ました。今、ダスガン様とガイエス様が、この船の護衛の方達と一緒に戦って下さっています」
船の合間からシェズガに弓や槍が刺さったりしているのは見えるが、それ程の打撃には成っていない様に見えた。
イカが・・・いえ、ジェズガが、海面から上半身を出し、2本の腕を振り回して近づいて来ている。海の上だ、剣士は足場がないから切り込めないし、船に取りつかれてしまったら、あっという間に沈没だろう。
後ろからは人々が神に祈りを捧げたり、泣き叫ぶ声が聞こえる。
「エリン様、こちらの横に救命ボートがあります。これに乗船客の方達と一緒に乗ってこの船から離れて下さい。その間に私達が何とかします」
「何とか成りますか?」
「・・・・成るではなく、します!」
女性なのに男前な事を言う人です。きっと私を安心させようと思っているのでしょう。ですが私は、キハラ様が指差す方を見て、眉を潜めた。
船の横には救命ボートが5つ程括り付けられており、それを船員らしき人達が海へ降ろしている。だが、どう見ても乗船客全員が乗れるとは思え無かった。
「人数分は無いわ」
「女性や子供が優先です!さあ、早くエリン様!」
「私は犯罪者です。一番最後ですわね」
キハラ様が、初めて怒った顔をして私を見た。だが、後の乗船客を見た後、困り顔になる。
「手袋が・・・ありません」
「はい」
私は、出来る限りの笑顔を作って同意してみた。キハラ様が何かを言おうとした時、船が大きく揺れた。
前方を見るとジェズガの姿がさっきよりも大きく見えた。距離を詰められているのだろう。
「キハラ様、行って下さい」
「え?」
「私は救命ボートには乗りません。ここで皆様の帰りを待っていますから。ジェズガを倒して下さい!」
キハラ様は何度か救命ボートと私、そしてジェズガを見比べて、意を決した様に頷いた。
「安易に救命ボートへ乗るよう言って申し訳ありません。直ぐにジェズガを倒して戻って来ます!安心してお待ち下さい!」
「御武運をお祈りしております」
私の言葉に頷くとキハラ様は一目散に元来た道を掛けて行った。その背中が見えなくなったところで、私は考えた。前世の記憶は、私が天下無敵のヒロインだと思っているのだけど、当の私は、自分に何が出来るのか全く分からないのだ。
取り合えず、今どうなっているのか知りたい。キハラ様が走って行った手前に上に上がれる階段があった。私は迷うことなくその階段を登り、上の甲板に出た。かなり広く、ところどころにベンチもあるので、乗客達がのんびり海を眺められるように作られた場所の様だ。
いくつか机と椅子のセットもあるので、机に体を隠しつつ、ジェズガに気が付かれない様に体を低くして先頭の柵まで近づいてみる。
前方を見ると、船の護衛らしき人が10人程、槍や弓で対抗している。その右側でキハラ様が、ダスガン様達と合流していた。やはりジェズガとの距離に苦戦しているみたいだ。
上から見ると分かるが、ジェズガ本体との距離はまだ遠いが、水の中を蠢く足はかなり近づいて来ている。
ふと見るとキハラ様が呪文を唱え始めていた。声が聞こえる訳ではない。キハラ様の体から黄色の力が溢れ始めているのが見えるのだ。その力がキハラ様の手に集まって来た。しかも、その横で今度はダスガン様からも透明感のある青い力が湧き、それを体の周りにクルクルと展開してゆく。
先に動いたのはダスガン様だった。体の周りをクルクルと回っていた青い力を水の中のジェズガの足に向かって連射して行く。
水の中までは見えないが、ジェズガが暴れだしたので、効果は有った様だ。だが、その為船も大きく揺れて後方から乗船客達の悲鳴が上がる。
ガイエス様が、徐に腰の剣を抜くと、ジェズガの左側へと甲板を走り出し、ジェズガへ向かって飛んだ。しかし、距離が全く足りていない!どうして!?
次の瞬間、キハラ様の魔法が展開され、空中に黄色の踏み台が現れる。そこを、まるで初めからあった足場の様にガイエス様がトントンとジェズガへ距離を詰める。
突然、目の前に走り込んで来たガイエス様を、ジェズガが振り回していた腕の一本で払おうとする。すると、その手をかわし乍ら、下から剣を振り上げた。
遠くから見る剣は、長さはあるが薄く見え、ジェズガの太い腕に吸い込まれてしまったように見えた。が、次の瞬間、ジェズガが「ギィィィ!!」と鳴き、剣の吸い込まれた先から、腕が綺麗に海へ落ちて行った。
直ぐに、もう一本の腕に近づいたガイエス様が、今度は上から飛び降りる様にして、もう一本の腕を見事に切り落とす。
ジェズガの腕で一瞬ガイエス様が見えなくなり、つい私は柵から身を乗り出してガイエス様を探した。
すると、落ちて行く腕の向こう側からガイエス様が、キハラ様の作った足場を利用して、距離を取ろうと回避を始めているのが見えた。
(両腕が無くなったのに、どうして回避を始めたのかしら?)
私はすっかり隠れる事を忘れて、ジェズガとガイエス様を目で追いかける。すると、腕を失ったジェズガが足をバタつかせながらも、ガイエス様に向かって墨を噴射し始めたのだ。墨が海に落ちると、音は聞こえないが湯気が上がる。イカ墨なのに酸の様な成分なのだろうか?
ガイエス様は、危険な墨が皆に掛からない様に誘導する為に回避を始めたらしい。ふと、ガイエス様と視線が合った。その次にジェズガとも合ってしまった気がする。
ジェズガがさっきよりも大きく息を吸っている様な気がする・・・私を見ながら。
運の悪い事に、皆を避ける為に移動した方向に私は立っていた。
ジェズガと目が合った瞬間に、ジェズガの狙いが私に変わったのを感じた。が、私は迅速な回避行動など今まで習った事が無い。どちらかと言えば、お淑やかにゆっくりとした動作を叩き込まれている。
心の中では逃げなきゃと叫んでいるのだが、体は棒立ちで動かない。
墨を吐く口元が、しっかりと私を捉えているのが分かる。私は人生の終わりを予感し目をギュッと閉じた。
体が物凄い勢いで後ろへ吹き飛んでいく。酸が体に掛かったらどれだけ痛いのだろうと思ったが、そんなに痛くない・・・と言うか、酸ではなく、何か暖かなものに、まるで抱きかかえられているかの様な感触がする。なのに、周りには肉の焼焦げる嫌な匂いがした。
「大丈夫・・・か」
少し苦し気な声が頭上からした。驚いて目を開け見るとガイエス様だった。
ガイエス様の後ろには白い盾の様な物がいくつか展開していたが、直ぐに消える。霧散した白い魔法の一部が私の中へ流れ込む。すると、あの時と同じように、私の中の一番近しい魔力と融合し消えた。
ガイエス様は、私を抱き抱えたたまま、甲板のもっと奥へ、ジェズガの墨が届かないところへと走った。
その後も何度か墨が飛んで来たが、もう私達の処までは届かなかった。
恐怖に震えている私を、なだめる様にガイエス様が背中を擦ってくれた。
「ここまで来ればもう大丈夫だ。落ち着け」
私は、恐々と周りを見回し、ジェズガの墨のせいであちこち穴の開いた甲板とガイエス様を見た。
「キハラが、君を安全な場所に連れ行ったはずだが?」
「申し訳ありません。皆様が気になって、つい見えるところまで、勝手について来てしまいました」
「戦闘経験の無い者が側にいるのは足手まといだ。きちんと安全圏で戦いが終わるのを待つ様にっ・・・してくれ」
態度は優しいのに言葉は厳しい。その言葉が途中痛みをこらえる様につっかえた。
「ガイエス様こそ大丈夫ですか!?」
ガイエス様の腕の中にすっぽり抱きかかえられた私から見える範囲に怪我は無いが、あの肉の焦げるような嫌な匂いは、ガイエス様の後ろからしてくる。私がガイエス様の背中を見ようとすると、それを止められた。
「自分で治療は出来る」
ガイエス様が呪文を唱え始めた。その呪文に聞き覚えがある。聖女ルメリアが唱えていた呪文に似ているのだ。
「ガイエス様は、聖人様・・・だったのですね」
私が驚いてガイエス様を見ていると、聖女ルメリアと同じ聖魔法がガイエス様を包んでいく。しかし、ガイエス様の苦痛に満ちた表情は一向に楽には成らなかった。
酸を浴びたのだとしたら、かなりの重症の可能性も高い。私のせいでしなくてもいい怪我をしてしまったのだ。
ガイエス様の額から汗が滲んで来た。抱えられていた筈の私にガイエス様の体重が重く圧し掛かってくる。状態は思った以上に悪いのかも知れない。
「ガイエス様!大丈夫ですか?」
ガイエス様を支えながら私は慌てた。ガイエス様の口から漏れ聞こえる聖魔法の呪文がどんどん小さく途切れ途切れに成って来る。
私は躊躇したが、つい先日、覚えたばかりの疑似聖魔法だけど、無いよりはいいかも知れないと自分に言い聞かせ私は目を閉じた。あの時と同じ力を、私の体の中から探し出し、ガイエス様の聖魔法に絡めて一緒に力を注いで行く。暫くして、ガイエス様の呪文を唱える声に力が戻って来た。
「大丈夫ですか?」
私に持たれていたガイエス様が、ゆっくり瞼を開くと私から離れ、じっと私の顔を訝し気に見た。
「君は・・・」
ガイエス様が、私に何かを言おうとした時、乗客達の悲鳴が上がった。驚いて前方のジェズガを見ると、墨を吐き切ったジェズガが、切られた腕を振り回し、尚も近づいて来ていた。
徐にガイエス様は立ち上がると、私を見下ろした。
「話は後だ、まずはジェズガを倒してくる。君は、乗客達のところまで戻るんだ!いいな」
私は、コクコク頷いた。すると直ぐにガイエス様が、酸で溶けた甲板をひらりひらりと避けながら、先頭へと走って行く。その背中の服は大きく穴が開いていたが、見える背中には傷らしきものは見えない。完治出来たのかな?良かったと、私は胸を撫でおろした。
残された私は周りを見回し、近くにある階段を使って下に降りる。しかし、先程の階段とは違う階段で、下の食堂に繋がっていた。左側には2つ扉が有る。その扉を出れば乗客達と合流できそうだった。
しかし、食堂の中は、ジェズガの吐いた墨でいくつも大きな穴が開いており、前方の大きな穴からは、ジェズガや、戦っている人達が見えた。しかも、先頭まで移動すれば、さっきよりもずっと近づいて見る事が出来る。
私は躊躇した。先ほどガイエス様から、乗客達の所へ戻れと言われたのだ、戻らなければいけない。だけれども、怪我をした人を後ろに集めているらしく、船の護衛らしき人が4人、怪我をしている人と、手当てをしている人が見えるのだ。
私は、足音を立てない様にそっと歩き、先頭まで来てしまった。
(ガイエス様、申し訳ありません。あの方々を癒したら、きちんと乗客達の所へ戻りますから!)
と心で詫びながら、少し使い慣れて来た気のする、偽聖魔法らしき力を、怪我をしている人に向けて発動させた。聖女ルメリアは、手を伸ばして相手を特定して居る様だったが、私は体の表現は必要ない。しかも呪文も必要が無く、意識で相手を選択出来るので、どの様な恰好でも大丈夫。魔法を使っているようには見えないのだ。
食堂の壁に隠れて、空いた穴から外を覗き、目に入った怪我人に向けて力を送った。既に傷口には包帯が巻かれていたため、目に見えて怪我が治ったのかは分からない。ただ、いつもの感触(?)力を使う必要がある者の怪我が無くなったのを感じ、自動的に魔力の放出が止まった。
さあ、乗客の所へ戻ろうかと思いつつも、他の皆がどうしているのか気になり、少し移動して、今度はきちんと隠れる事を忘れない様に気を付けて周りを見回した。
すると最前線で、やはりガイエス様がキハラ様の出す足場を使ってジェズガに切り込んでいた。
海には、ぷかぷかとジェズガの腕2本と足が3本浮いている。何故か、船の護衛らしき人達が、それを釣り道具みたいな道具で引っ掛けて、集めようとしていた。
(ジェズガの近くにあると、まさか合体しちゃうのかしら?・・・私の記憶にそんな変な記憶があるわ。でも、なんか作り物的な発想にも思えるんだけど・・・)
ちょっと悩んだものの、もう一度船の上に居るダスガン様とキハラ様を見る。すると、二人ともどこかしら怪我をしているようだった。
(うん!私の出番ね。そう、その為にここにいるんですもの。・・・内緒だけど)
一人で納得すると、私は偽聖魔法を二人に送る。するとあっと言う間に、魔力の放出が止まった。それ程ひどい怪我では無かったようだ。良かった。では、今度こそ乗客達の所へ戻ろうと思った時だった。ジェズガが見覚えのある行動を取り出した。
そう、私を見て墨を遠くへ吐く為に取った溜め行動。ジェズガが見ている先はガイエス様だ。
残った短い腕の攻撃を避けながら、本体へ攻撃を仕掛けているガイエス様に、再度、墨を吐く気だ。
墨も溜め持つには容量が決まっているらしく、しばらく墨攻撃は無かったが、どうやら墨が体内で攻撃出来るくらいに溜まったらしい。
私は焦った。遠ければ回避行動も取りやすい。だが、本体へ攻撃を始めているガイエス様の距離では、回避するのは難しいと思われるのだ。ガイエス様は気が付いているのか居ないのか?攻撃を緩める様子は無かった。
ガイエス様に墨が当たったらすぐに偽聖魔法をかける?それで助けられる?一瞬で死んでしまうかも知れない。本当にそれでいいの?
ダスガン様が、水中へ飛ばしていた魔力を、ジェズガに向かって放つ。しかし、距離が足りず途中で消えてしまった。
(だから、近づいている水中の足にばかり魔法を打っていたのね)
キハラ様は、ずっとガイエス様の足場を作っている。見ていると、ガイエス様が自分の意志で移動し、それを見て、着地点を考え足場を作っているように見える。であれば、それ以外に集中出来ないだろう。
ジェズガの本体がかなり膨らんできている、広範囲に墨を吐いて、逃げ場を奪う気なのかも知れない。
(逃げて!ガイエス様!回避して!!)
その時、私は気が付いてしまった。キハラ様が作る足場が、初めの頃よりも小さい。そう、キハラ様の限界が近いのだ。だから、ガイエス様は引くことが出来ない。今、決着を付けなければ負けなのだ。
(どうしましょう。記憶のもう一人の私は、私は無敵だと思っているのに、今の私には、その無敵が何か分からない。体の中を流れる魔力の使い方が分からない。分かるのは、目の前で触れることが出来た聖魔法のみ。・・・いえ、そうだったかしら?そう言えばさっき)
私は、目を瞑り、つい先程ガイエス様が私を守る為に使った白い魔法。その力を体の内側から探し出す。
(あれは盾だった。直ぐに消えてしまったけど、数枚展開されていて、盾と盾の間からイカ墨がガイエス様に当たっていた。盾の部分は確実にイカ墨を止めていたわ。・・・なら!)
私が、魔力の中から、あの白い魔法と融合した力を引っ張り出し、目を開いた。すると、ガイエス様がキハラ様の作った足場の上で、自身の剣に魔力を溜めているのが見える。その光は聖魔法だと分かった。一度深く腰を落とすと、ガイエス様がジェズガに向かって飛ぶ。
(死なば諸共で、攻撃を仕掛けるつもりなのね。なら私も!)
私は、内側から見つけ出した白い魔法をジェズガに向かって放つ。偽聖魔法は、怪我をした人を包み込むイメージだが、今回は盾だ。送った魔力を展開させて盾を構築させないといけない。でも、ガイエス様の攻撃を阻害してもいけない。なら、どこで展開する?
ジェズガも興奮しているのだろう、体表が薄く成っており、左下側から、黒い色が溜まっているのが見える。そこから細く、上半身の上の穴が開いているところへ向かってそれが続いているのが見えた。私は、その穴に向かって力を送り穴の中で偽白い魔法を展開させる。何枚も何枚も。突き破って吐き出させない為に!
膨らんだジェズガの体が、ガイエス様に向けて一気に萎む。うっすらと見えていた黒い体内の筋の中を、大きな黒い塊が出口の穴へと掛け走った。
しかし、私の偽白い魔法で塞き止められた穴は、それを許さず、外への道を塞がれ黒い塊は逆流して内側へ戻って行く、その瞬間だった、ガイエス様の魔力を帯びた剣がジェズガの頭部を左上から右下へと斜めに切り裂いた。それは剣の長さよりも大きく広がり、容赦なくジェズガを一刀両断にした。
キハラ様の作った足場に着地したガイエス様を見て、私はホッとするのと同時に、物凄い剣捌きに思わず一人拍手してしまった。ジェズガが海に倒れて行く中、ガイエス様がこちらを振り返る。
私は、ギクリとしたが、今回はきちんと隠れているので見つかる筈が無い。私は急いで乗船客の所へ戻り、何食わぬ顔で紛れ込んだのだった。