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初めてのお出かけ 一日目 後編

 キハラ様の姿は前方に見えるが、ちょこまかと何かを探して走り回っていた。すっかり置いてきぼりに成った私の横を、ガイエス様が私の歩調に合わせて歩いてくれている。


「・・・本当に、大丈夫なのか?」


 多分独り言でしょう。ガイエス様を見上げましたが、視線はキハラ様を捉えて離しません。


「こっちです~!」


 キハラ様の大きな声が聞こえる。前を見ると、とっても小さなキハラ様が全身でおいでおいでをしていたので、私が慌てて走ろうとすると、ガイエス様が私の腕を掴んで引き止めました。


「急がなくていい」

「ですが・・・キハラ様が」

「待たせて置け」


 眉間に皺を寄せてキハラ様を見ているガイエス様と一緒に歩きながらも、私は少しだけ、いつもよりは早めに足を動かした。しかしキハラ様は、意に介さず私達を待っている間、店先の物色して楽しんでいるようだった。


「お待たせしました」

「いえ、まずはこの店で薬を造るための道具を見ましょう」


 えっと、店を見ると、とても古く怪しげな店で、木の扉も古く、ところどころ欠けている。不安になってガイエス様を見上げると、無言でその扉を開けて入って行ってしまった。


「さあ、エリン様もどうぞ」


 にこにことキハラ様が勧めて下さいますが、開いた扉から草や木の焼焦げた様な不思議な匂いがし、不安に駆られて、もう一度キハラ様を見たのですが、満面の笑みです。私は自分を鼓舞して敷居を跨ぎました。

 中は思ったよりも広く、薄暗い壁側には大きな(かめ)や不思議な形のビンが所狭しと並んでいます。店の中央には、いくつかの台が置かれ、その上には色々な大きさの棒やかき混ぜ棒らしき物や、お皿やすり鉢が雑多に置かれていた。


「私は、自分で薬を造ろうと思った事が無いので、どれを使ったらいいのか分からないのですが・・・エリン様は分かりますか?」


 私も全く分かりません。ですが、台の上に有る綺麗な少し深さのある皿が気になりました。


「私も分かりませんが、あのお皿は綺麗ですね」


 私が指差すと、キハラ様が他の皿を避けて取り出し、渡して下さいました。それは光の加減で虹色に光り、とても綺麗です。二人で見入っているとガイエス様がご自分のバックを膨らませて戻って来ました。何かご購入したようです。


「その皿を買うのか?」


 不思議そうな顔をしてこちらを見たガイエス様が仰いました。私はキハラ様にその皿をもう一度手渡し、ポーチの中に有る薬辞典を取り出す。確か、この本の後ろの方に、薬を造るのに使う品物の一覧が乗っていた筈。


「えっと、そこのすり鉢と乳棒とすりこぎと、お皿を後数枚と・・・・」


 必死に本を見ながら言うと、キハラ様とガイエス様が器用に掘り出してくれました。


「・・・を、買います」

「ご購入ありがとうございます」


 いつの間に居たのか、この店の主人らしき人が、キハラ様とガイエス様から渡されたものを、器用に箱詰めして行く。これもガイエス様が、教会へ届けて貰えるように手配をしてくれました。

 私は、店主が持って来た銀色のカードに市民カードを当てて支払いをする。少し慣れて来たと思います。残高が324、000ルドと成りました。以外に高い買い物をしたようです。


「次は、冒険者の装備購入と登録をしたいのですが、ここから近いのは冒険者ギルドですね」

「そうだな」


 とうとう、私冒険者登録をするのですね。前世の記憶がワクワク感を伝えて来ます。

 お二人に連れられて冒険者ギルドへ到着しました。4階建ての立派な建物でキハラ様に続いて入ると、ガイエス様が後ろから声を掛けて来きました。


「あっちで待ってる」


 指差した方を見ると、奥にあるテーブル席だった。


「はい!登録が終わったら行きます」


 当たり前の様にキハラ様は頷き、私を登録カウンターへと連れて行っていく。新規登録をする人が多いらしく、私達は最後尾に並んだ。ふとガイエス様が気に成って振り返ると、ガイエス様はテーブル席で、先程買って来た物を選り分けているようだった。


「エリン様、冒険者登録は簡単です。ですが、5、000ルド掛かりますがいいですか?」

「はい。勿論です」

「待っている間に、少し説明をしますね」

「お願いします」


 私が頷くと、キハラ様は楽しそうに話し始めた。


「冒険者にはレベルが有って、初心者はFクラスから始まります。これは貴族であっても平民であっても変わりません」

「はい」

「期限は無いのですが、クエストを受けて成功すると成功報酬とポイントが付与されます。そのポイントが10、000ポイント貯まるとEクラスへ昇級します。すると、受けられるクエストも増えます」

「クラスで受注出来るクエストが決まっているのですね」

「そうです。ポイントが30、000溜まるとDへ、50、000溜まるとCへ、100、000溜まるとBへ、500、000溜まるとAへ、1、000、000溜まるとSに成ります。今のところ上限はSクラスですね」

「沢山ポイントを稼がないといけないんですね」

「クラスアップするには・・・ですね。ですが、エリン様がこれから行う予定の薬草採取のクエストは、殆ど1~3ポイントくらいしか稼げないので、そうそうランクアップする事は無いかと思われます」

「そうでしたか」

「勿論、ランクアップしたいのであれば、薬草採取だけではなく、討伐クエストも必要になりますが、ランクアップを目指したいですか?」

「いいえ」


 私は、ゆっくりと首を振った。私が欲しいのは薬草であってランクではない。冒険者登録をするのは、ちょっとした楽しみの一環だ。小遣い稼ぎをし乍ら、薬草集めが出来ればと思っただけ・・・。前世の記憶が少し騒めく。前世の記憶はランクアップしたがっている様だ。しかし、運動能力の低い私では無理な話だと思う。


「たまに、エリン様が薬草採取している間に、私が少しちびっ子害獣退治して追加ポイント獲得しますね。私はこれでもEランクなんです」

「お願いします」


 ウインクして笑うキハラ様に、私もくすくすと笑った。私達が話していると、順番が回って来たらしく、受付嬢に声を掛けられた。


「ようこそ!新規登録ですか?」

「はい。こちらのエリン様の登録をお願いします」

「では、市民カードをご提示下さい」

「はい」


 私は、市民カードを受付嬢に言われた四角い枠の中へ置いた。


「片手でいいので、隣の円の中に置いて下さい」

「はい」


 私は、手袋をしたまま、右手を置いた。すると四角い枠と丸い枠が白く発光し、しばらくすると消えた。


「はい。登録完了です。あら?エリンさんは魔力はないんですよね?」

「はい」


 私が頷くと、受付嬢は何度も首を傾げた。


「どうかしましたか?」

「属性が魔術師になっているんです」

「え?」


 キハラ様が、私の市民カードを受け取り裏を見ると、魔力:無し。加護無しの下に属性:魔術師と書かれていた。


「偶にあるんですよね。どの属性にも当てはまらない場合、ランダムで属性が現れる事って。なので、これは気にせず、一般的な装備で出かけるのをお勧めします」

「はい」

「では、お次の方どうぞ~」


 受付嬢の言葉に頷いたものの、キハラ様は不思議そうな顔で列を離れた。その後を追う私は胸がドキドキしている。私の属性は、一番近いのが魔術師なのかしら?と。

 ガイエス様の居るテーブルへ行くと、作業が終わったのか、机の上には何もなかった。


「登録は終わったか?」

「はい。無事おわりました」

「・・・いえ、無事とは言えない様な・・・・」


 キハラ様が歯切れ悪く、私の市民カードをガイエス様に渡してしまった。それを見たガイエス様は私を力強く見る。私は困ってしまい、いつもの笑顔を作った。


「これから装備を買いに行きますが、どんな装備を買いに行ったらいいでしょうか?」

「防御力が高く、俊敏性に補正が付いている防具だな」


 すっかり戸惑ってしまっているキハラ様にガイエス様が、市民カードを私に返してくれながら、当たり前の様に言った。私はよく分からないので、取り合えず頷いておいた。


 今度はガイエス様がスタスタと先を歩き、私とキハラ様はその後を付いて行った。直ぐに乗合馬車の停留所に付き、来た馬車に乗った。この間、誰も話さないのでとても気まずかった。

 馬車が到着した場所は、見るからに高級志向の街並みだった。どう見ても貴族御用達の店ばかりだ。


「いらっしゃいませ」


 ガイエス様の後を付いて行くと、入店した途端に、この店の支配人らしき人が走って来た。


「防御力の高い、女性用のローブを見せてくれ」

「畏まりました」


 支配人に案内されて、私達はどんどん奥へと連れて行かれた。どう見てもビップルームらしき部屋へ通されると、懐かしい光景が始まった。私達が動かなくても次々と女性用のローブが運ばれてくるのだ。

 ガイエス様は支配人よりローブの説明を受けると、残すものと外すものを振り分けて行く。10着ほど残った処で、私達を振り返り言った。


「この中の物なら、どれをとっても遜色は無いだろう。好きなもの選んでくれ」


 私が悩んでいると、突然キハラ様が立ち上がり、10着のローブをじっくり見始めた。するとその中から3着選び、私の前に持って来た。


「エリン様、この中からお選び下さい」

「キハラ、エリンが好きなのを選べばいい」


 ガイエス様が咄嗟に声を上げたので、驚いてガイエス様を見た後に、キハラ様が選んだ3着を見て納得した。この3着だけにガイエス様の瞳と同じ菫色が使われているのだ。だけれど、ドレス等は婚約者の色を取り入れる風習があるけれど、ローブには関係が無いような気もする。


「10着の中でも、この3着の防御力や素早さのスキルが高いのです。他意はありません。10着では目移りするので、私がもう少し絞って差し上げただけです」


 ガイエス様を見るとそれ以上言えないようで、ソファーに座り直してこちらを見ている。私は目の前に並べられた3着のローブを見た。

 1着目は、全身が薄い紫で、フードは白い。タグを見ると「防御力:120。素早さ:92。」と有った。じっと見ると矢印が現れ「防御力:120。素早さ:92。()()()()()()()」と見える。

 2着目は、全身真っ白だが、フードの周りにふわふわの薄紫の羽毛が付いており、フードの紐も紫色で、紐の先に紫水晶が付いていた。タグには「防御力:100。素早さ110。」と有り、矢印では「防御力:100。素早さ110。()()()()()」とある。

 3着目は、全身黒に縁が濃い紫色で覆われていた。タグには「防御力:90。素早さ:90。」とあり、矢印では「防御力:90。素早さ:90。()()()()()()()」とある。

 私は、隠密スキルに興味をそそられ、2着目を手に取った。


「これが一番気に入りました」


 私の言葉に、キハラ様がガイエス様を見る。


「では、そのローブ一式を貰おう。持って帰るので包んでくれ」

「畏まりました」


 支配人が深くお辞儀をすると、その傍にいた使用人達が、全てのローブを持って部屋を退出して行く。それと入れ替わりに別の使用人がお茶とお茶菓子を持って現れた。

 私達は、支配人に座るように促され、荷物の梱包が済むまでと、使用人が用意したお茶とお茶菓子を堪能した。


 暫くすると、使用人が大きな袋を2つ持って現れ、ガイエス様がそれを受け取った。袋の多さに一瞬なぜ?と思ったが、私だけではなくガイエス様も何か買われたのかも知れないと思い直した。

 私は、直ぐに支配人の近くに寄り、市民カードを取り出す。きちんと支払いは私がするのだとの意思表示だ。


「少々お待ちを」


 支配人がガイエス様に話しかけると、使用人に何かを伝え、使用人が慌てたように一度退出すると、今までも良く見た銀色のカードを持って戻って来た。それを支配人が受け取ると私の元に戻って来る。


「お待たせいたしました」


 目の前に銀色のカードを提示されたので、いつも通り市民カードをそれに合わせる。ちりんと小さな音がして残高が見えた。


「1、000ルド?お安くありませんか?」

「いいえ、冒険者の服は消耗品ですから、こんなものですよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそご購入ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」




 帰りの乗合馬車では、キハラ様が、明日の薬草採取の場所をガイエス様と相談していて、私は又もや蚊帳の外に成ってしまった。

 夕暮れ時の街並みをのんびりと眺めていると、空を鳥が飛んで行った。

 教会前の停留所で乗合馬車を降り、キハラ様が裏口の呼び鈴を鳴らす。するとアキが扉を開けてくれた。


「お帰りなさい」

「「ただいま」」


 裏口から中に入ると、ガイエス様に呼び止められた。


「キハラ、私はここで失礼する。荷物を頼む」

「了解です」


 ガイエス様が持っていた荷物を二つともキハラ様が受け取った。一つはガイエス様の物かと思っていたのですが、そうでは無かったようだ。


「後、これも」


 バックの中から、箱を2つ取り出し、これはアキに渡した。


「エリン」

「はい」


 最後に、ガイエス様は私の方を見てすまなそうな顔をする。


「初めての冒険に同行したかったが、明日は用事がある。キハラの言う事をきちんと聞いて、危ない事はしない様に。採取だけなら問題ないと思うが、くれぐれも変な生き物を見つけても近寄らず、逃げる様に。いいね」

「はい」


 明日の冒険は、ガイエス様は不参加なんですね。ちょっと残念です。


「じゃあ、また来るから」

「はい。今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「ああ、私もだ」

「「お疲れさまでした」」


 ガイエス様が踵を返して行ってしまわれる後姿を、少し寂しく思いつつ、アキが扉を閉め終わるまで見詰めていた。


 

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