教会 一般開放 7
メンテが入って、弱りました。取り合えず・・・・これで大丈夫かな?とUPします。
「ちなみに、その偽魔法でポーションをランクアップするところを見せて貰えるだろうか?」
そろそろお暇する準備をしようかと思っているところでドルガノ様が、仰いました。私としては問題が無いので、頷きました。
「今、ポーションはどれだけある?」
「第一騎士団の管轄では、既に巨大害獣も殆ど現れなくなりましたし、魔物も減少の一途を辿っています。ただ、偶に現れる魔物が中級以上で王都よりかなり遠く、そこの領主から依頼されて向かうので討伐に1~2日かかってしまいます。その為中級ポーションの方がこのところ使用頻度が高く成っています」
「なるほど、であれば初級ポーションの在庫が多いのか」
「はい。しかし、他の騎士団の所はまだまだ巨大害獣も魔物討伐もあるので、第一騎士団へのポーションの振り分けは、一番少ないですね」
ドルガノ様とダスガン様が一頻りお話しするとこちらを見ました。私に何か求めていらっしゃるのでしょうか?よく分からないのでキハラ様を見てみました。すると、キハラ様が力強く頷かれました。
「行きましょう!エリン様」
「はい」
キハラ様に促されて立ち上がると、ダスガン様を先頭に会議室を出ました。階段を降り、地下へと向かっています。途中、キハラ様が抜けて戻って来ると、ダスガン様へ鍵をお渡しに成りました。きっとポーションを保管している部屋の鍵でしょう。
その扉の前に立つと少し空気がひんやりとしていました。ダスガン様が鍵を使い扉を開けて皆を中へと促します。全員が入室するとカチャリと鍵のかかる音がしました。
ダスガン様が先頭へ戻り、私達を部屋の奥へと誘います。その道すがら、体に纏わりつくひんやりとした空気に私は眉を潜めます。何か分からないのですが、魔力を感じるのです。進む道の両端には棚が設けられており、そこには、色々な薬が保管されていました。どれも初級ポーションよりも精度が落ちますが、傷薬や毒消しや麻痺解除薬が見えます。
「これは市販で売られている薬です。ポーションが作られる量は限られますから、ポーションで無くても間に合いそうな時は、こちらの薬を優先的に使っています」
「そうなのですね」
思ったよりも大量の薬棚に驚いている私へ、キハラ様が補足して下さいました。そうしている間に、一番奥にたどり着きました。より一層空気が冷たくなります。
「ここにあるのがポーションです」
ダスガン様が、ドルガノ様へ説明をしつつ、私を振り返りました。見覚えのある箱が山積みされています。
手前の左から大量の初級ポーションがあり、次の棚には初級の半数以下くらい量ですが中級ポーションが置かれています。上級ポーションはこじんまりとして置かれてありました。
更に近づくと冷気を一段と強く感じます。私は寒さに身震いしてしまいました。すると、ふわりと肩に温かいものが掛かり、驚いて振り返るとガイエス様が、ご自身の上着を私に掛けて下さっていました。
「この倉庫には、時を止める魔道具が使われている。薬は消耗品だから使用期限がある。人に寄るが、この魔道具を使うと、肌寒いと言う者も居る。エリンもそうか?」
「はい。ガイエス様は大丈夫でしょうか?」
「ああ、私は肌寒さを感じない。と言うか、エリン以外は感じていないようだ」
「エ・・・エリン様!気が付かず申し訳ありません」
私達の会話を聞いてキハラ様が、慌てて謝られてしまいました。けれども、きっとこの肌寒さを感じるのは私だけなのです。分かる訳が有りません。
「大丈夫です。今は温かいですから」
私の言葉にキハラ様が恐縮した表情を浮かべていました。ちらりとガイエス様を見ると、眼差しがいつもよりも優しく見えるのは気のせいでしょうか?少しこそばゆく感じます。
「エリン、申し訳ないが、エリンがランクアップしたポーションは、こちらの箱に入れて貰えるか?多分、今までも知らずに使っていたから、問題は無いと思うが、一応、調べてから使いたいんだ」
「はい、畏まりました」
ダスガン様が、一つ空の木箱を私達の前に置いて仰いました。
私は頷くと、ポーションに偽魔法を、初級・中級・上級に分けて一気に掛けました。変換されたポーションの数と木箱を見比べると、一つの箱には収まらない様です。ダスガン様が木箱を取って下さった方を見ると、まだ幾つか空の木箱が残っておりました。
「では、入れ替えさせていただきますね」
私は、そっとガイエス様の上着の端を握り、風魔法を操り、奥の木箱から変換済のポーションを空へ舞い上げ、ダスガン様が用意して下さった空箱と、風魔法で取り寄せた追加の空箱へとひょいひょいポーションを収納します。ついでに、変換出来なかったポーション達がランダムに残ってしまっているのが気に成り、きちんと整理して入れ直し、空いた箱は、先程の空き箱が有った場所に移動させました。
「左側から、中級ポーション・上級ポーションです。後、1つだけ特級ポーションが出来ました」
足元の箱を指差し私が、説明をすると、皆様が驚いた顔をしてこちらを見ています。その中でガイエス様だけが、私を見て微笑んでくれています。他の皆様は、変換出来なかったポーションの個数が多くてがっかりしているのかも知れません。
「申し訳ありません。何が違うのか、私にも分からないのですが、変換出来るポーションと出来ないポーションがある様なのです。残っているポーションは変換は出来ない様です」
私が恐縮して頭を下げると、慌ててダスガン様が仰いました。
「い・・いや、いやいや、もう?・・・こんなに?しかもあれは何だ?」
仰る意味が分からず、私は首を傾げて、いつも通りキハラ様を見ます。するとキハラ様もあんぐりとした顔をしていました。私はまた何か間違えてしまったのでしょうか?
「無詠唱と聞いてはいたが、こんな無造作に出来るものなのか?」
ドルガノ様が唸るような声で仰いました。
そう言えば、誤魔化す為に、魔法を使う時は気付かれない様にしれっと使う努力をしていたので、いつ使ったのか分からなかったでのしょう。今回は、もう少し分かり易いパフォーマンスをした方が良かったかもしれません。
「はい。ご確認いただければと思います」
「い・・・いや、それだけでは無く、今のポーションを入れ直したのはどうやったんだ?」
「風魔法です。瓶の周りに小さな渦を起こして個々に移動させました」
「同時に!?これだけの量を!?」
これだけの量?多分1万本あるか無いかくらいだと思うのですが、移動と収納だけなので、大したことでは無いと思うのですが?
「なんて繊細な動きなのでしょう。瓶にも箱にも欠損が無いなんて、凄い操作能力です!」
キハラ様が私を誉めそやしますが、キハラ様は私に甘すぎます。風魔法が使える人なら、これくらいの事は当たり前なのだろうと思います。
「・・・特級」
ドルガノ様が、一本だけ出来た特級のポーションを手に取りました。渾身の作です。出来るとは思いませんでしたが、悪戯心からやってみたら一本だけ出来たのです。私はどや顔に成りそうなのを必死に堪えました。淑女の嗜みです。
「なんと言うことだ・・・・」
え!?ドルガノ様の背中しか私には見えません。やはりやり過ぎてしまったのでしょうか?
「特級ポーションは、王家が貯蔵している数本のみとまことしやかな噂が流れているだけの、幻のポーションの事だ。エリンが気にする事は無い」
「・・・はい。今後は気を付けます」
ガイエス様が、私を見下ろして微笑んで下さいました。王家しか貯蔵してはいけない物だったのですね。今後はきちんと了承を頂いてから作る事に致します。
振り返ったドルガノ様の顔が少し渋いです。どうしたのでしょうか?
「エリン殿」
「はい」
ドルガノ様は少し考えたようでしたが、続けて仰いました。
「今までの生活を継続しなさい。決して、必要以上に魔法・・・偽魔法は使わない様に」
「畏まりました」
今までの流れであれば解禁されるとばかり思っておりましたのに、残念です。
「キハラ殿」
「はい」
ドルガノ様に呼ばれて、キハラ様が直立不動になり、全身から緊張感が漂っていらっしゃいます。
「薬の提出を頼む。後日審議する。その時には、関係者にも来て貰う事になるだろう」
「畏まりました!」
キハラ様が、騎士の礼を取り答えました。ドルガノ様は、再度手の中の特級ポーションを見詰めると、小さくため息を付かれました。宰相閣下ともなればきっとお疲れなのでしょう。何か薬師として疲れを取るようなお薬を造ることが出来ないでしょうか?私の今後の課題にするのも良いかもしれません。
「これについては、確認後、本物であれば王へ報告し無い訳には行かない。それまでは私が保管する。いいな」
「畏まりました」
「問題が山積みだな・・・・」
「・・・はい」
私の視線に気が付いたのでしょうか?ドルガノ様とダスガン様が私の方を見ました。私は、今後の課題を頂いたお礼も兼ねて、キハラ様を真似て力強く頷いて見せました。すると、お二人共肩の力が抜けたようで、うっすらと微笑んで下さいました。私頑張りますわ!
昨日の途方に暮れた気持ちは一転して前向きに成りました。皆様にお話して本当に良かったです。