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ドルガノの憂鬱

 部下にエリン殿を教会へ送らせて、私は、会議室に残った皆を見回した。


「何かありそうな気はしていましたが・・・偽魔法ですか」


 ダスガンが呟くように言った。他の二人を見ると、少し俯き加減に神妙な顔をしている。


「エリン殿が、魔法が使えるのでは無いかと思った事はあるのか?」

「私は考えもしませんでしたが、そう言えば、ガイエス様が教会へ着いて直ぐに魔力検査をして欲しいと仰っていました」


 ダスガンは、そう言うとガイエスへと視線を向けた。すると、ガイエスがバックから紙とペンを取り出し、書き出した。書き終わると、それを私の方へ差し出す。そこには、(帰りの船でそうでは無いかと思う事が有った)と書かれている。皆も、その紙を覗き込んでいる。


「どうしてそう思ったのですか?」


 ダスガンの言葉にガイエスが、再びその紙を取ると記入し、またこちらへ寄越した。そこには(回復魔法が使えるのは私しか居なかった筈なのに、回復魔法を受けた者が複数名いた)とある。


「そう言っている者がいましたね。私はガイエス様がされたのだとばかり思っていましたが・・・」


 ガイエスが紙を引き寄せ(私では無い)と書いた・・・・。うざい。


「ガイエス、面倒だ。お前も魔法契約を解除して貰ってこい!」


 ガイエスはこちらを見ると、なぜか首をふるふると横に振った。ある日を境にして、エリンの報告が書面に変わった。聞くと、冒険者ガイとして、エリンの信頼を得る為に魔法契約を交わしたと言うのだ。その契約書を見て私は唖然とした。

 しかし、所詮は魔力が無い平民が行う、魔道具での魔法契約書だ、穴が有る。他人に話す事は出来なくなったが、話さなければいいのだ。この様に書面に起すのは問題ない。だが、まどろっこしい事この上ない。


「もう、エリンの秘密は無くなったのだから、この契約も不要だろう?次に会った時に解除して貰ってこい」


 なぜかガイエスは、ふいっと向こうを向いて拒絶を表したが、直ぐに紙を引き寄せて記入し、私の方へ押し出した。

 覗き見ると(エリンを、侍女見習いとして週末働かせると聞きました。本当ですか?)と書かれていた。

 顔を上げて息子を見ると、じっとこちらを見ている。なぜか他の二人もこちらを見ている。


「ああ、本当だ。だが、それはお前の所の執事のイオークからの依頼だとムルダから聞いているぞ?」


 途端に、ガイエスの顔が驚いたような表情に変わり首を傾げた。まるで気が付いてない息子にため息が出た。


「ムルダからも連絡があった。お前がエリン殿を毎週末引っ張り回すからそのフォローが大変だとな」


 何か言いたげな顔をしているが、心当たりが有るのだろう、何も言わず(言えず?)こちらを見ている。


「このままでは、悪い噂が立ってしまうかも知れないので、行儀見習や侍女見習いと言う名目を付けて欲しいと言って来たのはそっちだぞ」

「と、言う事は、侍女見習いとしてエリン様を受け入れるのはラジェット家の本宅では無く、ガイエス様の屋敷なのですか?」


 静かに聞いていたキハラが言葉を挟んで来た。ガイエスの言いたい事と合致したらしく、ガイエスも私を凝視している。


「そうだ。名目上は本宅預りだが、事実はガイエスの屋敷の方で受け入れる事になる」

「い・・・今まで、週末は冒険者ガイと巨大害獣退治に出ていると聞いていたのですが、次の日はガイエス様の邸宅にいらっしゃったのですか?」


 初耳だったらしくキハラが続けて質問して来た。


「そうか、キハラは知らなかったな。実は・・・」


 ダスガンが私とガイエスへ視線を漂わせる。私は、仕方あるまいと頷いた。


「他言無用に願いたい・・・勿論エリン殿にもだ、実は、冒険者ガイとはガイエス様の事なんだ」

「・・・」


 驚いた顔をしたキハラが私達を交互に見ながら呆けた顔をした。


「色々あってな・・・エリン殿が体力が乏しいのは分かっているよな」


 ダスガンの言葉に、キハラがカクカクと頷いた。


「巨大害獣退治は、エリン殿にはとても厳しいものだった。そのリカバリーに翌日はラジェット家随一の侍女が当たってくれているのが現状だ」

「しかし、独身男性の家に独身女性が毎週通っている事が知られれば、ガイエスに取って醜聞以外の何物でもない。だが、侍女長(ムルダ)の話では、リカバリーは必須だそうだ。そこで、一案を練ったと言う訳だ」


 ダスガンの言葉の後を私が引き取った。そこまではダスガンにも話して居なかったからな。


「司祭とも相談し、半年は教会預りにし、その間の週末はラジェット家預りとさせて貰う事になった。その後は追々考えて行こうと思っていたが、この様な事なら、半年待たずに無理にでも本家の預かりにしておけば良かったな」

「いえ、それは無茶でしょう。教会側も、特別補助金が必要だろうし・・・・あ、いやエリン殿の再教育と見極めの時間もですが、私はこれで良かったと思っています」


 ダスガンの言葉に私は腕を組み深く息を吐いた。

 エリン殿を受け入れるに当たり、ウイスタル国への輸出の関税を引き下げ、輸入については便宜を図って貰えるように交渉をした。こちらに有利な条件を出したにも拘らず、契約が成立した事には驚いたが、それ程、エリン殿が問題児なのだろうと思っていた。


 それでも、15歳で未成年の少女だ。甘やかされてきたのであれば、成人するまでに教育をし直せば良い。母国では侯爵令嬢だったかも知れないが、こちらでは平民と成り知り合いも居ない。突然平民として扱われどの様な態度を取るか?教会から苦情が来るのであれば、それに沿って、教育方針を考えるつもりだった。


 しかし、苦情は上がって来なかった。

 私も、入国した時に、観察する為に役所で会ったが、頭脳明晰で狡猾な悪女・・・いや、悪少女(?)が来ると身構えていたが、世間知らずのお嬢様そのものだった。狡猾さが上滑りばかりしていて、ウイスタル国が言っている様な頭脳明晰で狡猾なご令嬢には見えなかった。


 最初は、こちらが得をした契約だったのでは無いかとほくそ笑んだものだ。

 だが、エリン殿に関わった者達が異常にエリン殿を擁護するようになり、その中に、私の息子(ガイエス)が居た事も驚愕だった。司祭殿との会話でも、特別補助金が貰えなくなるからと言うよりも、エリン殿を渡したくない様に感じた。あの娘には一体何があると言うのか?


 週末、ガイエスの家ではなく、本宅で面倒を見て、エリン殿を自分の目で見極めた方が良いのだろうか?

 それにあの偽魔法、常識を逸脱している。魔法を使う時の正しい行動を覚えさせる必要があるだろう。勿論、本当は何も必要無いのだろうけれど、使う時にはパフォーマンスとして行わせるように教育し直した方がいいだろう。


「父上?」


 私は、物思いにふけってしまっていた事に気が付き、顔を上げた。皆がこちらをじっと見て言葉を待っている様だった。


「すまぬ。先ほどの事で少し考えてしまった。」

「偽魔法の事ですね」


 直ぐにダスガンが答えた。私はゆっくりと頷く。教育が必要だ。これは変わらない。だとしたら・・・?


「ドルガノ様、私は思うのですが、エリン殿は15歳、本来であれば、まだ学生の身分です。偽魔法を持ってはいますが、使い方を知りません。それを補う為にも、学院へ通わせてはどうでしょうか?」


 同じような事を考えていたらしいダスガンが、思い切った様に言い出した。


「勿論、平民として編入試験を受けさせます。受からなければそこ迄ですし、受かるのであれば、我が国でも知力の高い者や、貴族の血が入った少し魔力を持っている者達も通っている学院です。問題は無いかと思います」

「ううむ。私も考えはした、したが・・・真実は分からないが第三級犯罪者を、我が国の最高峰の学院へ入学させる?教育を受けさせる?それは良い事なのだろうか?他の子供達に悪影響を与えないと言えるだろうか?」

「分かりません。しかし、魔法の勉強を受けるのであれば、最適な場所です」


 ダスガンが言う事も分かる。しかし、それはどうなのだろうか?


「学院で無くても、家庭教師を雇うと言うのはどうでしょうか?」

「家庭教師では、実習をする為の安全な場所が用意出来ない。俗にいう魔法の家庭教師は筆記試験の為に雇われる者が殆どだしな」

「そうでしたか・・・であれば、我がミール領は自然が豊かな土地です!ミール領に来ていただければ、安全な訓練場を提供出来ます!」

「エリン殿には、移動に抑制が掛かっている。ミール領は圏外だ」

「あ・・・そうでした」


 キハラの言葉に、ダスガンが答えた。ダスガンの言う通り、エリンが移動出来るのは、第一騎士団の守備範囲内でも、内側のみだこれを広げる事はそうそう無いだろう。


「まずは学院長へ打診してみよう。その上で検討する事とする」

「「「はい」」」

「それから、ウイスタル国との貿易に支障が出てきていると聞いたが、本当か?」


 私が、ダスガンを見て言うと、ダスガンが真面目な顔で頷いた。


「本当です」


 他の二人は聞いていなかったらしく、驚いた顔をしている。


「実は、ここ最近、貿易船からハンターへの護衛の依頼が頻発しておりました。それが度を越して来たとハンター教会から連絡が有りまして、確認したところ、船出をした時は、快適だそうなのですが、ある一定度ウイスタル国へ近づくと、海の害獣や魔獣が大量発生しており、日々それが増えているとの事なのです」

「ウイスタル国では、何か対策を練っていないのか?」

「向こうのハンターが助けに成った事もあると聞いています。ですがウイスタル国のハンターギルドもかなり活発に活動をしている様なのですが、害獣や魔獣の大量発生に対応出来ていない様なのです。このまま増えて行く様では、ウイスタル国との貿易が難しくなると商人たちが訴えています」

「騎士団であれば、船団を守って貿易を続けていけそうなのか?」

「分かりません。話を聞くだけでも、害獣や魔獣の発生状況が異常に思われます。ウイスタル国へ近づくことが出来ず、逃げ帰って来た貿易船も数隻発生していますし、未だに戻らない貿易船もある様です」


 ふむ。折角、エリン殿を引き受ける代わりに、有益な貿易の契約したのに、そもそも貿易が、出来ねば意味が無い。特に、今世紀最大の聖女が現れたウイスタル国だ。上級ポーションの買い付けを増やすつもりだったのだが・・・。


「上級ポーションの仕入れも、ウイスタル国へ依存している部分もあります。このまま貿易が立ち行かなくなると我が国でも支障が出て来る可能性が有ります」


 ダスガンの言葉に、ちらりと先程のエリン殿の姿が浮かんだ。多分それは皆も同じだったらしく、何も言わないけれども、各方面に対策が必要だとさらに思わされた。


「魔物が活発化して来る時代には、今世紀最大の聖女が現れると言いますが、これがその片鱗なのでしょうか?これからもっと魔物が現れて来るのでしょうか?」


 心配そうな声でキハラが呟いた。その言葉に、誰も答える者は居なかった。



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