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初めてのお出かけ ニ日目 4

 来た道を戻り、乗合馬車の御者さんも冒険者が怪我をして乗って来るのは普通の事らしく、キハラ様を寝かせる場所を作って乗せてくれた。全く目を覚ましてくれないキハラ様が心配で、私は、膝の上に乗せているキハラ様の髪を何度も梳いていた。


 乗合馬車が冒険者ギルド前に到着すると、ガイ様がキハラ様を、ギルド内の医療チームに預けてくれた。私も付いて行きたかったが、やんわりと断られてしまった。


「問題は無いと思うが、念の為に精密検査をお願いします」


 医師らしき人に、ガイ様が状況の説明をしてくれている。私は出来る事が無く、ギルドの片隅でその姿を見ていた。色々な人達がガイ様に話しかけている。そう言えば、ギルドの依頼で調査をしていたとも言っていた。きっとその関係者なのだろう。益々居場所がなくなり、小さく成っていた私に、一通りの話が終わったらしいガイ様が、小走りで戻って来て下さった。


「君達も、今日は何かしに行っていたんだよね?」

「え?はい。薬草を摘みに行っていました」

「じゃあ、納品に行こう」


 ガイ様に促されて、薬草を納品をする列に並んだ。人も少なく直ぐに順番が回って来たので、納品をする薬草をテーブルの上に出しながら受付嬢に聞いた。


「これは、私とキハラ様二人で採取したので、報酬とポイントは二人で半分こしたいのですが、出来ますか?」

「ええ、勿論できますよ。えっと、後ろの方ですか?」


 振り返るとガイ様が立っていた。


「いいえ、怪我をして、今は病院の方へ行かれています」

「ああ、そうでしたか。であれば、半券をお渡ししますので、それをもう一人の方にお渡しください。後日半券を持っていらっしゃったら、換金出来ますよ」

「ありがとうございます」


 私がテーブルの上に薬草を乗せると、受付嬢がいくつか纏めて紐で縛ると、後ろの台に並べて行く。置いたそばから台が開くので、私はどんどん薬草を追加していった。


「あ・・・あのぅ」

「はい?」


 私は、キハラ様が気に成ってしまって、受付嬢の様子に気が付かなかった。


「まだ、ありますか?」

「はい。まだ1/3も出していませんので」

「畏まりました。ちょっとぉ~手伝って」


 受付嬢が、バックヤードに居る他の受付嬢を呼んだ。ふと見ると、後ろの台が纏めて置かれた薬草で一杯に成っていた。後から来た受付嬢が、それを籠に入れて移動を始める。私はその後も薬草と、不明な草を取り出し、買い取れるものだけ、受け取って貰った。


「もう、これで終わりでいいですね?」

「後は、買い取って頂けるか分からないのですが、茸が少しだけあります」

「はい。見せて下さい」


 私はマジックバックの中に残っている茸を、机の上に並べた。


「うわっ!これは猛毒の茸ですね。あ、シビレ茸も、まあ、珍しい眠り茸ですね。あれ?」


 買取が出来るものと出来ない物を仕分けながら受付嬢が、フェールス茸で止まった。


「え?ええええええ~!!」


 途端に大きな声を上げる。私はこの茸の効能に書いてあった回復超向上 希少を思い出し、買い取って貰えないのかなと思った。


「しっ少々お待ち下さい!チーフを呼んできます!」

「はい」


 受付嬢が物凄い勢いでバックヤードへ戻って行くのをぼんやりと見ながら、私は、キハラ様の事が気に成っていて、注意力が散漫なままだった。だから、後ろからじっと私を見ているガイ様の視線に全く気が付かなかった。

 少しして、バックヤードから年配の男性が出て来た。その人は直ぐにフェールス茸を手に取ると、まじまじと左目の片眼鏡(モノクル)を使いフェールス茸を鑑定し、声を震わせた。


「こ・・・・これは、フェールス茸に間違いない。これをどこで採取したのですか!?」


 とても熱量の高い声で聞かれて、私はびっくりしつつも、あそこってどこかしら?と悩んだ。


「エリンは、シールド山の第一区の草原にしか行っていないよね?採取したのはそこ?」

「はい」


 そういう名前の草原なのですね。ガイ様の助け舟に私が答えると、年配の男性は驚いていた。


「そんな。あんな場所にフェールス茸が自生していたなんて!凄い!しかも、これだけ大きく成ったフェールス茸は貴重です!これは、こちらで買取してもいいんですよね?」

「はい」


 私は心の中で、ごめんなさい。後2つあるけど、私の研究材料にさせていただきますと謝った。


「凄い!このエイケルーラ市で初めて納品された最高級品だ!君は名のある冒険者なのか?」

「・・・いいえ」


 あまりの熱量に、思わず一歩後ろに下がってしまい、直ぐ後ろにいたガイ様に当たってしまった。すると、ガイ様が私の両肩を掴み、上からぬっと顔を出した。


「エリンは、初心者ですよ。ビギナーズラックですかね」

「なんと!初心者か!信じられん、これは金額の相場が無い、少し時間を貰えるか?それと、採取した場所を教えて欲しい。いいだろうか?」

「は・・・はい」

「よし、では、ニッキー!応接室へ案内してくれ。私もギルド長を連れて直ぐに行く」


 直ぐに、先程の受付嬢が、カウンターの渡し板を外して私達の方へ出て来た。


「ご案内します。こちらへどうぞ!」


 にこやかに微笑んでくれるけど、今の私には、キハラ様もダスガン様もガイエス様も居ない。どうしたらいいのか分からず、動けずにいた。


「私も一緒にいいですか?」


 私の肩を持ったままだったガイ様が、受付嬢に行った。


「あれ?この方はお連れの方では無いのですよね?お知合いですか?」


 私は藁にでもすがる思いで必死に頭を上下に動かし同意した。受付嬢は視線をチーフに向けたが、既に居なくなっていた。そのまま視線をもう一度私に向けたので、私は必死に頷き続けた。


「では、ご一緒にどうぞ」


 受付嬢は、にこにこと私達を促した。


「行こうか」


 ガイ様が私の肩から手を離して、上からにこりと微笑みかけてくれる。私は、その菫色の瞳の色にガイエス様を思い出し、ほっとしてしまった。

 2階の応接室に通された私達は、三人掛けのソファーに座った。受付嬢は直ぐにお茶とお茶菓子を用意し、少しお待ち下さいと言って退出していった。


「キハラ様は・・・・お目覚めに成ったかしら?」

「どうだろうね」


 一人に成った心細さに、お菓子など喉を通らなそうだった。すると、直ぐにガチャリと音がして扉が開いた。そこから現れたのは、チーフと厳つい年配の男性だった。多分、この方がギルド長なのだろう。しかも、チーフは、先程のフェールス茸をガラスケースに入れて、大切そうにしている。


「お待たせしました、冒険者ギルド長をさせて貰っているアザックです。ん?ガイ殿か?」

「いえ、採取をしたの彼女で、俺はこの娘の付き添いです」

「ギルド長、お知合いですか?」


 男たち3人が顔を見合わせて話をしているのを、下から見ていると、どうやらガイ様はギルド長とは顔見知りの様だった。そう言えば、ギルドから依頼を受けて調査に来ていたと言っていた。


「彼は、Sランク冒険者のガイ殿だ」

「あ、そうでしたか、初めまして、私は植物採取のチーフをしているミークです」

「初めまして、ガイです。そしてこちらが、エリン嬢です」

「おお、貴方が今回、希少種のフェールス茸を見つけた方ですか!」


 ガイ様が私を紹介して下さいましたので、私も少し足を曲げて挨拶をする。


「はじめまして、エリンと申します。お見知りおき下さい」


 私の挨拶に、2人が飛び上がって礼を返してくれた。


「ご・・・ご貴族のご息女でいらっしゃいましたか!これは失礼致しました」


 私は、ハッとして、礼の仕方を間違えた事に気が付いた。


「い・・・いえ、私は・・・・その・・・・」


 歯切れ悪く困っていた時に、再度、ドアをノックする音が聞こえた。


「ギルド長、お客様です」


 先ほどの受付嬢がドアを開けると、なんと入って来たのはダスガン様でした。


「いや、今来客中で・・・」

「ダスガン様!」


 私は、地獄に仏とばかりにダスガン様の来訪を喜び、私のその姿にギルド長もダスガン様の入室を許可して下さった。一通りの挨拶を済ませると、まず最初にダスガン様が、私の事を説明して下さった。しかし、お二人とも、その説明にふ~ん。くらいの感覚でしかなかった。


「まあ、ここは冒険者ギルドだからね。脛に傷持つ冒険者はいくらでもいる。今さら驚かないさ」

「ですね。それよりもこのフェールス茸の方が問題ですよ!お嬢さん、どこで見つけましたか?どんな状態でしたか?」


 私は、キハラ様の事をダスガン様に伝えたくて仕方なかったけれども、この応接室に呼ばれたのはフェールス茸の件なので、諦めて質問に答えようとした。しかし、広げられた第一区の地図は、よく分からなかった。

 私が困って首を捻っていた時、ガイ様が、地図の一角を指差して言った。


「ここに、傘が置かれていたね」

「まあ、それですと、私はこう動きましたので、多分ここらあたりに倒木が有りまして、その内の一つの倒木にフェールス茸が自生していましたわ」


 位置関係的にここでは無いかと思われるところを指差して話すと、ギルド長もチーフも唸り声を上げた。どうかしたのだろうかと周りを見回すと、ダスガン様もガイ様も渋い顔をしている。


「この時に、キハラは一緒では無かったのか?」

「え?ええ、少し分かれて採取をしていました」


 ダスガン様の言葉に、私は意味が分からず皆さんの顔を見ていたけれど、最初に声を出したのはギルド長でした。


「エリン君」

「はい?」

「今回のフェールス茸は買い取ろう。だが今後、絶対に取りに行ってはいけないよ」


 まるで諭すような言い方に、私は意味が分からず首を傾げた。すると、チーフが頭を抱えながら言った。


「よく生きて帰って来てくれた」

「?」

「体重が軽かったのが功を奏したのだろうか?だが、こんな事が二度とあっては成らない。この事は、私達だけの秘密としよう」


 勝手に納得している皆様に、私は意味が分からず、じっとダスガン様を見た。するとダスガン様が苦笑いしながら私に説明してくれた。


「この位置で間違いないのであれば、ここは崖だよ」

「え?」

「倒木と言っていたが、いくつかの倒木が有るのは私達も知っている。10年以上も前に地割れを起こした場所でね、奇跡的に何本か地割れを起こした上に絶妙なバランスで倒れている。触ると地割れに落ちて行きそうなので、誰も触らんがね。冒険者達の間では有名な話だ。エリン殿が知らなくても仕方は無い。無いが、もう取りに行ってはいけないよ。奇跡は何度も起きないからね」


 私は、茸を取った時の事を思い出すが、足元は暗かったけれど、土が有ったような気がする。だけれども、周り中草だらけの中、あそこだけ草は生えていなかった。茸が生えているからそういうものなのかと思ったけれど・・・。そう思ったらゾッとした。


「はい。あそこにはもう行きません」

「そうだね」

「よし!じゃあ、奇跡も加味して、1、000、000ルドで買い取ろう!ポイントも5000ポイント付けてあげよう」

「まあ!ありがとうございます。キハラ様と半分こでも大金ですね」


 私がにこにこ話すと、ダスガン様が首を傾げた。


「ん?キハラとは別行動だったのではないのか?」

「はい!」

「では、エリン殿一人が受け取ればいいのではないか?」

「いいえ、キハラ様は、私のポイントの為に角ウサギを狩りに行って下さったのです。角ウサギが狩れていれば、それも半分この予定でしたので、フェールス茸も半分こです」

「エリン殿がそれでいいのなら、まあ、いいが」


 納得のいかない顔をしたダスガン様が、私を見てため息をついた。その後、いつもの銀のカードと私の市民カードを合わせ、入金とポイントを入れて下さった。残高を見ると、831、000ルド。ポイントは2、521ポイントと成っていた。薬草が売れたポイントも加算されている。嬉しさが止まりません。私は、キハラ様の半券も受け取り、マジックバックに入れました。


「じゃあ、次は角ウサギを売りに行こうか、これは3当分でいいかな?」

「え?いえ、これはガイ様が仕留められたものですから」

「3人で戦ったんだから、3当分にしよう」


 そう言うと、私の返答を待たずにガイ様は立ち上がった。私達はそのまま、ガイ様を先頭に1階の倉庫へと行った。その扉を開けると、ひんやりとした風が中から出てきて、冷蔵庫の様な感じだった。

 中には数人の騎士達が待っており、ダスガン様を見ると敬礼をした。


「エリン、ここに角ウサギを出して貰えるかな?」

「はい」


 私は、パフォーマンスとして、マジックバックを開き、そこから取り出しているかのような素振りで、アイテムボックスの中に有る角ウサギをクリックし、机の上に出した。


「うわ!」


 数人の騎士達が声を上げた。私達の数倍もある角ウサギが突然机の上に現れたのだ。驚きもするだろう。


「これが、角ウサギか・・・信じられん」

「こんな大きさの角ウサギが居るものなのか?」

「ああ、目撃情報は有った。だが、今までは人が居るところには出てこなかったんだがな」


 ギルド長の言葉に、皆が唸った。今までは・・・。どうして出て来たのか?私、関係ありませんよね?少し不安になります。

 まずは騎士団でこの角ウサギを見分し、その後、冒険者ギルドへ卸す事に成った。これは、30、000ルドで、500ポイント頂けた。初日なのに凄い稼ぎに成ってしまいました。

 

 ガイ様も、ギルド長に報告が有るとここでお別れと成り、ダスガン様が、私を教会まで送り届けてくれることに成りました。騎士団の馬車で教会へ向かう最中、渋い顔をしたダスガン様が、キハラ様は精密検査を受けた後、教会へ戻るのか自宅へ戻すのか決めると仰られ、私は頷きました。そして、しばらくは冒険は禁止。市民の生活を学ぶ為に、市内観光をする様に言い渡されました。この時同行して下さる方が誰に成るかもまだ、決まっておらず、また、キハラ様が復帰するまでは、勉強の時間は自習となるのだそうです。

 私は、静かに頷くしか有りませんでした。


 馬車が教会へ着き、アキへダスガン様が申し送りをしていると、アキの怒鳴り声が聞こえました。かなりお怒りの様です。暫くはアキと二人になるのでしょうが、少し不安が過りました。


 

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