第1話
私は男をリビングの椅子に座らせた。向かい合ってしっかり見ると、より顔の怜悧さが伝わって来る。
今は平然を保っているが、初めは恐怖で動けなかった。
この男一人で簡単に人類が滅ぼせそうな力を持っているのが私でも分かる。強い魔力が肌を刺すのだ。世界の平和は私にかかっている。
殺意や攻撃をする素振りを見せないから私も友好的にすることにしたのだ。
笑顔は全てを解決する。よし、頑張れ私。
「な、なな何しに来たの?」
「笑顔が引き攣っていますし、声が震えています。私は姫に危害を加えるつもりはありませんよ。」
青年は心配するような視線を向けてくる。誰の所為と思ってるのかな。冷静に考えると段々怒りが込み上げてきた。
「レステリア魔法学校に合格して、最高の気分で家に帰ったのに! 知らない人がいるし、姫と呼ばれ馬鹿にされ…… 不審者、あなた何者なの!?」
「不審者ではありませんが……。自己紹介がまだでしたね。私はアルガス、悪魔です」
「悪魔っ!?」
さっきの怒りなんて吹き飛んだ。
あ、あくまっていうたよね!? そんな凄いのがこの平凡な家に来るわけがない。嘘に決まってる。不審者は虚言癖があるからね。
信じようとしない私の様子を見て、アルガスは髪をかき分けて耳を見せてくれた。確かに尖っている……。悪魔やエルフ、吸血鬼は耳の形が特殊なのだ。
ほ、本物なの……!?
確かに普通の人間なら勝手に人の家に入らないし納得だ。それに私の魔法をいとも容易く消してしまった。悪魔と言われれば納得。
ん、待てよ。悪魔は普通、黒いモヤみたいなものか動物の姿をしている。それは悪魔は低位種しか姿を現さないからだ。強い悪魔は人間如きに会おうとしない。
なら思い当たるのは1つしかない。考えたくないけど……
「……高位種?」
「? そうですよ」
「ふぇっ!? あわわわわ……」
いやいやいや。そうですかとか言ってるが高位種は世界に数人しかいないとされている。数が少なすぎて高位種=神とされているほど。
それに悪魔は人知を超えた存在で、悪の象徴よりかは強くて偉大なもの。その証拠に悪魔教があるくらい。魔法使いでも従えたものは一目置かれる。
どうしよう!? 今まで失礼な態度しかとってなかったよ!
尊敬の意を示して水に流してもらおう。
人間の首を跳ねるくらい高位種にとって造作もないこと。まだシニタクナイ。
胸の前で祈るように手を組む。
「悪魔様! なんと素晴らしいお方なのでしょう。」
「手のひらくるっくるですね。高位種だからですか。大体人間の姿なのは人間界に擬態しやすいからですよ」
アルガスの向けてくる視線は若干どころかかなり冷え切ってる。
「いえそんなわけ〜ないでは……」
「震えすぎですよ。私は人を (あまり) 殺さないので」
「こわい……」
「それは申し訳ございません姫」
アルガスに反省の色は見えない。絶対私を揶揄って遊んでいる。その証拠に私のことを姫と呼ぶんだもの。誰かと間違えているのだろうか。
この年で姫と呼ばれるのは流石に恥ずかしい。誰にも聞かれてないとは言え、堪えるものがある。
「私姫じゃないから! 名前はフェリア。絶対に人違い。だって姫って王族の女の子のことだよ。私は生まれも育ちも平民」
私の主張には納得してくれた。でもアルガスが呼び方を変えることはなかった。
「その考えは正しいですよ。普通姫は王族ですね。ですが、私にとってあなたは姫なので」
「ん? どういうこと」
「……覚えてないですか」
「え」
「やはり……」
アルガスは少し思案した後いきなり椅子を立って口を開く。何をする気……
「決めました。私はあなたの従者をします」
「うん?」
「いいんですね。これからお願いいたします」
「いやいや待って待って、意味わからないし困るんだけど」
何を言っているの!? 従者をするとは??? 訴えても綺麗な微笑みでかわされるだけだ。こいつ、話が通じない。
「大丈夫ですよ。私はあなたに危害を加えませんし、従者としてあなたのお役に立ちましょう」
「危害を加えないのは当たり前だよね!? 何で私なんかに……」
「あなたが姫だからです」
そう言い切って目元を細めた。
だから姫じゃないんだけど!? 悪魔に十字架って利効いたっけ? 確か部屋の押し入れに……。
私の頭は穏便? にこの悪魔を追い返す方法を考えている。
私が頷かないのに痺れを切らしたのか、アルガスがここぞとばかりに詰め寄ってきた。
「私は悪魔で高位種ですから姫のことを助けれます。学校に行くと先ほどおっしゃってたでしょう。そこでの成績も上がりますよ」
「うっ」
痛いところをついてくる。
私のような奨学生は成績を上げなきゃいけない。だからアルガスという高位種の使い魔を従えることで、成績を上げれる。
ぬぬぬ。私の心は揺れ動いている。これほど心が揺らぐのは、この悪魔の話術が巧みだからなのだろうか。それとももう私が心を許してしまったから?
いや、目の前に手を伸ばしたくなるほどの誘惑があれば、誰だってこうなる。
さぁさぁとアルガスは手を差し出してくる。この悪魔の言っていることは意味不明だし不審者だけど、メリットが大きい。
こんな偉大な高位種が私に構うことなんて奇跡だし、またとないチャンスだ。いまだに不安が胸の中に燻ってるけど……。
差し出された手に自分の手を重ねる。
するとアルガスはこれまでより一層綺麗で優雅に微笑んだ。
「よろしくお願いします、姫」
その瞬間体がふわりと軽くなった気がした。主従契約の完了だ。
こうして私は悪魔の手を取ったのだ。
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