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地獄 on the air  作者: 西田三郎
5/10

「ヘルボーイズ」

「いや、ほんとゴメンなさいっ! あたし、なんかすごく話盛っちゃったみたいで……いつもそういうとこあるから気をつけろ、ってお母さんからも友達からも言われてるのに……ほんとすみませんっ!」


 この番組に電話をかけてきたときのリノとは、まったく違うテンションだった。

 ヒソヒソ、自信なさげで、頼りなげだったリノはいない。

 といっても、あたしは普段のリノがどんなのだがぜんせん知らないのだけれど。


「いやあ、てかものすごい反響きてるよリノ! リスナー、マジでビビってたよ!」

「というか僕と“副社長”がいちばんビビってましたけど」


 “社長”も“副社長”も、平常運転のノリを出そうとしているが、どこかぎこちない。

 あれほどパニクってCMになだれ込んでからの復活なので、仕方ないのかもしれないけど……とにかく、まだ空気はヘンな感じでざわついたままだ。


 あたしの家は……あれから、静まり返っている。


「ほんと、リノ、反省してますっ! ……ハッシュタグとか見ると、めっちゃ大騒ぎになっちゃってて……ヤバい、と思ったけど、けっこう“まじで怖い”とか“怖すぎ”とかそんなのたくさんあって……そんなに怖かったですかあ?」

「怖いよ!」

「怖すぎるよ!」


 やたら明るい調子のリノと、それに応じる“社長”と“副社長”。

 リノの声の調子は明るい、というか、なんというか……すごくアニメっぽいしゃべりだ。クラスに声優志望の子がいるけど、そういうアニメキャラっぽいしゃべり。


「でも今夜、怖い話の特集じゃないですかあ? ……だからあ、リノの話、ある意味いちばん今夜のテーマに合ってたんじゃないですかあ? “社長”! “副社長”! お願いですっ! 番組特製Tシャツと商品券くださいっ!」

「ポジティブだなリノ!」

「その立ち直りの速さが逆に怖いよ!」


 リノ、“社長”、“副社長”の、なんか別の意味でサムくなるようなやりとりは続く。


 番組ハッシュタグをまたチェックした。


『なにこれ?仕込みだったの?』

『リノ天才。神』

『てかリノの彼氏どうなった』

『お母さんノリノリ』

『ふつうに明るいじゃんリノ』

『というかうちの家族、まだ笑い続けてんだけど』

『今夜最恐』

『ヘンな汗かいたわ』

『てかおかしくね?リノほんとに本人?』

『怖い空気ぜんぜん消えてないんだけど』

『うちの親もノッキオ、クノットンとか連発中』

『リノ優勝決定』

『やばい。やばいって』

『ラザニアマン、かんぜんに吹っ飛んだww』

『問題解決してない!うちの親まだ笑ってる!』

『番組隠してる。なにかぜったい隠してる』


 リスナーたちは、だいぶ混乱しているようだ。

 そりゃそうだろう……あたしも、ぜんぜん納得いってないんだから。

 番組特設サイトを見てみる。


 当然のように、リノがトリプルスコアくらいで「今日の怖い話」1位になっていた。


「いやほんと、盛り上げてくれてありがとうリノ! ちょっとお母さんに代わってくれるー?」

「あ、はい! じゃあ、番組特製Tシャツと商品券、ぜったいお願いしますねっ!」


 しばらくして、電話口にリノのお母さんが出た。


「もしもし、母です。ほんとうに今晩は、うちの娘がお騒がせして申し訳ありませんでした……ほんとうにうちの娘、毎晩たのしみにこの番組を聴かせていただいてます……ほんと、わたしたち家族の笑い声が大きすぎたのが悪かったのね……でも、番組を盛り上げられてよかったです……あはははは」

「お母さんもやっぱリノとノリ一緒!」

「ほんっと、とんでもない母娘ですね!」


 お母さんの話し方もどこか妙だ。

 リノがアニメキャラの話し方なら、お母さんはドラマに出てくるお母さんの話し方に似ている……そのつまり……なにかセリフを読んでいるような感じ。


「というかお母さんとご家族、なんであんなに笑ってたの?」


 と“社長”。

 それはあたしも含めて、この番組を聴いてるリスナー全員が気になっていることだ。


「ああ、ほんとうにすみません! さっき家族でテレビ観てたら、すっごく面白い漫才コンビが出てて……えっと、コンビ名は……たしかヘルなんとか、っていいう……」

「あははは、ヘルボーイズ、ヘルボーイズっ!」


 電話口の向こうで、リノが言うのが聞こえた。

 ヘルボーイズ?

 聞いたことないコンビ名だ。


「え、『ヘルボーイズ』? 副社長、聞いたことある?」

「いやいや、知らない。すごいマニアックなコンビ? それがテレビに出てたんですかお母さん?」

「そうなんです! あたしと旦那と息子とで観てたんだけど、それがすっごく可笑しくて……おなか抱えて笑ってたら、あんなことになっちゃって……」


 またハッシュタグを確認した。

 ものすごい勢いでハッシュタグが伸びている。


『ヘルボーイズ?なにそれ?聞いたことあある?』

『てかいくら面白くてもあの笑い声は異常』

『なんか動画で見たことあるような…』

『知ってる。あのネタで笑えるのおかしい』

『ヤムヤムヨーとか、ヘルボーイズとかのネタ?』

『見たことある人いる?』

『てか笑えないでしょ』

『どこにツボがあるんだリノの家族w』

『見た。面白なさすぎてチャンネル変えた』


 ものっっっすごくマイナーな漫才コンビらしいし、知ってる人も少ないらしい。

 でも……『ヘルボーイズ』は実在するようだ。

 ということは、うちの家族も『ヘルボーイズ』の漫才を見て笑ってたんだろうか。


 いや……あり得ない。

 だいたい、うちにはこんな時間に家族でテレビを囲むような団らんはない。


『ひょっとして、これ?』


 そのツイートに、動画サイトのURLが張り付けられてた。


 あたしは……ラジオアプリをオフにして、そのURLを踏んだ。


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