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婚約者の隣には聖女様

「エリンシア・バズガイン!君との婚約は破棄させて貰う!」


 神々しく輝く黄金の髪に、澄み渡る様なアクアマリンの瞳を持つガーウィン王子が、私を睨みつけて言い放った。その後ろには、白地に見事な金糸の刺繍で彩られてた豪華なドレスを身にまとい、胸には大きなブルーダイヤモンドのネックレスを付けた聖女ルメリアがいる。


「ど・・・どういう事でしょうか?」


 私は、自分で(あつらえ)た空色のドレスに、小さなアクアマリンが付いたネックレスを身に纏い、目の前の王子を見上げた。


 今日は、ファイラス学園の上級学部の卒業を祝う為の舞踏会。通常と違うのは、その卒業者に王子が居る為、いつもは学園で行われる舞踏会が、王城内で行われていること。

 会場も大規模と成る為、卒業生だけではなく、その婚約者や家族も招待されていた。


 国王や、高位貴族からの祝辞などが読み上げられ、そろそろダンスが始まろうかと言う時だった。

 ファーストダンスは王子が務める。婚約者の私は急いで王子の傍に行った。

 すると、王子の傍には既に聖女ルメリアが寄り添い、王子の腕に自分の腕を絡ませている。その上から王子の手が聖女ルメリアの手を反対の手で包み込むようにしていた。

 私は呆然とお二人を見上げるしか出来なかった。


 王城で行われる舞踏会の為、私は家の馬車で父と兄と一緒に登城したが、その間、父も兄も眉根を寄せ無言で、私を一度も見ようとしなかった。

 この日のドレスにしても、婚約者である王子からの贈り物は届かず、自分で用意したのだ。辛うじて婚約者の家族へと招待状が届き出向く事には成ったのだが、私は終始不安を感じずにはいられなかった。


「どういう事かだと!?では言ってやろう!君の性悪な悪事を!」


 王子が、右手を横に伸ばすと王子の側近候補の一人が紙束を恭しく手渡した。


「ここに、君の悪事が事細かに書かれている。聖女ルメリアを害する悪事がな!初めは些細な嫌がらせから始まったようだが、日を追う毎に苛烈に成り、終には暗部を使って聖女ルメリア暗殺未遂まで起こしているでは無いか!」


 会場に響く王子の声に、周りの貴族たちも驚きの声を上げる。その中に私の声も混じっていたのだけど。


「そ・・・そんな事、身に覚えがございません!!」

「ここに証拠が揃っている!嘘も大概にしたらどうだ!」


 王子がその書類を私に向かって投げつけて来た。紙はバラバラと周りに散らばり、周りの人達が、自分の足元に来た紙を拾い上げ、驚きの声を上げた。


「・・・靴を隠した?」

「・・・ノートや教科書を破いた・・・」

「椅子に細工して、座ったら壊れるようにした・・・」


 聞こえて来る内容があまりに稚拙で、流石に私も目が点に成った。もし、本当に私がした行いだったとしても、厳重注意くらいの話では?と心の中で溜息を付く。


「お!これは凄いぞ、市井へ赴き、暗殺依頼をしたらしい」

「こっちにもあるぞ、毒殺依頼。刺殺依頼。事故に見せかけて殺そうともしたらしい」

「え?証拠は?」

「え?どこだろう、別に飛んで行った紙に書いて有るのかも知れない」


 紙を拾った卒業生やその家族が、そわそわと周りを見回し探している。

 いいえ、その前に、私は市井へ行った事も無いし、暗殺依頼ってどこでしたらいいのかも分からないわ。こんなバカげた事なら、多分父や兄が無実を証明してくれる筈。

 私は、父や兄の姿を目で探した。するとなぜか王太子の後ろに立っている。その上、兄は一歩前に出ると、手に持っている紙を振り上げた。


「証拠はここに有る。不詳の妹が起こした疎かな悪事が書かれている。これは既に国王にも報告がなされており、今後の処罰もこれから決定する事に成るだろう」

「・・・え!?」


 私は声に成らない声を上げた。


「な・・・何を?お兄様・・・」

「兄と呼ぶな!お前など、もう兄でも妹でもない!お前は廃嫡処分され平民となるんだ!」


 私は、視線を兄から父へと移す。しかし、父も私を蔑むような顔で睨んでいる。


「お・・・お父様・・・・」


 私は何と言えばいいのか分からず、私は何度も首を振り、父へとふらふらと近づいて行った。きっと、父なら私を助けてくれる、何か言ってくれる筈と。

 しかし、その行為は王子や聖女ルメリアに近づく行為でもあった。


「まだ、聖女ルメリア様に害を成すつもりか!このバズカイン家の面汚しめ!」


 あっと思った時にはもう遅かった。兄は風魔法を得意としている。兄の右手から風の刃が私を襲った。


「きゃぁぁあぁぁぁぁ!!」


 後ろに居た人を巻き込んで、3m近く吹き飛ばされた。体をしこたま床に打ち付けて、息さえ出来ない。

 しかし、背中の痛みが緩くなるった途端に左目が火を噴くように熱く成り、慌てて手で押さえると指の隙間からぼたぼたと血が溢れ出て来て、我知らず痛みに悲鳴を上げ続けていた。


「あ・・・馬鹿!なんで防護壁を展開しなかったんだ!」


 遠くで兄の声が聞こえた。

 ・・・何を仰っているのお兄様。だって、私は魔力が無いのよ?使える訳が無いじゃないの防護壁なんて。

 酷い痛みに体が震える。事の重大さに周りのざわめきが、次第に大きく成って行く。

 止まらない出血に、私は意識を失い血だまりの中に崩れ落ちた。



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