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出国

「」はウイスタル国語。『』はオルケイア国語です。

 馬車に揺られて、港へと到着した。

 初めて見る海と潮風に、私は目を細める。

 馬車に乗っていたとは言え、疲れ切っている体での強行軍は辛かった。

 乗船をすると、直ぐに船室へ連れて行かれて横になるよう言われた。

 私は、言われるがままに、船室のベットに横になると泥のように眠ってしまった。


 突然、全身を力一杯押される感覚に目覚めた。

 驚いて起きたものの、瞬時にそれを理解した。母国の領域を出たのだ。魔法契約が発動し、母国から押し出されたのだろう。


 船室の中で、押された側をぼんやりと見ていると、頬を何かが伝った。

 手でそれを拭いながら、私は私に驚いていた。

 国外追放を宣告された時に、私はきっと清々するだろうと思っていた。どんなに頑張っても認めて貰えない。違うと言っても信じて貰えない。大切に思っても大切に思って貰えない。そんな世界と離別するのだ、清々するとしか思えなかった。


 だが実際はどうだろう、完全に永久の離別となった今、私は泣いている。

 なんて私は馬鹿なんだろう。あんなに不遇な毎日だったのに、報われない日々だったのに、それでも寂しいと思ってしまう。

 あの人たちは、私が居なくなっても何の感慨も持たないだろうに。


「私って・・・本当に残念な子だわ」


 夢の中で、もう一人の私が言っていた。泣いてもいいって。そして、泣き疲れたら歩き出そう。私は一人だけど独りじゃないから。

 私はもう一度横になり、明日からの新しい世界に思いを馳せ乍ら再び眠りについた。





◇◇◇◇


 目覚めると見知らぬ天井だった。世界は少し揺れている。

 ベットから起き上がり周りを見回した。


「おはようございます」


 茶色の長い髪を後ろに結い上げ、赤みがかった茶色の瞳の、少し変わった服装の女性が、にこやかに私を見ていた。


「おはよう・・・ございます?」


 見覚えのない女性に私は戸惑う。


「お体は大丈夫ですか?これから食事を食べに行きますが、着替えられますか?」

「ええ、お願い」


 自分がどこに居るのかよく分からないが、この屋敷のメイドだろうか?と思った。


「昨日は、お着替えをお持ちでなかったので、私の寝巻に着替えさせてしまいました。お洋服は、昨日の洋服しか無いのでしょうか?」

「え?」

 

 私はベットの上で、着替えさせてくれるのを待っていたが、その言葉にはたとした。

 馴染みの無い寝巻に揺れる地面。ここは船の中だったと。


「ここは・・・」

「オルケイア国行きの船内です。エリンシア様。いいえ、これからはエリン様と呼んだ方がよろしいでしょうか?」


 よく見ると、フランクな感じではあるが騎士の服装の女性が目の前に立っていた。


「エリンでよろしくお願いいたします。・・・あの」

「私は、オルケイア国、第一騎士団に所属しています。キハラ・ミールと申します。今回は、エリン様を母国へお連れする命を受けております。女性同士でないと分からない事もあるかと同伴させていただいています」

「そうでしたか。恐れ入ります」


 私は自分が身に纏っている見慣れない寝巻と、壁に掛けられている、城のお仕着せを見比べた。

 これからは平民になったのだから、洋服も自分で着替えないといけないという事よね?

 でも、どうやって着たらいいか、分からない。

 途方に暮れて眉根を寄せていると、キハラ様がご自身のバックから何かを取り出した。


「よろしければ、今日はこの服に着替えませんか?この服はとても着替えやすいんです」


 にっこり笑って、気を使って言って下さっているのがありありと分かった。


「恐れ入ります」


 私は、キハラ様より渡された服を、教わりった通りに、手伝って貰い乍らだけれども必死に自分で初めての着替えをしたのだった。




◇◇◇◇


『おはようございます!』

「おはよう!」

「おはよう」


 キハラ様に連れられて、向かった食堂では、一般の人達が食事を取っている。その右隅の方に、ダスガン様と、確かガイエス様と仰っていたと思う方が、先に席を取って待ってくれていた。

 キハラ様は母国語で挨拶をしたが、二人は私に気を使ってか、ウイスタル語で返してくれた。


「おはようございます」

「勝手にメニューを注文しましたが、食べられそうですか?」


 キハラ様に勧められて、ダスガン様の前に私は座り、その横にキハラ様が座った。

 私達が座ると、ダスガン様がにこやかに用意された朝食を指差して私に言った。


「はい。どれも美味しそうです」


 昨日、夕方に乗船をしたが、その後はずっとベットの上で寝ていた。今まで使った事の無い力を使ったからか、信じられないくらいの時間眠ってしまったようだ。それでも、そんなに空腹は感じなかった。

 とりあえず、少しは食べなくてはとスプーンを持ち、スープを掬って口に運ぶ。


「慌てなくていいから、ゆっくり食べるといいですよ」

「はい」


 ダスガン様は本当に良い方だ。実の父ですら、そんな優しい言葉をかけてくれた事は無かった。

 胸の奥がふんわりと温かくなった。


『彼女は、15歳ですよ?』

『そうですよ?手を出したら犯罪ですからね!』

『な・・・何を言うか!!わ・・・私の娘が今11歳だから、娘のつもりで対応してるだけだ!』

『え!ダスガン様のお嬢様って、もう11歳に成られたんですか!早いですね~』


 母国語で会話を始めたので、私は食事に集中する事にした。日の傾きを見ると、既に昼は過ぎているようだった。


『それにしても、聖女様の力は凄かったですね』

『そうだな、あまり好きになれない人物だったが、聖魔法は桁違いだったな。まさか失った肉体を取り戻す力まであるとは』

『本当に、私好きになれませんでした。聖女様も王子様も!』

『お、美形好きのキハラなのにか!?あの王子はかなりのイケメンだったと思うがな』

『性格も趣味も悪すぎですよ!あんな男の為に、若い身空で犯罪を犯してしまうなんて可哀そ過ぎます』

『犯罪は犯罪だ、監視の手は緩めないように!』

『重々承知しています!・・・仏心でちゃいますけどね~』

『ははは・・・私も少しそっちよりだがな』


 殆どダスガン様とキハラ様が話していて、ガイエス様は2人の話に頷きながらも、ずっと私を監視しているようだった。

 私が1/3も食べられずにスプーンを置くと、キハラ様が覗き込んで来た。


「もうお腹一杯ですか?」

「・・・はい」

「まあ、色々あったからな。仕方ないが、食べられる時にきちんと食べた方がいいんだぞ!これからどうなるか分からないんだからな」

「はい」


 心配してくれている事が分かるので、2人の言葉に素直に返事をした。


「じゃあ、船室へ戻って貰おうか。君は犯罪者で、連行中だから、あまり自由は無いんだ」

「はい」


 銀色でサラサラの髪が肩より少し上で揺れていて、意志の強そうなアメジストの瞳で私を監視し続けているガイエス様が言った。

 先ほどから、私の近くを通る人達が、私を見て、座る席を遠くにしているのには気が付いていた。きっとこの手の赤い〇、犯罪者の印のせいだろう。

 ダスガン様達がとても好意的なので、忘れそうになるが、私は犯罪者としてオルケイア国に行くのだ。普通の旅行とは全く違う。


 立ち上がり食堂を出ると、先頭にダスガン様が歩き、次を私、その後ろをキハラ様とガイエス様が歩く。

 先ほど登って来た階段を通り越し、その先の部屋へと連れて行かれた。


「船室に戻る前に、今後の事を少し話したい。私たちの部屋になるが少しだけいいかな?」


 振り返ったダスガン様が、扉を開けて中へ入るようにと促した。





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