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変わっていく日常 3

 この頃の新しい日課は、朝奉仕活動で教会の掃除をし、朝ごはんを食べ終わる頃にキハラ様が迎えに来られて、アーガオーリ様の研究室へ向かいます。

 研究室へ着いたら、言われるがままに魔法を放ち、皆様が何かをされている間は、キハラ様と楽しくお茶を嗜み、研究所内でダッカ様が持って来て下さったお昼ご飯を頂き、時間に成ると、キハラ様に教会まで送って頂いています。キハラ様は、その後、本日の報告書を作成する為、騎士団へと戻られるのだそうです。


 現在、キハラ様は、私の監視役としての仕事が中心に成っているそうで、本来の仕事が滞っているのではと心配をしたのですが、私が18歳になる迄は、自ら希望して、私の監視兼生活支援のお仕事を請け負って下さいました。ご結婚後も継続して下さるのだそうです。


 週末が来ると、ムルダ様がお迎えに来て下さり、ガイエス様の邸宅へ向かいます。最初の頃は、薬草や他の魔道具を移動するのに、キハラ様も休日返上で付き合って下さいました。

 1日はガイ様との巨大害獣探し兼薬草採取を今も続けています。けれど、ルーケラの巨大害獣が出た後は、ぱったりと出なくなってしまいました。

 ガイ様も退屈なのでしょう、周りに巨大害獣が居ない事を確認すると、私と荷物を休憩予定の薬草採取場に残し、周りに害獣や魔物避けの魔道具を置き、緊急信号の赤い棒を私に渡して、狩に出かけて行きます。

 私も慣れたもので、のんびりと害獣や魔物避けの魔道具の範囲内で、薬草採取をし、ガイ様が用意して下さった、いつもの敷物の上で、薬草の振り分けをします。暫くすると、通常の害獣を数匹狩ってガイ様が戻っていらっしゃいます。解体もその場でしているそうで、害獣の中には、角や牙や内臓が薬に使える物もある為、私に下さるのですが、内臓はまだ私には早い素材です。

 瓶に入っているとは言え、受け取る時にぷるぷる震えてしまって、ガイ様を困らせてしまいました。


 そんな日々が何週も周ったある日。キハラ様が、神妙な顔をして、明日の研究所へは久々にドルガノ様やガイエス様、そしてキハラ様の婚約者のランディ様達もいらっしゃると仰られました。

 久しぶりに皆様にお会いできるのは楽しみなのですが、キハラ様の曇りがちなお顔が気に成ります。


 ランディ様が同席されるのであれば、私の造ったケガの治療薬が関わっている可能性が高いですわね。けれども、ケガの治療薬については、ドルガノ様へ薬を提出し、作成と販売の許可と一緒に、騎士団への納品許可も貰ったと以前伺ってたのですが・・・。

 明日は一体どんなお話があるのでしょうか?




◇◇◇◇

 翌朝、奉仕活動と青い鳥さんとの朝食を終え、私も少し緊張しつつキハラ様をお待ちしていました。


「おはようございます」


 いつも通りの笑顔でいらしたキハラ様にホッとしながら、私もご挨拶を返しました。

 馬車に乗るといつもの道を走り出します。するとまたキハラ様の表情が悩んでいる様に見えました。


「キハラ様、何か心配事ですか?」


 キハラ様が、慌てて顔をこちらへ向けると、静かに頷きました。


「実は、少し問題が起きてしまいまして・・・」

「ケガの治療薬ですか?」

「はい。私もまだはっきりとした事をきいていないのですが、ランディが幾つか質問をしたいと言っています」

「・・・はい」


 何が有ったと言うのでしょうか?少し不安に成っていると、キハラ様が慌てて、いつもの元気な声で話かかけて下さいました。


「ちなみに、あのサンセツ機を考案して世に出したのは、アーガオーリ様のチームなですよ」

「まあ!それは存じませんでした」

「それも踏まえての、研究室での会合だそうなのです」

「?」

「これ以上は、向こうへ着いてからです。ランディが色々伺うと思うのでよろしくお願いします」

「はい」


 よくは分からないのですが、どうやら私の造ったケガの治療薬に問題が起きてしまっている様です。私の知識ではあれで全部なので、お答えできるか不安です。そうこうしている内に、馬車は、研究棟へと吸い込まれて行ったのでした。



 今日は、直ぐに研究室へ向かうのではなく、会議室らしき部屋へと案内されました。

 そこには既に、ランディ様とシウス様ともう一方、お目にかかった事の無い壮年の男性が下を向いて座っていらっしゃいました。

 キハラ様は、少し考えると、私を皆様と同じ並びの席で、少し後方の椅子を示して下さいました。私がそこへ座ったのと殆ど同時に、扉が開き、他の皆様が入っていらっしゃいました。それを合図に、ランディ様達が立ち上がり、礼を取っています。

 ドルガノ様は、前方突き当りの席へ座り、左にクレイブ様、右にガイエス様がお座りに成ります。アーガオーリ様とウエス様とダッカ様は、私達の前の席へと座られました。


「堅苦しい挨拶はいい、座りなさい」


 ドルガノ様が、ランディ様達へと声を掛けられました。ランディ様は平民です。貴族が入室したら一度席を立ち、座る事の許しを頂かなければ成りません。かく言う私も、きちんと立って許しを頂きました。

 ドルガノ様が皆様を見回してから手元の書類を広げました。


「本日の議題は、エリン殿が造られた治療薬についてだが、サンセツ機にもかかわりがある為、サンセツ機の製作者としてアーガオーリ達にも同席して貰う事にした」


 ドルガノ様がアーガオーリ様達の方へ視線を向けると、ランディ様達が、再度立ち上がり静かに礼をしました。


「本日は、私共ファビレス商会での問題に、サンセツ機の製作者様であるアーガオーリ様のご意見も頂けると伺い、法外の喜びでございます。この様な場を設けて頂き、ドルガノ様にも熱く御礼を申し上げます」


 座るようにとジェスチャーを返したアーガオーリ様がにこやかに答えた。


「いやいや、今回は、エリン殿が関わっており、耳寄りな情報もあると聞いているのでとても楽しみにして来ました。有意義な時間に成ると嬉しいね」

「恐れ入ります。私は、ファビレス商会の王都支店を任されております、ランディ・ファビレスと申します。こちらは、協力者のシウス・リドルスター様と調合兼薬剤師のサズロでございます。以後お見知りおき下さいますようお願いしたします」


 座り直したランディ様が、礼儀正しく答えている。所作も貴族には負けないくらいに綺麗でした。平民は家名を持たないのですが、その商会の権利者が、商会名を家名と同等のものとして名乗るのはよく聞く事です。シウス様は静かに黙礼をし、サズロ様は必死に頭を下げていらっしゃいます。

 

「ウエス・バルガリアと申します。こちらはダッカです。私達は、アーガオーリ様の研究室に在籍させて頂いており、同席を許されております。よろしくお願いします」

「貴重なお時間を頂きありがとうございます。よろしくお願いします」


 本当に、丁寧な対応です。アーガオーリ様を尊敬しているのが垣間見えました。


「さて、それでは本題に入る」


 ドルガノ様が声を掛けると全員がドルガノ様へと視線を集中させました。


「この間許可を出した、エリン殿が調合したケガの治療薬だが、レシピは同一の筈だが、エリン殿が作成したものと、ファビレス商会で作成したものでは、効力が違っているとの事だがそうか?」

「はい。左様でございます。私共は、許可を頂いて直ぐに、エリン様から伺ったレシピを元に、うちの商会で新たに薬剤部を設立し、名の知れた薬剤師を何名か雇い入れました。その者達に制作をさせたのですが、どうしても市販の薬以上の効果を出す事が出来なかったのです」

「ふむ。という事だが?」


 ドルガノ様が私を見ると、皆様の視線が一気に私に集まりました。

 その様に仰られても、お伝えした内容で全部です。困り果ててしまいます。


「お伝えした内容で全てです。他には何もしていないのですが?」

「そんな筈はありません!何か、決定的に違う何かが有る筈です!」

「サズロ!」


 私が困りながら答えると、間髪入れずランディ様の隣に座っていた壮年の男性(サズロ)が声を上げられました。

 私がびっくりしていると、ランディ様が慌ててサズロ様を制しました。


「ご無礼を致しました。申し訳ございません。このケガの治療薬の作成については、サズロを責任者として一任して居ります。彼は昼夜を問わず、レシピ通りに何度も調合し直し、それでもどうしても分からないと成って今回の場を持つ事をお願いした次第でございます」


 ランディ様が丁寧に仰って下さっているのは分かりますが、本当にお伝えした事しか無いのです。私は弱り果ててキハラ様を見ました。するとキハラ様も同じ様に困った顔で私を見ていました。


「ドルガノ様より伺ったのですが、私が造ったサンセツ機では雑草と判断されていたアサゲ草に治療を促進する効果が見つかったと聞いたのですが、そうですか?」

「はい。そう伺っています」


 助け舟を出して下さったのは、アーガオーリ様でした。ランディ様が頷くとアーガオーリ様は私を見ながら少し考えると頷きました。


「エリン殿は薬師を目指しているとは言え、素人だ。自分で考えてやっている事なら、本人が気が付いていないけれども、他の人が見たら分かるような特別な事をしているのかもしれませんな」


 そうなのでしょうか?私の研究室には、サンセツ機すらない手作業のみの作業だったのです。ご期待に沿えるような事があるのでしょうか?


「これは、実演を私達も見たいですね」


 にこにことアーガオーリ様私を見ます。私はアイテムボックスの中に、まだ残っている薬草を思い出しながら、作れない事は無いと頷きました。すると、ランディ様が声を上げられました。


「そのつもりで、私共で調合した薬と、それに使う薬草も持参しました」

「はい、入り口で預かりました。既に実験室へ配置済です」


 ランディ様の言葉に、ダッカ様がアーガオーリ様へ報告されています。


「如何ですかな?」


 アーガオーリ様がドルガノ様へ視線を向けました。


「頼めるか?エリン殿」


 ドルガノ様が私に仰いました。勿論です。私は立ち上がり、礼をしました。


「はい。謹んでお受けいたします」



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