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たとえば、こんな出会いもある

「野郎ども!!狩りの時間だ!!」


 その言葉に応える部下達の中に、かわいい娘の姿を見つけ、リズロは満足そうに微笑んだ。


 ここはルシアール-フェル街道。もっとも大きな街道の一つだが決して治安は良くなく、モンスターはうじゃうじゃ沸くわ、冒険者同士が日常茶飯事のように斬り合いをしてるわ・・・となると、もう一つでるものがある。そう、それがリズロ達、山賊だ。


 戦時中ということもあって、決して一般人の通行は多くないが、それでも、さすがの大街道。ここを通らないことにはやってられないヤツもいる。特にこのあたりは大きな街が集中するのだ。いちいち回り道なんかしてた日には、商売のチャンスなんかあったもんじゃない。大体、回り道をしても安全の保障なんかある時代でもないのだから。


 まぁ、後悔することも多いのだろうが・・。


 とりあえず今日後悔することになるであろう、かわいそうな無力な子羊たちに向かって、飢えた(様な気のする)狼たちは駆けだした。


 


 サラサが山賊という仕事に疑問を持つことはなかった。父は山賊。母も山賊。生まれたときから19年間、そのなかで育ってきたのだから当然だ。どこに疑問をはさむ余地があると言うのだろうか?


 おまけに、頭である父は、極力、人じにやけが人を出さないように気をつかっていた。むろん、部下達にも、犠牲者にも。他の世界をしらないサラサには、それはとてもスマートなビジネスに見えたのだ。


 しかし、そんな彼女にも山賊という商売に一つだけ不満をもっていた。


 むさいのだ。


 周りにいる男たちがみんな、むさい!ひげ面を近づけるな!!酒臭い息で話しかけるな!! 頼むから、その胸毛をどうにかしてくれ!


 彼女の周りは19年間そういう男ばかりだった(当然父も)。だが、不思議なことに、これにだけはなじむことができなかった。


 


 さて、話もどして、今日の獲物。すこしばかりリズロの思惑と違った。


 隊商だとばかり思っていたら、しがない田舎貴族の温泉旅行。貧乏貴族のくせして、見栄をはって隊列など組むものだから、すっかり見当違いをしてしまった。


 貴族なら少しは金目の物を・・とも思ってみたが、どうもこの旅行につぎこみすぎて、かなり苦しい様子。宝石はすべて偽造だわ、服も見た目だけで安物。路銀にいたっては、どうやってここまできたのか不思議なくらい。なにか盗る方がプライドを傷つける・・・。


 頭を抱えてるリズロの後ろで、部下が獲物をなぐさめて、いつの間にか世間話をしていたりする。


 なぐさめて欲しいのはこっちだよ・・・。やはり、これからの時代、情報も必要かなぁ・・・などと弱気になっているときにふと気づく。


 「そういや・・うちのサラサはどうしてるんだ?」


 そういえば、さっきから姿が見えない。


 


 さて、そのころサラサは、このだらけきった狩り場で、一人緊迫していた。


 いや・・正確には違うな・・緊迫しているような気がしていた・・・やっぱり違うかも・・・。


 物色しに入った馬車の中にいたのは、育ちの良さそうなぼっとした顔のお嬢様と、これまた育ちの良さそうな、剣を構えたおぼっちゃま。


 いや、おぼっちゃまといってら、悪いかな?見た目は20そこそこだ。


 「山賊め!!私たちは負けはしないぞ!貴族の誇りにかけて!」


 これは、おぼっちゃま。隅っこでがたがたふるえている少女をかばうように剣を構えているところまではいいのだが、剣先ががたがた震えてる。肩にあてると、肩こりに効きそうだ。


 「あのさぁ・・・。今更そんななものが何か役に立つわけ?」


 まじめな顔でサラサが問いかける。


 サラサもさすがに長年これで食ってるだけあって、油断はしない。人間、追いつめられたら何をしでかすのか分からないことぐらい重々承知。


 もっとも、このときは吹き出さないようにするため、という方が主な理由だったのかもしれないが。


 「え・・と・・あの・・・。いや!妹に手出しさせないぞ!」


 「女の私が?」


 「その・・・ええっと・・・・。わかった!人質にして、身代金を取るつもりだな!」


 「あ、なるほど、その手もあるねぇ」


 「やはりそうか!!妹の身は私が命に代えても守る!」


 墓穴を掘ってることにすら気づいていない。


 「・・べつに、あんたでもかまわないんじゃないの?」


 「へ・・・?」


 「大体、命に代えてって、あんたが死んじゃったら、だれが、その子守るのよ?」


 まぁ、当然、サラサの勝ち。ぼっちゃんが山賊に勝てるわけがない。


 が、実はサラサにも少し変化があった。早い話が、「かわいい・・・」である。


 間抜けながらにも、頑張ってるその姿。よくみれば顔も悪くないし、なによりも、むさくない!!


 単純に男を見る目がなかっただけとも言うが。


 「決めた!」


 「は?」


 「あんた、私の旦那にするわ。」


 即断即実行。それはいいけど、おぼっちゃん、なんであんた顔赤らめてるの?


 ・・・つまり、端的に言わせてもらうと、馬鹿らしい話だが・・・・・こういう出会いもあるのだ・・・・・・。


 


 それから、少し時間は流れて・・・。


 


 「野郎ども!!狩りの時間だ!!」


 リズロの声に部下達が答える。


 「今日の獲物は、とある貴族の馬車だ」


 おお、リズロも学習したらしい。ちゃんと情報をもってるぞ。


 「目標は俺様のかわいい孫娘!! 娘はくれてやったんだ!最低5年は俺があずかる!!」


 うれしそうな部下達の声。


 リズロは満足げにうなずき、ゆっくりと襲撃の合図を出した・・・。


 


 そして、狼たちは、今日も元気に狩りにでかける。

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