第15話
「二週間後にソルセルリーがあります」
いつものように授業が始まると思ったら、唐突にそう言われた。その一言で生徒たちをざわつかせた。
だが一人は違う。
月色の髪に澄んだ青い瞳を持つ女の子の表情は、自信に満ち溢れている。その表情はソルセルリーを知らない人達に対して向けられていた。
「みーんな知らないんだ。私は知ってるけど」
「誰に教えてーもらったのかなー」
「私達の受け売りですよね」
そんなことない! 私は自力で知った。たぶん。
意志を頑なに曲げようとしない私に言葉を失っている。私が正しいとやっと認めたようだね。
満身創痍になっていると、二人同時にため息をついた。何で!?
「ソルセルリーについて知っている人はいますか?」
ミランダ先生が生徒に質問を投げると、私達を含む生徒の3分の1が手を上げた。意外と少ない。
先生は人数を数えると、分からない人向けに説明をした。
「ソルセルリーでは全学年合同で、一番魔法が得意な人を競う大会です。学年別ではないので、一年生は厳しいかもしれませんね」
先生によれば、毎年三年生が優勝しているらしい。二年も勉強している年数が違うから勝てないのはしょうがない。経験が物を言うとはこの事だ。
少し落ち込んでいると、励ますように視線を向けられる。
「ですが、今年は一年生でも強い人がいるので結果は分かりません」
ミランダ先生と目が合う。強い……人。はっ!
もしかして期待されている! 先生の期待なら答えなきゃ。目線に答えて頷く。先生は満面の笑みで返してくれた。
「大会は個人戦と、学年戦があります。個人戦ではこの学校全体を使いハイドシークを、学年戦では二人一組でチームを組み、使い魔と共に相手チームと戦います」
ハイドシーク! 溢れ出る喜びを隠せず、顔がにやけるのを抑えられない。教室の空気も心なしかソワソワとしだした。
ハイドシークは鬼ごっことかくれんぼが合わさったもの。全員が隠れたり他の生徒を魔法で攻撃したりして、最後の一人になるまで終われないと言うゲームだ。因みに世界最高記録は三百二十五日。
何でも有りなゲームで、死なない程度なら何をしてもいい。だから負傷者が絶えないんだけど、このスリルが楽しい。
もちろん私も初めてで、とっても楽しみにしていた!
危険だからと小さい頃は禁止されていたから、この分嬉しさが倍になっている。 禁止してくれた両親には感謝しかない。
「最初行った通り二週間後になるので、今日からはソルセルリーに向けての練習を行います」
先生によると、ここからは魔法の歴史や魔法学の授業の頻度を減らして、実戦練習をするそうだ。
座学より実戦の方が何倍も楽しい。どうやって勝とうか思考を巡らせる。
するとふと思い出したように先生が告げた。
「言い忘れていましたが、優勝者には賞金と賞品があります」
賞金!?
その一言で生徒達は目の色を変えた。私も周りと同じように期待したいが、これを聞くまでは期待できない。意を決して質問する。
「賞金はいくらですか?」
「まだ分かりませんが、例年通りだと百万円だとは思います」
「ひゃくまんえん!?」
思わず椅子を鳴らしてその場に立ち上がる。ひゃくまんえんだよ! それだけあれば豪遊できてしまう。
私の頭はソルセルリーに向けての戦略から、賞金を何に使うかで埋め尽くされた。
隣のソーニャの顔も嬉しそうに見える。
「賞品は何ですか?」
貴族の男子生徒が挙手した。
この貴族はお金には興味が無いらしい。でも賞金が気になるからと言って、賞品に興味がないと言うわけではない。
教室は水を打ったのかのように静まり返り、先生の言葉を待った。
「たしか賞品は、氷露の首飾りです」
「本当ですか!?」
その言葉を聞いたとたんに教室に音が戻った。彼が驚くのも無理はない。その首飾りは救国の王女が着けてたとされる国宝だ。
装飾品に興味がない私だがこれは別。救国の王女は歴代で最も優れている偉大な魔法使い。
尊敬する人が着けていた物が要らない訳がない。教室は期待に満ち溢れた。それもつかの間。
「……それ、本物ですか」
「え、えぇ。国が管理していましたから……」
しばらく喜びに浸っていたが、地の底を這うような低い声で目が覚めた。アル…ガス?
「ど、どうした……」
「姫」
聞き返そうにも遮られた。アルガスは底冷えのする笑顔でこう言うのだった。
「あの首飾り、優勝して絶対に取り戻しますね」
彼にその首飾りにどんな思い出があったのかは分からない。けど、そこまで必死な顔をされたら断れる訳がなかった。
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