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変わっていく日常 2

 あれから3日後、同じ時間にキハラ様が迎えにいらっしゃいました。

 揺られる馬車の中で他愛ない話をしつつ、私達は再びエイステット学園へと向かいます。

 学園の入り口には、前回と同じ試験官の方々が待って下さっていました。けれども、今回は少し違っていて、前回と同じ教室へ案内されると既に、ドルガノ様とクレイブ様とダスガン様とガイエス様が後ろの席に座っていらっしゃいました。

 私は、少し驚いたのですが皆様に会釈をし、前回と同じ場所へと着席しました。


 今回は、アーガオーリ様が人の良さそうな笑顔で教壇の前に立ちました。その少し後ろの左にウエス様、右にダッカ様が立ちます。その姿に流石に私も少し緊張してしまいました。

 アーガオーリ様が、教壇の上に置かれている書類入れから紙を一枚取り出し、一瞥するとこちらを見ました。


「さて、エリン君。多分気が付いては居たかと思うが、この間の試験はこの学園への編入試験です」


 多少不思議な問題も入っておりましたが、概ね、その様な内容でした。私は、小さく頷き、入り口に立ているキハラ様をちらりと見ました。キハラ様も小さく頷いていらっしゃいます。


「本日来て貰ったのは、その結果をお伝えする為です」

「はい」


 私は、居住まいを正し、アーガオーリ様を見ました。すると、にっこり笑って頷かれました。


「おめでとう、エリン君。エイステット学園への入学を認めます」

「ありがとうございます」


 私は、礼をする為に立ち上がろうとしました。すると、アーガオーリ様が右手で座ったままでいる様にと指示をされます。よく分からないのですが、私は立つのをやめて座り直しました。


「続いてだがね」

「?」


 私は首を傾げて見ていると、アーガオーリ様は、先程手に持った紙を横に置き、書類入れから次の紙を取り出しました。


「一年生、二年生、三年生の飛び級合格おめでとう。よって本日を持ってエイステット学園の卒業を認めます。卒業おめでとう!」

「ありがとうございま・・・・す?」


 傾げた首を戻す事が出来ないままお礼を、取り敢えず言ってみました。すると、戸口に立っていたキハラ様が、思わず一歩前に飛び出されました。


「ど・・・どう言う事ですか!?卒業?え??」


 キハラ様はそれ以上前には進まなかったのですが、試験官の方と私と、その後ろを交互に見回し慌てている様です。すると後ろからダスガン様の声が響きました。


「キハラ!定位置に戻りなさい。まだ発表は終わっていない」


 私、入学した途端に卒業したみたいですが、発表は終わっていないそうです。まだ何かあるのでしょうか?キハラ様は、ダスガン様の声に、定位置へ戻ると私を心配そうに見ていらっしゃいます。私は後ろからの声に振り向く訳にもいかず、キハラ様に頷きかけてから、もう一度アーガオーリ様を見ました。


「君の希望はまだ聞いていないが、先に試験だけさせて貰ったよ」

「?」

「結果としては、合格だ。後は君の気持ち次第だが、どうだろう?エリン君。私の研究室へ所属しないかい?」

「・・・?」

「私の研究室は新しい魔道具の研究をしているんだが・・・」


 魔道具・・・最初に気には成りましたが、鍛冶職はちょっと・・・・。

 更に首を傾げつつ、どう断ろうかと悩んでしまいました。


「まあ、どちらかと言うと、君を研究させて貰う方が優先されてしまうのだがね」

「アーガオーリ教授」


 アーガオーリ様の言葉に、ウエス様が少し咎めるような声を掛けて下さいました。


「ああ、すまん。言い方が悪かったね。私は、このエイステット学園の一角に研究室を持っていてね。魔力が有る貴族、魔力が有っても乏しい貴族や、魔力を持っていない平民等らが、日常生活を送るのに便利な魔道具の研究をしておる。しかし基本はやはり、魔力を持つ者達が使う魔法を研究させて貰い、魔道具への転換をはかり造っている」


 アーガオーリ様は、ウエス様の方を少し見ると続けました。


「ウエス君は火の魔法に長けていてね。彼の魔法を研究させて貰いつつ、火関連の魔道具を創造する手伝いをして貰っている」


 今度は、ダッカ様の方を見ました。


「ダッカ君は平民なので魔力は無いが、頭脳明晰で想像力が豊かだ。私達魔力を持っている者達では考えが及ばなかった様な作品を考案し、魔力が無い者でも使いやすくする為の要と成ってくれている」


 成程、ウエス様は家柄名が有るから貴族だろうと思ってはいましたが、ダッカ様は平民だったのですね。仰い方からするとアーガオーリ様も魔力をお持ちの様なので、貴族、もしくはだったと考えられます。


「そして、エリン君。君の事は、ドルガノ様から聞いているよ。火魔法と風魔法と聖魔法を使えるそうだね。複数の属性を使える人は少ない。実に興味深いと言える」


 光魔法も使えるのですが・・・いえ、そう言う事ではありませんね。しかし、どうなのでしょう?この力は模倣でしかありません。私が困惑していると、後ろからドルガノ様の声が聞こえてきました。


「先日話した、君の魔力の検査をして貰う為に、アーガオーリ教授の研究室預りとして学園へ通って貰いたい。この間、聞いた話は全て伝えてある。アーガオーリ教授の研究室は秘匿事項が多いので、外部を遮断して検査を行う事が出来る」

「本当はさ、エリンちゃんの年齢を考えたら学園へ通わせてあげたいなって思っての編入試験だったんだけどさ、あまりにもエリンちゃんの解答とそれにつけられていた補足が正確だったんで、試験官達が勝手に飛び級出来るかもって、どんどん次の試験をしちゃったんだってさ」


 ドルガノ様の後をクレイブ様が続けて話して下さいました。


「そしたら、文句無しの合格!ついでに、研究室へ入る為の試験もしてしまったんだそうだよ」 

「そう言う事でございましたか。勿論、検査は受けるつもりでいますので、断る理由はございません。けれども、研究室への所属は・・・ご辞退申し上げます」


 過分なお申し出を断るのです、私は席を立ち、アーガオーリ様とウエス様、ダッカ様へお詫びの礼をしました。

 なにせ、私には今一番楽しみにしている事があるのです。ついこの間、ガイエス様が、私に薬師の勉強をする為の部屋を貸して下さったばかりです。出来るのであれば、私は、そちらへなるべく伺いたいのです。


「そうか・・・残念だよ。けれども、私の研究室の所属とは成らなくても、君の魔力検査は一手に引き受けさせて貰う。勿論、並行して研究も続けて行かなければ成らないので、週に1~3回は来てもらう事に成ると思うがいいだろうか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

「それでは、今から、簡単な魔力検査を行おうか、研究棟への移動となるが良いかな?」

「はい。お供します」






◇◇◇◇

 アーガオーリ様を先頭に、1階へ降り、石畳の通路を伝って隣の棟へと向かいました。

 研究棟の周りは高い塀で区切られており、入り口には、門番がいらっしゃいます。

 ウエス様が私達が入る為の手続きをして下さり、無事、全員で研究棟へと入る事が出来ました。


 長い廊下を抜けて、大きな扉の前に来ました。するとダッカ様が、入り口横の差込口の様な所へ、小さな銀色の魔道具を差し込みました。

 すると、目の前の大きな扉が内側へとゆっくり開いて行きます。

 アーガオーリ様を先頭に入ると、屋根が高く取られており、中は光の魔道具で辺りを照らしていますが、どこにも窓の無い無機質で縦長の広い部屋です。最後にダッカ様が入り、施錠されました。ダッカ様はそのまま、右奥にある机へと急ぎ、何か用意をしているようでした。


「エリン君、君の市民カードを見せて貰ってもいいだろうか?」

「はい」


 アーガオーリ様の言葉に、私は首に下げて服の中に入れていた市民カードを取り出し渡しました。


「ふむ。魔力無し、加護無しですね。しかし、属性は魔術師なんですね」

「はい」

「では、念の為にこれに手を置いて貰えますか?」


 ウエス様が、鏡の様な形をした銀板の魔道具を私の前に差し出しました。私は何も考えず、その銀板に手を当てました。


「反応しませんね」

「はい。私自身は魔力も加護もございません」


 アーガオーリ様とウエス様は顔を見合わせると、視線をドルガノ様へ向けた。しかし、ドルガノ様は何も仰いませんでした。


「では、次の検証をさせて頂きます」

「はい」


 ウエス様が右手を上げると、右奥に居るダッカ様が頷きました。すると、奥の方に的が2つ下からせり上がってきました。


「これは出来ますか?」


 ウエス様が、私から少し離れて、小さな声で呪文を唱え始めました。火魔法を使うようです。ダスガン様が以前貸して下さった本に書いて有ったのと同じ呪文です。ウエス様の体の中心から魔力がスルスルと細く流れ出てきて、体の周りを回りつつ、その魔力は赤く幾重にも練り上げられ力を増していきます。その一端が私に流れ込んで来ました。最後の呪文と共に、右手を的へと振りぬき、その軌道上を火魔法が鋭利な一閃と成って的へ当たり、的はゴオゴオと炎に包まれ焼失しました。


「貴方の魔法は模倣と伺いました。今のを模倣出来ますか?」


 分かりません。なぜなら、今までは攻撃関連の魔法は、私の体を素通りしてしまって、模倣出来ませんでした。しかし、今回の火魔法は私の中の何かに絡みつき残ったのです。・・・出来るかも知れません。


「やってみます」


 私は、自身の右手をじっと見ると、先程のウエス様が出した火魔法をクルクルと紡ぎ出し、ウエス様の真似をして、右手を的に向かって振りぬきます。すると、私の火魔法は勢いよく的へと吸い込まれて行きました。

 ・・・しかし、的は何も起きずそのままそこに有ります。私は手を的に向けたまま、何発も火魔法を発射します。けれども、私の眼には的に当たっているのが見えるのですが、的は揺らぎすらもしませんでした。


「・・・何も起きない様ですが?」

「はい」


 ウエス様の言葉に、私は同意する事しか出来ませんでした。この炎は一体何なのでしょう?


「エリン様!温風です。温風を出して下さい」

「は・・・はい!」


 キハラ様のナイスパスに頷き、私はそよそよと皆様へ温風を送ります。火魔法と風魔法の混合技・・・の模倣です。無風だった部屋に暖かい風が流れました。


「ふむ。温風ですね。初期魔法ではありますが、確かに使えている様ですね」

「はい!エリン様は髪を乾かすのが得意です」

「つまり・・・初期魔法で無いと模倣出来ないという事でしょうか?」

「いいえ、エリン様は攻撃魔法を使われたことが有りません。今のは攻撃魔法だったので、模倣出来なかったのでは無いでしょうか?」


 ウエス様の言葉に、キハラ様が答えて下さいました。私も、そうでは無いかと思っております。ですが、今回はあの火魔法は確かにここに有ります。けれども、同じ効果は発揮しない様です。どういうことなのでしょうか。


「そう言われましても、私の火魔法は攻撃系ですからね。攻撃以外の魔法と言われましても」

「エリン様は、風魔法で小さな物を移動させる事も出来ます!」

「はぁ」


 ウエス様は少しあきれ顔で溜息をつかれました。キハラ様が、私の名誉を守ろうと必死に訴えて下さっています。けれども、ただの模倣魔法です。今回の様な反応が、きっと正しいのでしょう。


「ダッカ、次の用意をしてくれ」

「はい!」


 すると今度は手前の方から、木箱を3つ乗せた横長の台がせり上がって来ました。


「エリン君は、ポーションの等級を上げることが出来ると聞いたので、研究室に有るポーションの一部を用意してみた。やってみて貰えるかな?」

「はい」


 アーガオーリ様の言葉に、私は頷き魔法を掛け、皆様の方を見ました。お互いに暫くじっと見あっていると、アーガオーリ様が困ったような顔で再度仰いました。


「魔法を使って貰えるかな?」

「畏まりました」


 そうでした、等級を上げる事だけしかせず、入れ替えるのをつい忘れていました。慌てて私は、風魔法を使って入れ替えを素早く行って見せました。


「全て等級を上げる事が出来る訳では無いので、等級が上がったポーションを等級毎に入れ替えました」

「え?もう?」

「ええ、風魔法を使うと入れ替えるのは、手でやるよりも早く終わります」


 私は、風魔法の説明をにこにことしました。風魔法は少し得意なのです。


「いや、そちらでは無くて・・・。いやはやそうか、呪文が要らないと聞いていたが、こんなに素早く行えてしまうんだね」

「本当に驚きですね。火魔法の時は何も起こらなかったから、何をしているんだろうと思ったのですが」

「その後に、温風を吹かせたじゃありませんか」

「初期魔法なら短い呪文なんだろうと思ったんですよ。まさか本当に呪文がいらないとは、思いもしませんでしたよ」


 風魔法の事では無かったようです。キハラ様が皆様の対応をして下さっています。未だに私には皆様の使う魔法がよく分かりません。私のは偽魔法なので、正しい魔法の使い方から逸脱してしまっているのでしょう。

 それよりも、私は出来る事なら、ガイエス様の用意して下さった部屋で、薬師としての勉強をしたいと、ついつい思ってしまいます。私は、ちらりと後ろで何も言わずにじっとこちらを見ているガイエス様を盗み見してしまいました。すると、隣にいらっしゃったクレイブ様がにこにこと手を振って下さいます。私は、取り敢えず会釈して置きました。


「それで、あの依頼は出来そうか?」


 ドルガノ様の声が聞こえたので、そちらを見ると、アーガオーリ様とお話し中の様です。


「今、エリン君の魔力の測定をダッカにさせている。それを分析してからでないと何とも言えませんね。今回の感触では、難しそうですね」

「出来る事限り頑張ってみてくれ」

「最善は尽くしますよ」


 何を話しをしているのでしょうか?お二人共眉間に皺を寄せて、お疲れの様です。滋養強壮剤が出来上がったら、アーガオーリ様にもお届け致しましょう。

 私はついつい、この間見たばかりの部屋で、どの様にして滋養強壮剤を作ろうかと、物思いに耽ってしまいました。



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