第21話
あの日から数日後、私は数百人に囲まれて、学校の中央に位置する広いグラウンドの上に立っていた。
グラウンドには幾つもの椅子がぐるりとドーム状に円をつくっている。
私の周りの人々は値踏みするようなを向けていたり、強い敵意を宿していたりした。
観客席では着飾った人々が隙間なく座っていた。その中には冠を被った王もいた。
そう、何を隠そう今日はソルセルリー当日なのだ。
流石名門学校。競技場のグラウンドだけで平民の家が十軒は立つほどの広さがあった。
三学年もグラウンドに入っているのにもかかわらず、この場所が狭いとは感じられなかった。
王族などのお偉いさんも来るので、皆こんな真剣なのだ。
そんな中、私の心臓は壊れるくらい早鐘を打っていた。昨日は、ソルセルリーやあの日のこともあり、緊張してよく眠れなかった。
辺りの緊張に呑まれて世界がぐるぐると回っている。
ふらふらしていると、がっしりとした腕に支えられた。
「大丈夫ですか」
心配そうに顔を覗き込んだのは、私の従者で悪魔でもあるアルガスだった。
身長が高く、無駄に顔がいい彼は目立ってしまう。今も少女達の視線をさらっていた。
……主人より目立つとは。
添えられた腕を振り払い、顔を背けて不満げに口を咎めた。
「顔に麻袋でも被せたら?」
「別の意味で目立ってしまいますね。まぁ、この顔ですから仕方がありませんが」
自分の顔の良さを自覚してやがるらしい。
だが自分に向けられている視線を喜ぶどころか、嫌悪しているように見えた。もしかしたら目立つのが嫌いなのかもしれない。
そんなやりとりをしていると、前方から微かにノイズが聞こえてきた。何だろう、と思っていたら突然割れんばかりの拍手が会場に鳴り響いた。
恐る恐る口を開く。
「もしかして、始業式始まってた感じ……?」
「そうですね、約5分前から。あぁ、もう移動するようですよ」
わたしたちがいる位置は、放送を行うスペースからかなり離れているので聞こえないのは仕方がないのかもしれない。
アルガスは私が人の波に流れないように誘導してくれたが、話を逸らしたとしか思えない。始まってたなら教えてくれてもいいじゃないか。
アルガスへ軽く目を細めても、うっすらと微笑みを浮かべるだけだった。
……これは謝る気がないときの表情だ。
「薄々気づいていたけど、アルガスって性格悪いよね」
「今更ですか」
特に私の言葉を気にするそぶりを見せず、移動をしている列へ足を進めた。……悪魔って全員こうなのかな。
拡声器の音量を上げてもらうか、身体強化で聴力を上げるか。どちらにせよ、私のアルガスに対する好感度が下がったのは確かだった。
※ ※ ※
ソルセルリーは、二人一組で使い魔と共に戦うものから始まる。これは例年通りだった。
ハイドシークは学校全体を使って行うので、終わった後に膨大な魔力を使用して破壊された場所を直さなければならない。そのため、創立者がこの順番に決めたそうだ。
そもそも競技が二つしかないので、ハイドシークでは有り余った魔力を振りかざすバ……脳筋がいるので被害が大きいらしい。
全学年で合同なので、初戦から一年が三年と当たることもある。ご愁傷様としか言いようがない。でも、そんな確率が低いことが私に起きるわけが……
「……ないと思っていたの」
「んー? これはフラグを立てたフェリアのせいにしていいのかなー」
うっ、ソーニャが私に向ける笑顔が怖い。泣いてしまいそう。いや少し泣いた。
全く笑っていない笑みを浮かべるソーニャと、青ざめて震える私の前には、鮮やかな金髪をした男達が腕を組み佇んでいた。
わたしたちが今いる場所は先程の競技場。その中にか弱い少女二人と、入学したばかりの一年でも知っている三年生がいる。
彼らは双子の兄弟で、雷魔法の使い手。名前は忘れたけど、とにかく強いことは知っている。
やばくないか……。
観客席に座っている人々も、憐れむような視線を向けている。それどころか、勝負はもうついたと席を立つ者もいた。
「なぁ兄貴、こんな奴らとっとと倒して次行こうぜ」
「そうだな弟よ。こんなチビに負ける訳がないな」
「……は?」
視界の先で誰かが引き攣った気がした。誰が背が低くて十歳にしか見えないちびだと?
禍々しいオーラを纏って、ゆっくりと顔を上げる。
「そうだね、早くいかせてあげるよ」
口角を引き上げて微笑う。
先程の怯えなんか忘れて、目の前の男をどうしてやろうかということしか頭に無かった。
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