第8話
投稿が遅れてしまいました……。
人ごみをかき分けて、私達は貼り紙の前から離れる。そこまで苦労せずに抜けられた。そこで気づいてしまった。
平民は何故か私たちに道を譲ってくれていた。もしかしたら先程の話が聞こえていたのかもしれない。
辺りを見回す。私達を見つめる眼差しは、嫉妬よりも羨望や憧れの方が強い。もしかして……
「……私って人気者?」
『それはない』
少しの期待もすぐに潰された。何も2人同時に言わなくてもいいじゃないか。ふくれっつらをしても肩をすくめられるだけ。
「ひどくない! 希望くらい持たせても……」
「ダメです」
「調子に乗るからねー」
言い終わらないうちに否定された。ぐぬぬ、私は別に調子に乗らないよー! ……すこーし自分カッコいいなーと思うだけで。
というより、何故か2
二人の息が段々あってきた気がする。これは近い将来私の敵になりそうだ。
近い未来を見据えて、キリッと顔を引き締める。するとやっぱり二人で呆れた顔をされた。酷くない!?
「あっここがクラスだよー」
いつの間にかクラスに着いていたらしい。
ソーニャの指の先を目で辿ると、[A] と書かれた木の板がぶら下がっていた。
流石国立の学園といったところだろうか。廊下は横に両手を広げても三人は通れそうなくらい広い。
壁にはアンティークな金色のランプが掛けられていて、大理石の床を照らしている。何より窓が大きいので余計に広く見える。レステリア国第二の城と呼ばれているのも頷けた。
見惚れながら足を進めて教室へと入る。意外とドアは小さく、スライド式なのだが二メートルも無い。
私とソーニャは普通に、アルガスは少し屈んで入った。うー、ドアに屈んで入るのは私の幼い頃からの夢の1つなのに。
恨みがこもった目でもあげてたら、あたかも今気づいたように私の前で屈んで身長を合わせてきた。へ?
「大丈夫ですよ。平均身長より低くても気にしなくていいです。成長期になったら姫でも伸びますよ。……私とは違いますし」
「うるっさいな! 姫でもってなによ!」
にこやかに慰めてきたようだが私は沸騰寸前だ。ゆるさない、絶対に私で遊んでる。現に私が起こる様子を見てクスクス笑ってる。あっソーニャも笑ったな!
うるさくしながらも教室に足を踏み入れた。その瞬間、今までザワザワとうるさかったのが、ヒソヒソと静かに囁いている。まるで私達を噂しているような。
希望や憧れではない、侮蔑や嫌悪が混じっている。
やはり貴族はこんなもんだ。人の価値を権力で値踏みするよう見定めて。
真面目に聞くだけ時間の無駄だ。早く席に座ろうとアルガスの袖を掴む。顔を上げて瞬いた。
彼の顔は黒く歪んでいた。折角の綺麗な顔が台無しになるほどに。
え!? ど、どうした……
「こいつら……やってしまうか」
「えっ!?」
危ない言葉が聞こえた気がする。さっきからアルガスの呟きには物騒な言葉しか聞こえない。
私は貴族が何を話しているのかまでは聞き取れなかったので、耳が良いのかもしれない。
そういえばソーニャもこういう時の反応が……。思い出すだけで悪寒がする。おそるおそる見上げると、アルガスとは正反対に綺麗な笑みをつくっていた。いや、怖いよ!?
震えている私に気づかず、声をかけてきた。
「ねぇ、フェリアー」
「う、うん?」
何をするのかと身構えたが声色は穏やかだった。なーんだ心配して損した。
「多分こいつらはフェリアのこと知らないんだねー。ただ平民って事で差別してるねー」
「えっ、私のこと知らないの?」
色んな意味で有名だと思っていたが知らない人がいるとは。世界は広いなぁ。
感傷に浸ってるとソーニャが人差し指を口に当てた。
「こういう奴らにはー格上の力を見せつければいいんだよー」
そう言う彼女は魅力的で、大層悪どい笑みを浮かべた。
「フェリア、よろしくねー」
何に対しても怒らない友人だとは大間違いだった。それでも私の親友の頼み。答えようと口を開くと同時に、聞き覚えのない声が聞こえた。
「皆さん席に座ってください」
教室に入ってきたのはロングスカートのスーツに、鍔の広い三角帽子をかぶった女性。赤いメガネをかけて髪を一つに結んでいる。
彼女の指示に従って生徒は席に着いた。
黒板の前までやってきて、生徒を見渡した。
「私はミランダ。このクラスの担任を務めます。ここでは50年間務めています。よろしくお願いします」
その名前を聞いて生徒は全員怯えた。対して私は尊敬の眼差しを向けていた。
ミランダ先生だ! この方は国で一桁に必ず入る程魔法の腕前がある。平民なのに強い姿が憧れなのだ。
「サインもらえるかな……」
「……私はそう言うフェリアを尊敬するけどねー」
ソーニャは先生が怖いらしい。なんでかな? ただ貴族を含む悪い奴を全員粛正しただけなのに。
ミランダ先生は怯える生徒をものともせず、説明を始める。
「では初回の授業を始めます。初回の授業は……使い魔召喚です」
さっきの静かな空気は霧散して、喜びと活気に満ち溢れた。周りの人達でこんな使い魔がいいなーとかを話しているのだろう。
だって使い魔は魔法使いの化身と呼ばれるほど大切なのだから。でも……
「楽しみだねー、フェリアー」
私はそおっと左隣を見る。目に映るのは燕尾服を着た黒髪に紅の瞳を持つ男。
人間離れした容姿で、耳は先が尖ってる。
「どうかしましたか、姫?」
私にはアルガスという使い魔が、もういるのだ。
喜ぶ空気に私は馴染めなかった。
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