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教会 一般開放 5

 手前の机に置かれた魔道具を横目に、私は示された椅子へと座ったのでした。


 ランディ様の前にはキハラ様が、シウス様の前には私が座りました。その為、目の前に、契約書が見えます。そこには秘密事項契約書と書かれています。沢山の項目が有り、秘匿しなければならない文言が所狭しと並んでいます。きっと、いつも使われている契約書なのでしょう。

 ここまでする必要は無いのにとキハラ様を見ました。すると、眉を潜めて秘密事項契約書を見ていたキハラ様が、口を開きました。


「この文言の最後に、これから言う言葉の追記をお願いします」


 シウス様が、ペンをインク壺にツンツンと入れてから、キハラ様を見ました。


「エリン様の常識から外れた言動や行為について他言をする事を禁じる。エリン様ご本人とキハラ・ミール、ランディ・ファビレス、シウス・リドルスター以外の人物に一言でも伝えようとした瞬間に、エリン様の記憶は全て消去される」

「・・・?」


 シウス様が、キハラ様の言われたとおりに記入していきつつ、途中でペンを止めてキハラ様を見た。


「それは・・・どういう事?」

「この文言が記入された契約書を成立させない限り、お話しできる事はありません」


 困り顔でシウス様が隣のランディ様を見ると、ランディ様も顎に手を当てて悩んでいました。私も意味が分からずキハラ様を見ました。しかし、キハラ様は一貫して厳しいお顔のままです。


「話すなと言うだけで従属しろと言う訳ではないから、まあ、良いかなって思うけど・・・。エリン様、もしや我が国の乗っ取りとか考えます?」

「かっ・・・考えてません!」


 シウス様の言葉に、間髪入れず答えてしまいました。そんな、恐れ多い事、と言うよりどうやれば乗っ取れるというのですか!?こんな強大な国を!

 するとランディ様が胸元から護符を取り出しました。確か魅了阻害の護符です。ランディ様がちらりとシウス様を見ると、シウス様も懐から同じものを出しました。そしてお二人がキハラ様をご覧に成ります。キハラ様は、ペンダント型に成った素敵で強力な魅了阻害の魔道具を取り出しました。

 ・・・・私だけ持って居りません。少し疎外感です。


「ふー。シウス様、申し訳ありませんが、その文言でキハラが納得するというなら、後の責任は私が取ります。追記お願いできますか?」

「ああ、この程度の文言なら問題ないからいいよ」


 シウス様がすらすらと文言を追記し、キハラ様に契約書を渡した。キハラ様は契約書を一読すると、シウス様よりペンを受け取り署名し血判を押した。次にランディ様が署名し血判を押すと、私に契約書が回って来た。

 私は受け取ったペンと皆様を見回し、最後にキハラ様を見ます。するとキハラ様はぐっと右手を握りしめて強く頷かれました。私は気押されるままに署名と血判を押してしまいました。

 最後にシウス様が署名をし血判を押すと、魔法紙の直ぐ上の空中に魔法陣を引き始めました。


 契約魔法にも、種類がある様で初めて見る魔法でした。細かい魔法陣が描かれてゆき、それが緻密に成ればなる程その方の魔法の素晴らしさが分かります。シウス様が小さな声で呪文を唱えながら額にじっとりと汗をかきつつ魔力を魔法陣へと載せていきます。

 白色だった魔法陣が力を蓄えて金色に光り輝きだしました。その力がゆっくりと魔法紙へとしみ込んでゆき、魔法紙に書かれいていた文字が光り出します。金色に光る文字が、蓄えた魔法力により、時より線香花火の光の様にパチンと金色に弾けて、するりと私の中へ流れ込んできました。


「・・・綺麗」


 私は思わず呟いていました。暫く美しい光の渦を見続けていると、契約書からいつもの鎖が現れ、青色の鎖はキハラ様とランディ様とシウス様の体に吸い込まれて行き、それよりも少し薄い水色の鎖が私へと架せられたのでした。

 次第に光が消えて普通の契約書へと変貌すると、大きくシウス様が息を吐きました。


「契約完了だ」

「お疲れさまでした」

「ありがとうございました」


 シウス様に、キハラ様とランディ様が労う様に声を掛けている。私は何を言ったらいいのか分からず、静かに頭を下げました。


「さあ!キハラ殿、君の希望を叶えたんだから、心置きなく暴露してくれたまえ!そこの第三級犯罪者の、重大な秘密を!」

「ええ!?」


 私は、シウス様の言葉に、真っ青に成りました。私、何か暴露しなければいけない程の悪事を働いた覚えはございません。とは言え、これだけの大仰な契約をさせたのです。私が気が付かない内に、何かしてしまっており、それをキハラ様はご存じという事なのでしょうか。

 私はゴクリと喉を鳴らしキハラ様を見ました。


「シウス様、その様な言い方はエリン様を傷つけます。今後はお止めください」

「ふふ。私はランディ程、君の事を大切には思っていないからね。犯罪についての懺悔をされても、外部に漏らさないだけで、手助けをする気は有りませんよ?」

「犯罪の告白などございません!今後、エリン様とファビレス商会との間で取引を行う為には、秘匿していただく事が()()()()()()なのです」


 良かった。犯罪は無い様です。ホッとしました。けれども秘匿しなければ成らない事って何なのでしょう?


「キハラ、契約も交わしたし、私はキハラが困るような事はしないよ。だから安心して全てを話してくれ」


 何故かランディ様がキハラ様の右手をしっかりと両手で握りしめて、キハラ様だけを見詰めて話しています。見ているこちらがドキドキしてしまいます!


「ランディ・・・ありがとうございます。では、こちらへ移動して下さい」


 あ、キハラ様がランディ様からさっと手を抜いて私に笑いかけて下さっています。嬉しくは有るのですが、なんだかランディ様の視線が痛く感じます。気のせいでしょうか?

 キハラ様に連れられて、先程キハラ様に実演して見せた布の敷いてある机の内側へと移動しました。先ほどと違うのは左端に、先程は無かった魔道具が置かれている事くらいです。

 席を立ったお二人が、机の向かい側へと移動してきました。すると、キハラ様が直ぐにキュアル草とアサゲ草をロープから降ろして私に渡してくれました。


「実演した方が早いので、エリン様、もう一度薬草の調合をお願いできますか?」

「この間の薬の製法を見せてくれると言うのか?」


 私の頭越しに、キハラ様へランディ様が声を掛けます。私はお二人を交互に見ました。キハラ様はにっこり私に笑いかけて下さいます。


「そうです。まずは、ご覧ください」


 キハラ様の言葉に私は、少し緊張しつつも、日常的に行って来た作業をご披露する事にしました。私が作業をし、キハラ様が、先程私が説明した内容を、お二人にご説明しています。一度しかお伝えしていないのに、きちんと理解して下さっていて、流石はキハラ様です。とは言え、簡単な作業なので、少し恥ずかしくも思います。


「これで、お薬は完成です」


 出来上がった薬を乳鉢に入れたまま、お二人の目の前に置くと、二人でひそひそと話をしていました。


「あれは・・・使わないのか?」


 ランディ様が指をさす方を見ると、後から持って来られた魔道具でした。私は首を傾げてしまいます。


「あれは、何でしょうか?」

「サンセツ機だ。君がキハラに頼んだのだろう?」

「え!?これがサンセツ機なのですか」


 私は、驚きと共に魔道具を見ました。どう使うものなのか分からないのですが、薬草の本に載っていた言葉の意味が分かって、少し嬉しくなりました。

 キハラ様が、魔道具(サンセツ機)を私の前に置いてくれました。

 サンセツ機は四角いフォルムで、下に引き出しが4つ付いており、上に2つ、大きめの蓋と小さめの蓋が有ります。両方とも何かを入れるのでしょう。小さめの蓋の横にボタンの様なものが有りました。

「どうやって使うのですか!?」


 私がキハラ様を見て言うと、キハラ様はランディ様に視線を向けました。


「使い方は私がお教えしましょう」


 ランディ様がそう言うと手を出します。するとキハラ様がロープに吊るしておいたキュアル草を取り手渡した。流石です、何も言わなくても理解しあっています。私の方がちょっとにやけてしまいます。


「これは、平民で魔力が無い者が使う薬草の鑑定魔道具です」


 知りませんでした。鑑定出来る魔道具が有るんですね。


「サンセツ機は、かなり万能と言われています。今世紀最大の薬草魔道具だとね」


 そう言いつつ、ランディ様はご自身のバックから取り出した魔石を、小さめの蓋を開けて5つ窪みに入れました。次に、キハラ様から渡されたキュアル草を大きめの蓋を開け、そのまま入れます。砕かないのですね。

 最後に、ボタンを押しました。するとサンセツ機からコトコトと小さな音が聞こえてきました。暫くその音が続き、直ぐに聞こえなくなりました。それを確認したランディ様が、下に有る引き出し4つを一つづつ開けて見せてくれました。

 そこには細かく成ったキュアル草が3つの引き出しに分かれて入っていました。右端の4つ目の箱には何も入っていません。


 箱毎に、キハラ様が差し出した3つの皿へ入れると、今度は、アサゲ草をキハラ様から受け取ると、同じようにセットし、ボタンを押しました。これは何故か、先程何も入っていなかった4つ目の箱に細かく成って入っていました。それも別の皿に入れて並べました。

 一列に並んだ皿の中を見てみると、左側から50~35前後が混じっており、次が32~15前後まで、3つ目は13~4くらいのが混じっています。そして一番右の箱にはアサゲ草が葉と茎が纏めて入っていました。

 

 私は不思議に思いながらランディ様を見上げると、ランディ様が左側から指をさして言いました。


「こちらから、上級、中級、下級の薬として使います。そして最後の箱は何の成分も無いものを選り分けるゴミ箱です」

「え!?」


 私は、驚いてキハラ様を見上げました。すると苦笑したキハラ様の目と合います。


「つまり、君は鑑定スキルを持っているんだね。しかもかなり上級の」


 キハラ様が私からランディ様へ視線を流すと頷きました。


 ・・・鑑定スキル。そう言えば、以前、ガイ様から聞いた事が有ります。薬草の名前が見えるのは鑑定かも知れないと誤魔化しましたが・・・。成分って・・・あれ?見えるモノでは有りませんでしたか?ええと、過去の記憶では、買い物する時に必ず成分を確かめて、値段を見て買っていたような気が・・・・。

 いいえ、これは過去の記憶では無く、前世の記憶でした。パッケージに成分が書いて有るので、必ず見て買っていました。


 そうだわ・・・私、エリンシアは、殆ど買い物らしい買い物はして居なかった。必要な物は侍従やメイドに伝えれば用意されていたから・・・・この記憶は、間違いだったんだわ。


 私は一瞬目の前が真っ暗に成ってしまいました。


「エリン様!」


 遠くでキハラ様の声が聞こえました。ああ、私はまた失敗してしまいました。前世の記憶が当たり前の事として、私の記憶と融合してしまっている。これから私はどうすれいいのでしょうか。

 遠くなるキハラ様の声を聴きながら、私は意識を手放してしまったのでした。


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