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戦いが終わって・・・。

 私は今、ダスガン様の船室に居る。勿論、4人全員でだ。


 皆様の視線がとても痛い。


「エリン殿、お怪我は有りませんか?」

「はい。皆様に守っていただきましたので、大丈夫です」


 先ほどと同じ配置で座り、渋い顔をした皆様の中で口火を切ったのは、やはりダスガン様だった。


 私は、家庭教師から教わった完璧な笑顔を作り頷いて見せる。


「キハラに安全な所へお連れする様に申し付けたんですがね」

「申し訳ありません。キハラ様のせいではありません。私の好奇心のせいです。何分、魔物を見るのが初めてでしたので、つい」


 冷や汗をかきながらも、決してキハラ様に迷惑を掛けたくなくて、必死に申し開きをする。そんな私を射るような目つきでガイエス様が見ている。私は縮こまるしかなかった。


「好奇心は猫をも殺すと言います。今後は、危ない事には首を突っ込まない様に心がけて下さい」

「はい。肝に銘じます」


 小さくため息を付くと、ダスガン様が諭すように言う。私は居住まいを正し頷いた。


「あの・・・皆様も、お怪我はございませんか?」


 キハラ様がダスガン様を見て、次にガイエス様を見る。するとガイエス様が首を横に振った。


「怪我をしていたのですが、おかしな事に、戦闘中に治りました。と言うか治して貰えました」

「そうですか。良かったです」


 私の笑顔は何が有っても微動だにしません。ですが、心の中は大荒れです。


「良かったと言えば良かったのですが、変なんですよ」


 キハラ様が続ける。


「私達の中で唯一回復魔法が使えるガイエス様は、戦闘中だったので、他の護衛の人達の中に回復魔法が使える人が居るのかと、お礼をしなければいけませんからね。聞いたんです。でも誰も居ないと。それどころか、護衛の人達も突然回復魔法を受けて、あっという間に完治したそうです。あれは、回復魔法では無いですね。聖魔法です」


「・・・そうなんですか?私魔法が使えないのでよく分からないのですが?」


 全身全霊を使ってすっとぼけて見せます!


「そうです!だって、あの魔法は自己回復以上の力だったし、回復魔法だと、受けた患者は体力を消耗するから、回復後普通に動けるなんてあり得ないです!」


 それは知りませんでした。魔法の勉強を全く受けていないので、そんな簡単な事も分からないのです。一般常識のようなものなのでしょうか?どうしてか皆様がとても厳しい目で私を見ています。私の無能さを怒っているのでしょうか?


「存じ上げず、申し訳ございません。自分に適性が無いからと勉強を怠っておりました。オルケイア国へ着きましたら、私、魔法について勉強をきちんと致します」

「・・・あ、そういう事じゃなんだが」


 内心、しょげ返った私が深々と頭をさげると、慌ててダスガン様が頭を上げる様言って下さった。


「まあね、ウイスタル国で作られた君の身上書にも、魔力・加護無しとあるんだが・・・」

「はい。私は、貴族だというのに魔法もご加護もございませんでした」

「だよね?なんだが、今回の回復魔法を行ったのは君じゃないかって、ガイエスが言うんだよね」


 ガイエス様が?私は、そっとガイエス様を盗み見ると、先程と変わらず腕を組みじっと私を怖い目で見ていた。


 ジェズガを倒した後、ガイエス様が隠れている私の方を見たような気がしましたが、私、上手く乗船客に紛れ込んだ自信があります。


「私は、魔力もご加護も無いのです。そのような事が出来る筈もございません」

「・・・そうだよな。あり得んよな?」


 う~んと唸ってダスガン様が悩みこんでおしまいです。少しやり過ぎてしまったみたいです。今後は、きちんと魔法を勉強し、露見しない様に使う方法を熟知しなければいけませんね。一つ今後の目標が出来ました。


「君を助けた時、私は黒酸弾を背中に受けた。服もボロボロなので、受けたのは確かだ。その後、自分で聖魔法を使った覚えはある。あるが、完治は難しいだろうと思っていたが、今は傷跡すら無い。これは私の聖魔法ではないと思うのだが?」


 私は家庭教師から教わった(まあ、そうなんですの?)の笑顔を向けゆっくりと頷く。追及を受けない為に、この場合は一言たりとも言葉を発しては成らない。


「とどめを刺す時には、黒酸弾を浴びても、絶対にジェズガを切り抜く覚悟だった。そして確かにジェズガは黒酸弾を打とうとした。しかし、打てずに体の中で逆流をしていた。あれは何なんだ?」


 まあ、イカ墨にそんな名前があるんですね。と言いますか、なぜ皆様私を見て話すのでしょう?困り切って必死に笑顔を作っていると、突然ドアが「ドンドンドン!」と大きな音で叩かれました。


「失礼します!!」


 返答も聞かずにドカドカと男性が2名、両手の皿にイカ焼きらしき物を持って入ってきました。


「先ほどはありがとうございました!助かりました。今、ジェズガを焼いて乗客の皆様にも驚かせてしまったお詫びもかねて振舞っているんです。これ、皆さんで食べて下さい!」


 何もなかった机の上に、イカ焼きを5本づつ乗せた皿が4皿置かれた。後ろから入って来た男性は、ジョッキを4つ私達の前にドンドンと置く。けれど、私の顔を見た途端に、私のジョッキを取り上げると直ぐに出て行き、戸口で「ジュースあるか~?」と叫んでジュースと取り換えて、再度私の前に置いてくれた。


「追加が必要でしたら、声をかけて貰えれば何本でも持ってきます!では、ごゆっくりどうぞ!」


 嵐の様に現れた男性2名は、きちんと扉を閉めて居なくなった。貴族の時には、考えられない事だった。私が目を白黒させているのに気が付いたキハラ様が、くすくす笑った。


「この船は、通常よりは豪華ですが、平民が使う船です。乗っているのも殆ど平民ですし、貴族でも態々貴族だと言って乗らない様な船です。だから、今のは平民流。でも、感謝の気持ちも、歓待の気持ちも直接的に伝わって来て、私は好きです」


 私は、何と答えたらいいか分からず。とりあえず頷いてみた。


「まあいいか!分からん事は分からん!折角だ、冷めない内にいただこうか、食べ方はこうだ!」


 ダスガン様がそう言うと、串の端を摘まんでパクリと食べる。一口大に切ってあるので、食べやすそうだ。続いて少し不満顔のガイエス様もイカ・・・いえ、ジェズガ焼きを同じようにして食べた。


「美味しいですよ、エリン様も食べてみて下さい」


 そう言いながら、キハラ様もパクリパクリと食べている。私も、皆を真似て串を持つと、口元を反対の手で隠しながら食べた。すると味もイカ焼きだった。でも、塩味なのね。醤油が良かったな~なんて、過去の記憶で思ってしまった。現実の私は、醤油を食べた事も無いのに。


「美味しいです」


 はしたない食べ方に、少し頬が熱いが、でも、もう一つの記憶の中の私は同じ食べ方をしていた。気取らず食を楽しんでいる。・・・やっぱり、はしたないけどね。でも、少し心がうずうずとした楽しさに頬が緩んでしまう。


「あのジェズガ大きかったから、味も大味かもと思ったけど美味しいですね!」

「そうだな」

「しかも、素材は国の買取に成りますよね?臨時ボーナスですよね?」


 キハラ様が嬉しそうに言った。臨時ボーナス?


「まあ、この船主と折半だが、あれだけ大きいとそれなりの金額は期待できるな」

「ですね!!エリン様の初収入が魔物討伐報酬だなんて、最高ですね!」

「え?私も頂けるんですか?何もしていないのに」


 突然降られた話に驚き3人を順に見回すとガイエス様まで真顔で頷いている。


「受け取る権利はあるだろう」

「ですね!」

「そうだな」


 これ以上はあまり突っ込むのは止めた、掘り下げられても困るし、ジェズガは美味しいので。

 夜ご飯も、頼んだ食事にプラスしてジェズガ煮が付いて来た。朝はあんなに食欲が湧かなかったのに、夜はいつもより食べ過ぎてしまった。それでも、皆様の半分も食べられなかったけれど。


 船の護衛の人達が、一生懸命釣り道具みたいなのでジェズガの足や腕を引き寄せていた理由が、理解出来ました。肉は美味しいし素材もいいお金になるから必死に集めていたのね。


 今、ジェズガは、船の後方に紐で縛られてぷかぷかと浮いて引っ張られている。私達が食べていたのは、足の一部だそうだ。このジェズガは大きすぎるので、本体の解体は港に着いてからするらしい。


 暫くは皆様の楽しい話を聞いていたのですが、そろそろ子供はもう寝る時間だと船室へ送っていただき(連行されたとも言う)今日も疲れたので、大人しく船のベットへ横になる。

 船のベットは硬くて寝心地もあまり良くないのだけど、波の揺れ方が、まるで揺り籠の中にいるみたいで、少し楽しい。


 国外追放を、こんなに楽しんでしまっていいのだろうか?

 明日は、とうとうオルケイア国に到着する。

 今は不安より期待で胸が一杯に成っています。私、不届き者でしょうか?



ちょっと内容変更をしようとしたら、一瞬だけ6/4に上がってしまって慌てました(笑)

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