第4話
朝の空気が窓から吹き抜けた。部屋のカーテンは開けられて、朝日がキラキラと差し込んでいる。
鏡にはその光を受けて輝く銀色の髪に、海を埋め込んだような二つの丸がこちらをのぞいていた。白を基調としたブレザーがよく映えている。そんな目の前にいる美少女はこの私、フェリアだ。
「何してるんです」
アルガスが呆れた視線を向けてくる。せっかく良い気分に浸っていたのにそのひと言で台無しだ。
むすっとしながらもスカートの裾を摘んでくるりと一周回る。ヒダになっているのがふわりと広がった。上目遣いでアルガスを見上げる。
「似合ってる?」
「もちろんですよ」
そう言ってもらえるとやはり嬉しい。上機嫌になりながら通学バックを肩にかける。ティッシュ箱ほどの大きさのそれは、空間魔法で教科書などの持ち物がぎっしり詰まっている。持ちますよと言ってくれたけど、やはり自分で持った方が気分が上がる。
家を出る三十分前というのに準備は完璧だった。私は先ほどからずっと部屋の中をぐるぐると回っていた。
なんせ初めての学校なのだ。
その証拠に昨日はよく眠れなかったし、今日はいつもより速く起きた。そんな私を両親たちが微笑ましいものを見るような目で見てきたことを覚えている。
「そろそろ出ますか」
ガバッと視線を声の方に向ける。その勢いに苦笑されてしまった。
「それにしてももうこの部屋とはお別れか〜」
「学校は寮制ですからね。ですが休日や長期休みのときには帰るでしょう?」
「そうだけど休日は厳しいかな。学校からここまでは汽車に乗っても三日かかるし」
そう、ここから学校までの距離は意外とあるので気軽には帰省できない。今日は特別に転移の魔法陣を学校の配慮で使わせてもらってるのですぐにつくが、そんな高価な物平民には買えない。
なんと言ってもここで十五年すごしたのだ。少しは寂しくなる。
しんみりとした空気だったが、彼の発言でぶっ壊れた。
「私が転移魔法を使えば良くないですか?」
「転移魔法!? あの使える人は無いに等しいというあの伝説級の魔法が使えるの!」
目を見開いてキラキラとした視線を向けたら、大袈裟ですよと手を振るがその顔は満更でもなさそうだ。
「そこまで使える人数が減っているんですね。確かにここ最近は魔法使い達の質が昔とは比べ物にならないほど落ちていますし」
「え? 確かに私の周りにいる魔法使い達は弱いけど、結構前からこのレベルって言ってたよ。こんな私でも国のトップに入れるくらい」
試験の先生にそう言われたときはひどく驚いた。まだ全然魔法を使いこなせていなかったのに。
アルガスは私の発言に眉を寄せた。
「姫の魔力はそこら辺の奴よりかは断然大きいですしそれこそ国1番ですが、全ての魔力を使いこなせていないでしょう? 姫にそう言った人が正しいならば、使いこなせたときは世界征服できるのでは?」
冗談を込めて言っているがその通りだと思う。多分先生は褒めて伸ばすタイプの人だったのだろう。そうに違いない。
そんなことを言い合っていると家の外から声が聞こえた。
「フェリア、準備できてる? 早く一緒に行きたいなー」
私を呼ぶその声は良く耳に馴染んだ者だった。急いで階段を駆け降りて別れを告げる。
「またね、お母さん、お父さん。じゃあ、いってきまーす!」
笑顔で手を振ってくれた両親に背を向け、家の外に飛び出した。
真っ先に目に映ったのは、私と同じ制服を着た少女。ふわふわの卵色の髪を肩まで切り揃え、髪と同じ色の瞳は私と目が合った瞬間に嬉しそうに目を細める。
「おはよう、フェリア。制服良く似合ってるねー」
「おっはよー! ソーニャ。でしょでしょ、でもソーニャもめっちゃ可愛いよ!」
「ふふふ、ありがとー」
頬を染めて照れる彼女は大層かわいい。
ソーニャは私の幼馴染で、小さい頃からの親友だ。向かいの家に住んでいることもあって、よく一緒に遊んでいる。回復魔法の使い手で、氷魔法を使い直ぐ怪我する私を治してくれた恩人でもある。
私の両親と同じくおっとりした性格なので、悪い子に絡まれたときはお姉さん (自称) である私が助けていた。
「このお姉さんが学校で何かあったら助けてあげるからね!」
「はいはーい」
ふんすと意気込んだ私にソーニャは笑顔で応えてくれた。
何か忘れているような……。
「その方はお友達ですか?」
「あっ」
「え?」
見事に声が被った私たちは顔を見合わせた。私はソーニャに、えへへと笑顔をつくるが幼馴染は誤魔化させてくれない。
「どういうことかな?」
笑顔で問いかける幼馴染はかなり恐い。
ソーニャは私の幼馴染で妹で、恩人と…… 逆らえない母のような存在である。
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