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第12話

 「うぅ、授業サボるとか終わった……」


 「たかが一回で大袈裟すぎですよ。倒れたんですから早退では?」



 鏡の前に立ち制服の裾を整える私に、呆れた視線を向けてくる。

 大袈裟じゃないよっ!

 

 昨日はこの事に悩んでよく眠れ無かった。窓から差し込む朝日が眩しい。


 頬を膨らませてアルガスを睨むが、華麗に無視される。なぬっ!?


 落ち着け、ここで起こったらただの子供だよ。悪魔なんだから価値観が合わないのは当然。悪魔だから。



 「失礼なこと考えていません?」


 「ふぇっ!?」



 深呼吸をして気持ちをコントロールしていたら、急にそんなことを言われた。いやまさかそんなこと言うわけが……。


 慌てる私を絶対零度の冷めた目で見てくる。


 こいつ……メンタリストかっ!?



 とにかく、この価値観が人外な悪魔に、ことの重大さを伝えなければ。


 改めてアルガスの方に向き合う。怪しげな目をされたが致し方あるまい。



 「奨学生の私は良い成績を取らないと、この学校に通えないの。授業を休むと、やる気のない生徒と思われるの!」


 「……使い魔が二人いる時点で通えなくなることはないと思いますが」



 顎に手を当てて考えるが、二の句を継ごうとはしない。どうやら私の必死な説得で納得したらしい。満足げに頷く。


 それより自分の言葉はかなり刺さるものがある。学校に通えなくなるのは流石に困る。


 アルガスの言う通り使い魔を二人召喚してるから大丈夫だとは思うけれど、平民差別が厳しいこの国では何が起こるか分からない。



 私が先程まで寝ていたベッドには、毛布を抱き枕にして幸せそうにレアが眠っている。昨日夜寝れないとか言ってた気が。



 「はぁ〜、これから私の奨学生としての生活が〜お金が〜」


 「……お金ならありますよ」


 「へ」


 「ほら」


 「ふぃえ!?」



 アルガスが指をパチンと鳴らすと何も無いはずの空間から、金貨や宝石が豪雨のように降ってきた。


 ……どどどういうこと!?



 混乱する私に、金貨を両手で掬って差し出してきた。



 「これを使ってください」


 「ふぇぇ!? ……盗んだ?」



 まさか、アルガス信じてたのに。

 一周回って冷静になった私は信じられないものを見るような目をしてアルガスに視線を落とす。


 私の視線を受けたアルガスは深くため息を吐く。



 「私がそんなことするとお思いで?」


 「うん」


 「即答ですか……」



 心外ですねと目線を下に落とすが、同情を買おうとしても私には効かない。

 じとーっとした目つきでアルガスを見つめる。



 「アルガスならやりかねない」


 「悪魔だからです?」


 「アルガスだから」


 「!」



 少し驚いた顔をした後に口を開く。



 「これは私を呼び出した人間の願いを叶えたついでに貰っただけです」



 「悪魔召喚っ!? 違法でしょ! というかついでで何億も貰うなっ」



 「……これで億ですか。合法ですよ」


 「な訳あるかぁ!」



 やばい。これに人間の倫理観について教えなければ。絶対犯罪者になるよ!


 頭の中で目まぐるしく計算をしていると、声を掛けてきた。



 「まぁ、とにかくこれは使っていただいて構いません」


 「色んな意味で使えないよ……」



 考えて見てほしい。十五歳の女の子が何億も持っていたら賊に襲われるよね!? それも怪しいルートで手に入れたお金だよ。


 青ざめる私を心配して覗く。うぅ、誰のせいだと……。



 「そんなこと言わずに使ってください」



 渋る私の頭を撫でて優しく諭してくる。頷けない私にここぞとばかりに詰め寄ってきた。



 「使い魔のものは、普通主人のものですよ」


 「それは、まぁ……」



 そんなことは知っている。だからと言って闇金のようなものに手を出すほど堕ちたくない。


 なのにこの悪魔は私に押し付けてくるのだ。



 「私はあなたの所有物です。これはただの付属品です。私の全てはあなたのものですから」


 「何その悪魔的発想っ!?」



 悪魔みたいな考え方っ! いや悪魔だった。


 アルガスに倫理観を説くのは無理かもしれない。私は色々諦めることにした。



 「とにかくしまって」


 「しょうがないですね」



 渋々といった雰囲気を消そうともせず、指を鳴らして大量の金貨を元に戻した。それどういう仕組みなんだろう。


 とりあえずホッとして力が抜けた。まさかアルガスがあんなにお金を持っているとは。


 高位種はお金持ちなのだろうか。私の視線はレアの方を向く。まだすやすや気持ち良さそうに寝ていた。……持ってないな。



 「必要になったらいつでも言ってくださいね」


 「絶対に言わない!」



 アルガスから鞄を受け取って部屋を出る。流石に欠席する訳にはいかない。時計を見ると丁度良い時間だった。


 レアは……あれだけ幸せそうに寝てるしいいか。起こすのも忍びない。



 お金は魅力的だけどとっても危険。


 アルガスにやはり倫理観を教えるべきかと私は頭を抱えるのであった。

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