第3話 アルガス視点
アルガスは先ほどから怒りながら荷物の確認をしている少女を眺めていた。まぁ、彼女が怒っている原因は他でもない自分なのだが。でもその瞳には寂しさや後悔のような色が滲んでいる。
※ ※ ※
ここ三百年はひどく退屈だった。最愛を失ってからは何かをする気も起きず、無気力な状態が続いた。
その年数の間で何人かの人間がそいつらの同胞を生贄にし私を呼び出しては、この国の王を殺せ、一生遊んでも使い切れないほどの金が欲しいや人を想うままに従わせる力が欲しいなどの、くだらない願いを自分勝手に言った。
どこまで人間は愚かなのだろう。でも私は姫の遺志に従って殺すようなことはしなかった。だがまぁ私に服従の魔法をかけて従えようとしてきた奴には相応の報復をした。正当防衛ということにして欲しい。結局私達には甘い姫のことだ、許してくれるだろう。
懐かしい魔力の気配を感じたときは息が止まるかと思った。ちょうどその頃は自分の気持ちに整理がついて、あの忌々しいレステリアの地を訪れていたときだった。無意識のうちにその国を避けていて三百年がたつ。
あまり変わっていない街並みを歩いているとその魔力がより濃く残っている場所があることに気づいた。
思わず無我夢中でその場に向かった。こんなに必死になったのは何年ぶりだろう。それほど大事なのか。そんな自分に苦笑する。
たどり着いたのはそこらの家と変わりない普通の家だった。
家のドアの前に立ち目を閉じて中の気配を探るが誰もいないようだ。そのことに焦り探しに行こうとする。人探しなどこの私には造作も無いことだ。だがこんな顔で会えるだろうか。どくどくと自分の鼓動がうるさいくらい聞こえる。きっと私は今必死な顔をしているだろう。やっと見つけれたのだ。
気持ちが取り繕えるまで待つことにしよう。流石にその時にはこの顔も幾分とマシになっているだろう。
当たり前のように家の鍵を魔法を使い開けると、迎えたのは木で囲まれた部屋だった。椅子の数から考えるに三人家族なのだろう。アンティークな小さい机と椅子がそれを囲うように並んでいる。
玄関のドアの前で立ち姫を待つ。家のドアを開けたらこの私がいることにどんな反応をするだろう。その姿を想像すると思わず頬が緩む。
三百年待ったのだ。このことをあいつに伝えるべきかと思うがすぐに却下する。あのときはあれだけベタベタしていたのだ。私にも多少は独り占めさせて欲しい。
ここでもし、と考えが頭をよぎる。
姫は私たちのことを覚えているだろうか。仮にそうなら嬉しい、が。それならあのことも覚えてしまっているということ。それなら是非忘れていてほしい。あんなことは記憶から消して、今世では幸せに笑っている姿を側で見たい。
でも……。
姫、覚えていて欲しいし忘れていて欲しい。こんな矛盾する思いを抱える私をどうかお許しください。
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