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偽魔法と巨大害獣退治 1

 私は朝起きると、部屋を出て廊下の奥に用意してある樽くらいの大きさの水瓶(みずがめ)から、水を洗面器に移すと、顔を洗った。

 始めは、外の井戸まで行っていたが、途中からキハラ様が、毎回汲みに行くのは大変でしょうと、水瓶を設置してくれた。飲み水としては使えないけれど、顔を洗ったり、体を拭く水には丁度いい。


 自分の部屋へ戻ろうとして、ふと簡易研究室の前で立ち止まった。この間、キハラ様と勝手にポーションの中身を変えないと約束をしたので、あれから全く偽聖魔法の練習が出来ずにいた。

 折角、カリエラ様から頂いた魔道具もキハラ様に没収されてしまったし、キハラ様のあのおっしゃり様は、教会の中で偽聖魔法を使うべきではないという事なのだろう。


 カリエラ様のポーションの作り方を見ていて思ったのは、水に聖女の祈りを練り込むのは聖魔法で出来る。他のキュアル草やレノン石の成分は魔道具を使って抽出し、聖女の祈りを練り込まれた水と合成しなくてはいけない。・・・抽出が上手く出来れば、ポーションを作るのに魔道具も要らないのでは?

 試してみたくてうずうずしながら簡易研究室を見たが、必死に自制心と戦いながら諦めて自室へと戻った。


 今日は、ガイ様と害獣退治に出かける日。仕方なしに冒険者の服を身に付けた。その上からローブを着る。ドレッサーに映った姿を見て少しだけため息が出た。


(この隠密45って全く効いていないわ。それとも私が巨大害獣を引き寄せる力の方が上回っているって事なのかしら?一体私の何が巨大害獣を引き寄せているの?)


 それでも、フードの周りに付いているふわふわで薄紫の羽毛はお気に入りだ。右を向いたり左を向いたりして羽毛がふわふわ動くのを楽しんでいると、時間が来てしまった。

 私は、マジックバックを袈裟懸けに掛けて、仕方なしに、大扉のベルを鳴らした。


「おはよう!エリン。ガイ様もう来てるよ」

「おはようございます、アキ」


 今日もアキは満面の笑みだ。そんなにガイ様が気に入っているのだろうか?


「想像していたよりも筋骨隆々では無かったけど、でも鍛えられた肉体はやっぱカッコいいよね!」


 お気に入りなのですね。私は苦笑いしか出来なかった。アキは女性にしては筋肉質だと思っていたけど、筋肉が好きな人だったのね。アキに急かされつつガイ様に無事引き渡されてしまった。


「エリン!頑張っておいでね。ガイ様、エリンをよろしくお願いします」

「はい」

「ああ」


 軽くアキに手を上げて答えるガイ様を見て、アキが前回と同じように頬を染めている。私は前回と同じく、ガイ様の馬に相乗りさせられて出発した。

 街中を出ると直ぐにスピードが上がった。


「今日は、一気に前回行った平原へ行って、まずは朝食を食べよう」

「え?」

「前回、朝食を食べさせなかったってムルダに怒られたからな。それに、今日までの間に、冒険者達も巨大害獣狩りに勤しんでいたから、もうここら辺りには巨大害獣は居なさそうだ。今回は、朝食を取ったら、少し上の方へ行くつもりだ」

「分かりました」


 鞍に掴まりながら獣道をひた走る。馬も慣れたもので、前回通った川も、飛び石を使って上手に超えて行った。暫くして平原が現れ、馬から降ろされた。


「朝食を取ったら先に薬草採取をしていいよ。その後に、巨大害獣退治へ向かう予定だから」

「はい」


 前回と同じ敷物を設置すると、マジックバックからバスケットを取り出し開いた。バスケットの中は陶器毎に入った蒸しパンや色々な果物と、やっぱり肉料理が詰まっていた。ガイ様は、別の箱からお皿とフォークを出して手渡してくれた。


「お好きなのをどうぞ」

「ありがとうございます」


 受け取りながら、これは料金を払うべきなのではと流石に思った。


「あの、教会で休日は食事が出ないので、この様に私が用意する事は出来ません。せめて代金をお支払いしたいと思うのですが」

「ああ、これは冒険者ギルドからの差し入れだから、気にしなくて良いよ」

「冒険者ギルドから?」

「そう、君はいい仕事をしてくれるからね」


 囮ですものね。私は、がっくりしながらも、美味しそうな蒸しパンと幾つかの果物を皿に取った。


「ガイ様、一つ聞いてもいいでしょうか?」

「何?」

「本当に巨大害獣は、私を狙って現れているのでしょうか?」


 ガイ様も皿に蒸しパンと肉を取り美味しそうに食べてる。


「そうだね、今のところ、冒険者達や騎士団も巨大害獣退治に出ているけれど、一日足を棒にして探し回っても出くわす事が無い日の方が多い。勿論、俺もね。君が同行する時の巨大害獣に出くわす量は異常と言える。その現象を騎士団で調査はしているけど、全く解明はされていないようだね」

「そうですか・・・」


 巨大害獣は、私が異世界転生者だから襲ってくるのだろうか?でも、その嗅覚って何?私を異質な者として、排除しようと襲ってくるのだろうか?それはいつまで続くのだろう?私は、果物を口に入れると噛んだ。甘酸っぱさが口の中に広がる。


「この生活は、いつまでつづくのでしょうか?」

「そうだね。君を連れて移動できる範囲は決まってるから、その中で巨大害獣に出会わなくなったら・・・かな?」


 私の行動範囲が決まっていたなんて、初めて知りました。けれど、考えてみればそうですよね。更生をする為に教会で生活をしているのに、お目付け役(?)が居るとはいえ、好き勝手に出歩ける筈が有りませんでした。その上、ちょっと楽しかった偽聖魔法の練習も出来なくなってしまったし、楽しみが少ないわ。


「エリンはさ、回復魔法が使えるみたいだけど、それは聖魔法なの?」

「え?」

「あの女騎士殿に使った魔法は、かなり強力な魔法だと思ったけど、女騎士殿の回復速度は怪我自体が無かったみたいに早かった」


 私は、あまり詳しい話をしたくなくて俯いて蒸しパンを齧った。あの力は聖女ルメリアの偽聖魔法だ。100年に一人の逸材の聖魔法なのだから、きっと普通よりも強力なのだろう。


「秘密か・・・。助けたとは言え、突然目の前に現れただけの俺をそこまで信用は出来ないよね」


 どう答えたらいいか分からず、蒸しパンを必要以上に咀嚼した。そんな私の姿をじっと見ていたガイ様が、変な提案をして来た。


「それならさ、魔法契約をしないか?」


 何を言い出すのだろうと私は、ガイ様へと視線を向けると、マジックバックから見た事のある魔法紙とインクとペン、見た事の無い魔道具と袋を取り出した。


「冒険者をしているとね、好むと好まざるとにかかわらず、他人の秘密を知ってしまったり、自分の秘密を知られてしまったりする事が有る。そういう時にはこれが重宝するんだ」


 正方形の魔道具を敷物の上に置くと、魔道具の四隅にあるカバーを開く、するとその中には何かを入れる為の窪みが有り、そこへ袋から出した魔石を4つ設置してカバーを閉じた。閉じると普通の台に成っている為、その上に魔法紙を広げて、ガイ様はペンを片手に少し悩むと、インクを付けてサラサラと何かを書いた。


「よし!これならいいかな?」


 ガイ様は、自分が記入した魔法紙を私に見える様に持ち上げた。そこには「私、ガイはエリンの事をエリン以外の人に話す事を禁じます」と書かれていた。私は首を傾げてガイ様を見た。


「あれ?これれだけじゃ駄目?何かペナルティとかも記入した方がいい?」


 私はますます首を傾げた。魔法契約と言うのは、簡単に出来るものでは無い。きちんとした契約を魔法紙に塗り込めて、契約を締結させる人が魔力を魔法紙へ注がないといけない筈だ。ガイ様は、再度魔法紙に追加の文言を記入していき、また私に見せてくれた。そこには追記で「万が一、エリンの事をエリン以外の人に話そうと試みた場合は、それを断念するまで息が出来なくなる」と書かれていた。


「これでどうかな?息が出来ないんだから言葉も出ないと思うよ?」

「そう・・・ですね」


 私の言葉にガイ様は了承と理解したらしく、その魔法紙を魔道具の四隅の先端に有る突起に挟み込み、腰に有ったナイフで自分の左の親指を少し切って、魔法紙の下の方にある四角い囲いの中に血判を押した。


「エリン、ちょっと痛いけど、このナイフでここに血判押して貰えるかな」


 ナイフを手渡し乍ら、ガイ様が血判を押した隣の四角い囲いの中を指差した。とても魔法契約が出来るとは思えなかったけれど、言われるままに指の先をチョンと切って血判を押した。


「よし!じゃあ行くよ」


 ガイ様が、魔道具の右側の側面に有ったボタンを押した。すると、魔道具の四隅の魔石から魔力が魔法紙に流れて行くのが見えた。4つの魔石から流れて来る魔力は綺麗に絡み合い一つの魔力と成って、ガイ様の書いた文字を伝い、全てに行きわたると一気に力が増し鎖と成って上に伸びて行った。ある一定度伸びるとその鎖は、突然ガイ様の胸へと吸い込まれるようにして消えた。


「ガ・・・ガイ様!!」


 私は思わず息を飲み、真っ青になって鎖の消えたガイ様の胸の辺りを見詰める。しかし、ガイ様は意に介せず、魔道具を見続けている。魔道具自体は、ガイ様が押したボタンが光っていたが、その光がゆっくりと落ち着き消えた。


「よし!契約完了だ。これで俺はエリンの秘密を漏らす事は出来なくなった。少しは俺の事を信じて貰えるかな?」


 私は呆然としてガイ様を見た。ガイ様の反応はガーウィン王子と同じくらい、軽いものだった。私が受けた魔法契約よりは軽いものなのだろうか?私は困り顔でガイ様を見ていた。

 ガイ様は、出来上がった魔法契約書をクルクルと巻くと、マジックバックから取り出した、筒に入れ蓋をしてマジックバックに戻した。魔道具に設置した魔石も袋に戻し、全てをマジックバックに戻すと、改めて私に視線を戻し言った。


「さてと、それでは秘密の共有をしようか」


 私はどうしたらいいのか分からず瞳を瞬かせた。


 

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