週末はここからなのね。
朝起きて、いつも通りに奉仕活動をし、仕事をした。
昨日の事が有った為か、今日はキハラ様はいらっしゃらないので、勉強時間は自習だと言われた。
一人の時にしている薬草の乾燥や、粉砕して瓶詰め等をし、時間が余ったので、部屋へ戻りガイエス様からお借りした薬草図鑑や薬辞典などを読んだ。
決死の覚悟で偽魔法の事を告白したつもりだったけれど、意外に大した反応は無かった。やっぱりなんちゃって魔法だったせいかしら?こんな事なら、初めから言えば良かったと安堵した。
考えてみれば誰かの物まねでしか無いのだから、やっぱり大した事では無かったのね。
それに私には薬師に成ると言う目標が有る。今はまだ、大した薬を作ることが出来ないけれど、皆様が仰る事が本当ならば、私が調べて初めて知りうる効果が、まだまだ薬草や雑草達に有るかも知れない。
そう言ったモノを探し出す事が出来たら、唯一無二の私独自の薬を作る事が出来るかも知れない。そう思うと少しワクワクしてしてくる。
けれども、やっぱり人が書いた薬草図鑑や薬辞典では、分からない。直に見ないと現在知られている効果以外のものを見る事は出来ないから。
とは言え、そろそろ巨大害獣退治も終わりそう。そうしたらガイ様との薬草採取も終わりに成るのでしょう。そうなったら、初めの頃の様に、乗合馬車で薬草採取に行く事になるのね。一人で行くのは緊張するわ。それに地理にも疎いから、地図を手に入れないといけないわね。乗合馬車の運行状況も調べないと・・・・あら?その前に、私、週末はガイエス様のご実家で侍女見習いとして働かく事に成ったのですよね?と言う事は、薬草採取の時間は取れるのかしら?
いつもだったら、細かい事は侍女に確認しておいて貰うのだけれど、もう、侍女は居ないのだから自分で確認しなければいけなかったんだわ。
・・・それに週末は侍女見習いと伺っているけれど、週末っていつからいつ迄の事なのかしら?
まだ、ガイ様との巨大害獣退治は終わっていない筈だから、明日は、いつも通りにお迎えを待てばいいのよね?その次の日かしら?
しかも私はもう平民なのだから、自分で乗合馬車に乗ってラジェット家へ行かないと成らないのではないのではないかしら?
「そう言えば私、ラジェット家の所在地を存じませんわ・・・・」
今までは、同席した侍女が先回りして手筈を整えてくれていた。これからは、どうしたものかと悩み首を傾げた時、大扉が開く音が聞こえて来た。
どなたかがいらした様だ。先触れの無い訪問。貴族の頃はあり得ない事だったが、今は平民なのだ、そう言う事も有るのでしょうと扉を見詰めた。
コンコンコンとノックをする音がした。私は居住まいを正し答えた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
開かれた扉からムルダ様が現れた。丁度、ラジェット家の所在地を誰に聞こうか悩んでいたのだけれど、答えが来て下さいました。
「まあ、ムルダ様如何されましたか?」
私は立ち上がると、シスターの礼をした。それにムルダ様がいつも見る礼を返して下さいました。きっと侍女としての礼なのでしょう。今後はこの礼をしなければいけないのねと見つめた。
「お迎えに上がりました。エリン様」
ムルダ様の言葉に、そっと視線を時計へと向けると丁度自習時間が終わった頃です。これから掃除をして夕食なのですが・・・? 私が戸惑っていると、ムルダ様の後から二名の侍女が、少し大きめの鞄を持って現れた。
私が首を傾げて見ていると、二人は鞄を開け、ドレスと言うには簡略化されているけれど、平民の服装と考えると少し豪華な服を取り出してこちらへと向かってくる。
抵抗する事なく、私はシスターの服から、その服へと着替えさせられ、薄紫の蝶を模った髪飾りで整えてくれた。侍女達は、鏡を前と後ろに持ち、私に見え易い様にしてくれる。
「エリン様、如何でございますか?」
私の前に立った侍女が、にっこりと微笑んで言った。
「ありがとう、気に入ったわ」
取り合えずお礼は言ったものの、迎えに来たとはどうした事か?私は、視線をムルダ様へと向けた。するとムルダ様が二人に指示を出し、私の方へ近づいて来た。指示された二人は、私のクローゼットの中から、いつも着ている冒険者の服と靴を取り出すと、持って来た鞄の中へ入れて部屋を出て行ってしまった。
「それでは、エリン様、参りましょう。こちらへどうぞ」
流石にここまでくれば分かります。これからラジェット家へ行くのでしょう。
・・・そう。週末は、明後日ではなく、今だったようです。
ムルダ様に促されるまま、私は扉を出ると、外で待っていたアキに微笑みかけた。
「エリン!今日から出かけるなんて聞いていなかったよ。そう言った話は、先に教えて貰えるかな?」
「ええ、ごめんなさいね」
私も今知ったばかりだけれど、アキを混乱させたのは事実なので謝っておきましょう。
裏門まで同行してくれたアキに、ムルダ様が礼をした。
「それでは、エリン様をお借りします。週末の夕方にはお連れしますのでよろしくお願いいたします」
「了解です!」
ムルダ様の侍女としての礼に対して、アキが騎士の礼を取った。私もシスターの礼をアキへすると、ムルダ様に連れられて馬車へと向かった。そこには、紋章は無いが、通常よりは豪華な馬車が停まっていた。
ムルダ様に勧められるままに乗り込むと、馬車はゆるやかに走り出したのでした。
私の前にはムルダ様が座り、私達の横に二人の侍女が座っている。これはラジェット家の使用人用の馬車なのでしょうか?何を話したらいいのか分からず、静かにしていると、ムルダ様が話しかけて下さいました。
「エリン様、邸宅へ到着いたしましたら、一度体を清めて頂き、その後に会食と成ります」
「はい」
会食?他の侍女の方達と食事を取るという事なのでしょうか?
「本日は、初日という事もございますので、ドルガノ様とグレイブ様も同席されます。あ、グレイブ様はガイエス様のお兄様に当たります」
「・・・畏まりました」
侍女として入る場合は、主人と一緒に食事をするのですね。ウイスタル国では考えられない待遇です。身分に違いが有っても、家族の様に接して下さるのですね。素晴らしい考えだと思います。
「緊張される事とは思われますが、ラジェット家の方々は、尊敬できる方々ばかりです。ご安心ください」
「ありがとうございます」
先輩としてのお言葉ですわね。私は、必要以上心配させない様にとムルダ様に微笑みかけた。
馬車は速度を上げて走り、程なくして、ガイエス様の邸宅へ入って行った・・・。
「ガイエス様の邸宅の様ですが?」
「左様でございます。これから毎週末、私共がお迎えに上がり、帰宅時もお送りいたします」
「ラジェット家の本宅では無かったのですね」
侍女見習いとして働くのは、ガイエス様の邸宅だったのですか・・・。
「はい。今まで通りですから、ご安心下さい」
「ありがとうございます」
私は、少しホッとしてしまいました。ラジェット家の本宅が嫌だった訳ではないけれど、一人で知らない館へ行くのは、少し不安でした。
言えなかったけれど、侍女の仕事に就くつもりが無いので、本来なら不要な勉強だけれど、知識は無いよりは、有った方が良い。ここなら、殆ど顔見知りなので、胸を借りるつもりで精進してみようと思いました。