表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/57

会食

 馬車が、邸宅の前に止まると、直ぐに侍女達が扉を開けて、荷物を持って降りて行く。ムルダ様が、私に先に降りる様に指示をして下さいました。私、サポート無しで降りるのは初めてでございます!皆様と同じく颯爽と降りて見せますわ!

 私が、侍女達から遅れて扉をくぐると、目の前に慣れ親しんだ手が現れた。


「エリン、お手をどうぞ」


 ガイエス様が、私に手を差し伸べてくれています。新しい侍女見習いとの会食なのに、全力で向き合って下さっている姿に嬉しくなりました。そのご厚意に最大級の礼節にてお答えいたしますわ。

 ガイエス様にサポートされて馬車を降りると、私が掴みやすい様に、腕を私の方へ出してエスコートしてくれる。ただの会食なのに、どこまで紳士なのでしょう。私は、ガイエス様の腕に素直に手を添えて屋敷へと入りました。


「ガイエス様、それではエリン様をお借りいたします」

「ああ、頼む」


 屋敷へ入って直ぐにムルダ様が、ガイエス様より私の手を受け取った。そうでした、先に湯あみをしてからの会食でした。


「それでは、後程」


 私は、ガイエス様に黙礼をしムルダ様に連れられて、いつもの場所へと連れて行かれたのでした。

 いつも通りに侍女達に体を洗って貰い、今日は会食が有るので、マッサージは行わず、代わりに香りのよいオイルを全身に揉み込まれました。きつすぎない爽やかな香は、私が動くとふわりと香ってとても上品だと思いました。

 会食用の服へと着替えさせて頂き、髪飾りは先程のと同じものを付けて頂きました。


「さあ、皆様がお待ちかねです。こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


 ムルダ様が先を歩き、その後を付いて行きます。そのまた後ろを先程の侍女達がついて来るのですが、この方々も今回の会食に参加されるのでしょうか?

 食事を行う広間へ入ると、一番奥にドルガノ様が座っていらっしゃって、左にガイエス様、右が多分クレイブ様がお座りに成り、私が来た事に気が付くと直ぐにガイエス様が席を立って来て下さいました。

 差し出された手に手を重ねると、私を自分の席の隣に誘って下さいました。


「本日はお招きありがとうございます」


 私は、席に座る前にドルガノ様とクレイブ様に失礼の無い様に、貴族としての最大級の礼をしました。私は、今は平民では有りますが、礼儀を重んじる事は悪い事では有りませんよね?


「お初にお目にかかります。私は、クレイブ・ラジェットと申します。以後お見知りおきを」

「エリンと申します。これから精進してまいりますのでよろしくお願いいたします」


 やはりお兄様のクレイブ様だったようです。私が席へ連れられて来ると立ち上がり、礼を返して下さいました。不思議な事に、にこにこと快活に話されるクレイブ様は、どこかで見た事が有る様な気がしました。


「堅苦しい挨拶はいい、今日はただの顔合わせだ。食事にしよう」

「ありがとうございます」


 ドルガノ様が、私に座るように手で示し、お側に立っている執事(イオーク様)へ合図を送ると、イオーク様がメイド達へ伝令を出した。すぐにメイド達がテキパキと料理を私達の前にサーブしてくれる。食事は、コースに成っており、一人に一人メイドが付いて、その人のタイミングに合わせてくれるので、とてもゆったりとした気持ちで食事をする事が出来ました。


 先程、一緒に入室した侍女を目で探すと、私の後ろにムルダ様と一緒に控えていました。

 これでは、私付きの侍女の様です。これから仕事を教わる先輩なのでしょけれど、ガイエス様のお父様とお兄様がいらっしゃったので、そうするしか無かったのでしょう。


「これから、半年間は週末はこちらで侍女見習いとして生活をして貰う事に成るが良いか?」

「はい。よろしくお願いいたします」


 食事が終わり、お茶をサーブされ、人心地付いていると、ドルガノ様が仰いました。

 これは決定事項ですので問題はございません。


「まあ、名目上ではあるがね。その間にも、前回伝えたように、色々と対応して貰わなければ成らない事が出て来るだろう。その時は、そちらを優先してくれると助かる」

「はい。勿論でございます」


 ドルガノ様の言葉に頷くと、前の席から、クレイブ様が声を掛けてくれた。


「エリン・・・ちゃんでいいかな?公式なところではエリン殿と呼ばせて貰うけれど、弟の家でまで畏まられたくないしね」

「はい」


 本当に、どこかで聞いた事が有る話し方です。どこでだったでしょうか?思い出せそうで出せません。


「エリンちゃんは、薬師に成りたいんだって?」

「はい。志しております」

「残念だなぁ。この間の事を聞いたけど、エリンちゃんなら聖女に成れるんじゃないのかな?なる気は無いの?」


 ガイエス様のお兄様は又聞だった為か、私の偽魔法が誰かの真似でしか無い事を知らないのかも知れません。


「いいえ、ございません。と申しますか、烏滸がましくてその様なご無礼は致しかねます」

「烏滸がましい?どうして?」」

「その・・・私のは偽魔法で、ただの模倣でございます。正式な魔法では無いのです。一からポーションを作る事が出来る訳でもないですし・・・。」


 私は少し恥ずかしくなって顔を赤くして答えました。なにせ、自分で一から作ったポーション擬き薬は副作用(?)が酷くて安易に使って良い薬とは言い難かったのですもの。


「少し特殊なのかも知れないけど、出来上がっているポーションを上級へ変化させられるなんて、稀有な才能だと思うけどな。それに、君に合う魔道具が作れたら、ポーションも作れるんじゃないのかな?」


 どうなのでしょう?私は少し首を傾げてしまします。ふと隣を見るとガイエス様も悩んでいる様です。


「勿体ないな・・・・」

「これからエリン殿には、色々な事に協力をして貰い、その上で、どの様な事が出来るのかを調べた後に、危険性が無いと分かれば、何かしら協力を依頼する事も有るだろう。よろしいかな?」

「はい。謹んで務めさせていただきます」


 クレイブ様の言葉をかき消すように仰ったドルガノ様のお言葉に、恐縮して頭を下げました。あの様な偽魔法ですもの、きっと依頼される事は少ない事でしょう。それでも、行き場の無い私を拾って下さった皆様の為に、出来る限りの恩返しはしたいと思いました。


「明日も巨大害獣退治に行くのか?」

「はい」

「本来であれば、週末はエリン殿の休日だ。あまり無理をさせる事が無い様にな」

「はい」


 ドルガノ様の言葉に、何故かガイエス様は視線を泳がせて答えています。どうしたのでしょうか?


「エリン殿も、ガイエスから無理を言われる様であれば断りなさい。断りにくいのであれば、私に言いなさい」

「ありがとう存じます。ですが、今まで一度もガイエス様から無理難題を頂いた事はございません。いつも良くしていただき感謝をしております」

「・・・そうか。」


 どうしたのでしょう、ドルガノ様が眉を顰めてガイエス様をご覧に成っています。ますますガイエス様の挙動が怪しくなりました。どうかしたのでしょうか?


「それにしてもエリンちゃんには感謝だな。俺は何度もガイエスの家に行きたいと言っていたんだけれど、全く呼んで貰えなくて寂しかったんだ。エリンちゃんが来てくれた事で、やっと来れたよ」


 家族仲が悪い様には見えないのですが・・・。取り敢えずクレイブ様へは微笑んでおいた。


「心配だから今後も、様子を見に来るね!」

「来なくていい」


 クレイブ様の声に、間髪入れずガイエス様が答えました。そっと隣を伺うと、少し頬が赤くなって拗ねた様なしぐさをする可愛らしいガイエス様の姿に驚きましたが、ドルガノ様もクレイブ様も、ガイエス様を優しい眼差しで見ています。親子の情愛を感じました。・・・少し羨ましいです。





 それから暫くして、お二人をお見送りした後、ムルダ様に連れられて、私はいつもの客室へと退出をしました。

 部屋は既に整えられており、私が出来る事は何も無い様でした。

 部屋へ戻ると、先程の二人の侍女が部屋着へと着替えさせて下さいました。私も勉強だと思いつつ、先輩の侍女達の手裁きを見逃さない様にじっと見ましたが、後ろに回られてしまうと見えませんでした。追々という事でしょうか?


 私の着替えが終わるまで、部屋を見て回っていたムルダ様が、用意が整った私の前へ戻っていらっしゃいました。すると侍女のお二人が一歩後ろに下がりました。

 

「この二人は、これから()()()()()()()()()と成ります。左からサエラ・リクルとマナ・ミリアードです。何かあれば、この者達にお申し付け下さい」


 部屋付きの侍女なのですね。そうすると私もこの部屋付きの侍女見習いとして働くという事なのでしょうか?私は、お二人に向き直り礼をしました。


「エリンと申します。至らぬところも有るかと思いますが、よろしくお願いいたします」

「「畏まりました」」


 お二人も、綺麗な礼をして下さいました。後輩に対してだと言うのに、礼儀正しい方々です。見習うところが一杯ありそうですわ。


「明日の事もございますので、本日は早めにお休み下さい」

「お心遣いありがとうございます。明後日からと言わず、本日から侍女見習いとして頑張りますのでよろしくお願いいたします」


 私が、ムルダ様に頭を下げ、顔を上げると困ったような驚いたような表情でムルダ様がこちらを見ていらっしゃいました。


「どなたからもご説明が無かったのでしょうか・・・?。会食の時にお話が無かったので、もうご存じなのだとばかり・・・失礼いたしました」


 ムルダ様が呟くように仰るので、私は首を傾げてしまいました。


「どうぞ、お掛けに成ってお待ち下さい」


 ムルダ様はそう仰ると侍女達にお茶の用意を告げて部屋を出て行かれました。私が困惑していると、サエラ様が私にソファを勧めて下さり、マナ様がお茶の用意を始められました。


「あの・・お手伝いを致しましょうか?」


 先輩に何もかもお任せするのは申し訳なくて声を掛けると、サエラ様がにこにこと微笑みながら首を振った。


「ムルダ様より、エリン様はこちらでお寛ぎ頂き、お待ち頂く様にと承っております」

「カラナダ産のティーでございます。お休み前にお飲み頂くとゆっくりお休みいただけると言われております」


 マナ様がお茶をサーブして下さいました。これではまるで・・・?混迷を深め始めた頃、扉がノックされ、ムルダ様がガイエス様とイオーク様を連れて戻っていらっしゃいました。

 慌てていらっしゃったのでしょう、ガイエス様は、室内着にガウンを羽織っていらっしゃいます。そのままの勢いで私の隣に座られたガイエス様が、開口一番に謝られました。


「すまない、エリン。まさか誰も君に説明をしていなかっただなんて!君が勘違いしているとは思いもしなかったんだ」


 はい?よく分からず首を傾げると、頭の上から声が聞こえて来た。


「エリン様、ご説明させていただきます」


 そのよく通る声はイオーク様の声でした。


「週末、侍女見習いとしてラジェット家預りとさせて頂いたのは表向きの理由でございます。その為、週末お越しいただいても、侍女見習いをする必要はございません」

「私も、ついこの間聞いたばかりなんだ」


 イオーク様の言葉の後に聞こえたガイエス様の声に、私は内心(ああ、やはり・・・)と思った。


「エリン様も元貴族でいらっしゃいますから、未婚の男性の家に、頻繁に何の目的か分からない女性が訪れていると噂が立つ事が問題なのは、お分かりいただけますよね?」

「はい」

「けれども、冒険者の無茶な狩に無理矢理同行させられているエリン様を、放置する事は出来ません。それで一案考えまして、ガイエス様のお父上にご相談させていただいたのです」


 それは分かります。コクリと頷いて見せました。とは言えど、いつまでもご厄介に成るばかりで何も返せない状態なのは心苦しいと思っていました。


「理由付けが欲しかっただけなのです」

「理由付け?」

「そうなんだ!侍女見習いはただの理由付けなんだ。本当にする必要は無い!」


 隣に座ったガイエス様のいつになく慌てている言葉に私はキョトンとしてしまいました。私は平民なのですから、そこまでお気遣いいただく必要は無いのです。


「エリン様は、薬師を目指していらっしゃるのでしょう?」

「はい」


 イオーク様の言葉に私は頷きました。


「毎週末、こちらへ侍女見習いとして来ていただきますが、リカバリー後は、薬師として身を立てる為の勉強をして頂ければと思っております。やりたい事が決まっていらっしゃるのですから、時間はその為に使って下さい。」

「え・・・」

「そうだよ、今、その為にいろいろと用意もしている」


 お二人の言葉を嬉しく思いつつも、私としても考えていた事がございます。


「ですが、私はご厄介に成るばかりで、何もお返しで来ておりません。せめて侍女見習いとしてお役に立てたらと思っております。どうか働かせて下さい」

「気にしなくていい。父が言った様に、週末は本来ならエリンの休日だ。好きにしていい日なんだよ」

「ありがとうございます。ですが、この服もそうですが、薬草の辞典や本など、ガイエス様には色々とご用意いただいてしまっていて、何もお返しが出来ておりません。せめて何かお役に立てたらと思っておりました。ですから・・・」


 私としては感謝の気持ちも込めて侍女見習いとして勤めようと思っておりました。けれども、私が言えばいう程ガイエス様のお顔が曇って行くのが分かります。どうしたらいいのか途方に暮れてしまいました。


「それであれば、やはり今やる事は薬師として身を立てる為の勉強ではありませんか?」


 イオーク様の声に私達は顔を向けました。


「本当に、ガイエス様に恩返しをしたいと思っているのであれば、この国の平民たちの為に安価で買える薬を作って下さい。平民に取って初級ポーションですら、高級品です。平民が買える薬は効き目がとても弱いものが多いと聞きます。大病や大怪我をした時に、助かるすべが少ない国民の為に役立つ薬師に成って下さい。私が伺った話では、そういった薬を作りたいと仰っていると聞いています。そうでは無いのでしょうか?」

「そ・・・そのつもりです」

「私の主はお優しい方です。エリン様がその様な素晴らしい薬を作る為の勉強をされる事の方が、きっと喜ばれると思います」


 私がイオーク様からガイエス様へ視線を向けると、ガイエス様が頷いて下さいました。


「それに、私はエリンが薬を調合している姿を見ていると、とても和むんだ。いつまでも見ていたいと思う」

「ありがとうございま・・・ん?私、ガイエス様の前で調合した事があったでしょうか?」

「え?う・・・うん。初めの頃だったかな?ちょっとだけ見た事が有るよ」

「・・・そうでしたかしら・・・?」


 思い起こしても思い出せません。戸惑っていると、イオーク様が畳みかける様に仰いました。


「じゃあ、そう言う事で、エリン様は薬師として大成する為に最大の努力をして頂くという事でよろしいでしょうか?」

「は・・・はい」

「期待しているよ」


 最大の努力!勿論ですわ。私、今までもずっと努力だけは怠った事はございません。出来る限り頑張ってみますわ!

 ・・・それにしても、ガイエス様はいつ、ご覧に成ったのかしら?




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ面白くて一気に読みました。 これから世に見つかると思うので、じっくり書きたいもの書いてください。 ハイファンタジー作者なら1日で天下取らせそうなチート能力をじっくり明かしていくのが推…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ