第7話
「ま、待てっ! お前は何をしたんだ。見た目が変わっているし、何よりこの俺様の魔法が効かないはずがない」
王子が肌をさすりながら私に質問する。周りの人達もうんうんと頷く。ガタガタと体が震える音がさっきから聞こえる。私は寒さに強いけど、さっきの魔法で気温は三十度は下がっている。
もはやこの部屋は冷蔵庫となっていた。
静かになったなと思ったらそういうことらしい。
皆は疑問に思ったようだが、私としては何でそう思うのかと聞き返したい。そんなことも含めながら答えた。
「見た目は秘密。王子サマの魔法のことだけど、あれで高位呪文は無いと思うよ。初級呪文レベルだね。しっかり勉強してる?」
会えてバカにするような口調でくすくす笑う。あのレベルなら、私のお父さんが焚き火に使う火より強い。あの魔法は弱すぎる。
私の挑発にいとも簡単に引っ掛かった王子はその場で地団駄を踏む。ん? 王子ともあろうお方が平民の挑発に乗るとは。大丈夫かな?
「やっちゃえ! フェリアー!」
私の親友の応援が耳に届いた。流石私の親友。ここは彼女の信頼に報いたい。
「あっまだ勝負の途中だったよね? 次はこっちからいくね」
平民を見下す王子サマには罰が必要だよね。
思い出したように言うと、私は目を瞑って集中する。辺りの音が聞こえなくなる。体に魔力の流れをいつもより濃く感じる。そういえばアルガスと共有したんだっけ。遠慮なく使わしてもらおう。
頭でイメージする。私が今から行う魔法はイメージが大切。
私の周りは氷の粒が舞って、宝石のようにキラキラ輝いていた。
青く輝く瞳を開ける。
その瞬間、
王子が凍っていた。
「な、何をしたんだ!」
「氷が……」
「え!?……無詠唱呪文ッ!!!」
正解。
私がイメージしたのは王子が氷の中で固まっている姿。
私の魔法で、王子は自分の体より一回り大きい氷の塊で固められていた。まるでアクアマリンの宝石のように輝く。
その魔法の美しさと、フェリアが無詠唱呪文を使ったことに、人々はその場を動けずにいる。呼吸すら忘れてその光景を見つめる。ため息すら凍ってしまうが、寒さなど忘れていた。
氷に包まれた部屋は、窓から日差しが差し込み七色に輝いていた。そこだけ時が止まっているようだ。
心の中で誰もがこう思った。
( ( ( これは現実なのだろうか……。) ) )
無詠唱呪文を使えるものは、三百年前に滅んだとされている。
「……お、王子っ! そこの君、これは治せるのか?」
学園長の一声で周りの皆は現実に引き戻された。ざわざわとまた騒がしくなる。学園長の心配は最もだ。一応この国で一人の王子なのだから。
そんな心配をよそに、ニコッと笑って見せる。
「大丈夫ですよ。私の意志で解除できます」
「そうか! それなら……」
「学園長にお願いしたいことがあるんです」
「何かね?」
上目遣いでキラキラと見つめる。私は学園長に言わなければならないことがある。ここぞとばかりに詰め寄った。
「私が勝ちましたよね?」
「えっ、それはだね……」
それは悩むよね。この私が試験で一位を取れなくして、王子をトップに据えた張本人だもん。声を喉が潰れるほど低くする。
「勝ちましたよね」
「ヒィ!! そ、その通りだな」
「やったーーー!!!」
両手を天に突き出し、その場で飛び跳ねる。天にも登る喜びとはこのことだ。
学園長は何故か激しく震えながら、首を何回も縦に振る。私はただ、手のひらに魔法の矢を作っただけだ。脅してはいない。
私は権力に勝ったのだ!
試験でも叶わなかったことを成し遂げた。
アルガスとソーニャに向かってドヤ顔をしてピースする。2人も同じように返してくれた。私の頬は限りなく緩んでいるだろう。
平民達の歓声と祝福が、私の周りを取り巻いた。
一人の王子の犠牲で、無事に? 入学式は終わったのだった。
……王子の氷が溶かされるのは、それから半日後。
(早く助けろ……)
※ ※ ※
学校の教室の廊下には、学年分けの紙が張り出されていた。普通の学校なら、ドキドキしながら食い入るように見つめていただろう。でもここは、由緒正しきレステリア魔法学園。
「茶番だね」
「ですね」
「だよねー」
三人が冷え切った目でそれを見つめていた。それもそのはず。トップクラスのAはほぼ貴族で埋め尽くされている。その中には高位貴族や王族。つまり金持ちが多い。
「確かトップ順にABCですよね」
「そうだよ」
軽く頷いて見せる。アルガスが確認するのも無理はない。Aクラスには三十人中平民が二人、私とソーニャしかいない。これは異常だ。
「私達の前の先輩達でも、平民が半分はいたけど。……何でだろう?」
「それはねー。学園長が貴族じゃないからだよ。上の圧に耐えれなかったらしいよー」
はっとしてソーニャの方を見る。確かに卒業式でも、貴族の生徒が学園長を敬っている姿は見えなかった。
「学園長は平民出身の実力者ということですか?」
「んー、少し違うねー。一応隣国の貴族だったらしいよー」
なるほど。つまり隣国で何かやらかしたか、この国で貴族位をもらえなかったわけだ。この国の貴族は隣国の人を嫌っている。それは隣国の人達は魔法を使えるものがほぼいなくて、見下しているからだ。この国の貴族、プライドが無駄に高い。
「ていうかソーニャ、そういう噂ってどうやって知るの?」
私が尋ねても、曖昧に微笑むだけだった。え、情報屋とかの裏の人と通じてないよね?親友の裏の顔がマフィアとか嫌だよ。
そこまで考えたが私の隣には悪魔がいる。あれ?
アルガスを見つめるが、不思議そうな顔をして見つめ返される。
「それよりも、早くクラスに行くよー!」
誤魔化された気がする。強引に手を引っ張られて、私達はクラスへと向かった。
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