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プロローグ

 私はレンガが並べられた大通りを弾むような足取りで歩いている。ひどく緩んだ口に手をかざしても、溢れる喜びは隠せなかった。今日ばかりは見慣れたこの景色も違って見える。

 私の頬はだらしなく緩んでいることだろう。

 その様子に私の横を通る通行人がギョッとした目でこちらを見てくる。そんな注目の的になっていることすら気が付かなかった。


 それを上回る喜びで、他のことなど頭に入っていなかったからだ。

 だって……




ーーレステリア魔法学園に受かったのだから!!!ーー





















※ ※ ※


 私が住む国レステリアには、日常に魔法が溢れている。空飛ぶ汽車や馬車、ひとりでに動く椅子や角と羽根の生えた生き物。

 この国の発展は魔法によって支えられていると言っても過言では無い。


 人々の暮らしを支える魔法。


 だが魔法を使える者は発展の割には少なく、人口の十分の一しか使える者がいなかった。

 使える者がいないと言っても、殆どの人は生まれた時から魔力を持っていた。ただ呪文を唱えても何も起きない者が多いだけで。


そもそも魔法使いは努力で成り立っている。才能がある無いは関係なく、勉強すれば誰でもなれるはずだった。少なくとも百年前は。


 魔道具の開発。これが大きな影響を与えた。


 魔力を流すだけで誰でも使えるそれは、人々の魔法を学ぶ意欲を低下させた。


 「これでは魔法が失われてしまうと」、危機感を覚えた国王は魔法の教育を活発にさせようとした。


 そこで導入されたのが学制だ。それは15歳以上の優秀な魔法使いは、国のお金で学校に入れるというもの。

 

 つまり学校に行くお金が無い人でも、国からの補助金で行くことができる奨学生制度だ。

 奨学生と言っても、優秀な成績を残さなければ切捨てられてしまう。試験で高得点を取った者か、お金持ちの貴族しか入れないのだ。



 この一見便利な学制の闇を知った時は子供ながらに足が震えた。大半の子供は、ここから貴族に対する苦手意識が出来ている。もちろん私もその一人だ。


だってさ、平民は一生懸命に勉強して入るのに貴族はバカでも金払えば入れるんだよ? ずるくない!?



 まぁ、つまりこの私フェリアは、そのスーパーエリート学校に受かったのだ!



 勉強に明け暮れる日々。この一年は一日に五時間は勉強していた。最近遊んだ覚えがないのも、合格できたのも私の勉強の賜物だ。

 とは言っても私は魔法が大大大好きだし、まるで1度勉強したかのように頭に入ってきた。貴族は勉強してないと思うし、私に少しくらい才能があってもバチは当たらない……と思う。


 どうか神様、バチを与えるなら貴族にしてください。努力もしてない愚者に神の鉄槌を……。


 おっと、いけない。私怨を込めてしまった。


 でもこれで親孝行出来る!

 平民なのに私の魔法学園入学を応援してくれた両親。補助金と言っても、学生服のお金や食費は払わないといけない。

 私の両親は良くも悪くもおっとりしていて優しい性格なので、二つ返事で許可してくれたけど。

 

 そんな優しい二人に報告したらどんな顔をするかな。


 私は高鳴る胸の鼓動を感じながら両親の顔を思い浮かべていた。


 視界の先には見慣れた我が家が。いつの間にか家に着いていたらしい。浮かれた気持ちを抑えてドアノブに手を掛ける。

 大きく息を吸い込んだ。



 「たっだいま……」

 

 「おかえりなさいませ」


 「……え……え?」



 出迎えたのは闇に染められたような黒髪に、怜悧な瞳をした青年だった。

 呼吸なんて忘れて固まる。


 えっえ!?


 私の脳内は大混乱だ。いや、落ち着け私。こっここは私の家だよね?間違えて隣の家に入ったとかかな? いやそこまで馬鹿じゃないよね! ……え!?

 なぜ目の前に知らない男がいるんだ!?


 何者か確かめるため、じっと見つめる。かなりのイケメン。それに燕尾服に身を包んでるし従者かな?


 混乱する頭で考えて私は一つの仮説にたどり着いた。



「生き別れの兄弟っ」


「いや違いますよ」


 

 にこやかに否定された。

 むむむ、これが違うなら……



 「お父さん、信じてたのに……」


 「いや、腹違いの子供でもないですよ」


 

 いや誰だよ!? こ、こ、わ、た、し、の、い、え。

 


 「じゃあ誰なのっ!? それ以外ならただの泥棒か不法侵入者か罪人か……あ、お母さんの方だった……?」


 「少しはご両親を信用してあげては? 小説の読みすぎではないかと」



 うー、知らない人に馬鹿にされた気がする。

 頬をぷくっと膨らませても、青年は微笑むだけだ。

 

 何者なのこの人……? 話が通じなさそうだし、警備隊でも呼ぼうかな……それとも正当防衛と称して……。

 

 自分の身が危ないとは知ってか知らず、彼は綺麗にお辞儀をする。



 「またお会いできて嬉しいです、姫」

 

 

 えっ……ひめ?

 


 かわいいってこと?

 いや確かに私は月の光が反射したような輝くほど綺麗な銀髪に、水面を写したような澄んだ瞳。

 自分で言うのもなんだが珍しくてかわいい容姿だ。ただ童顔だからか年齢が低く見られてしまう。


 若い頃の母に似てて、初対面の人にはかわいいと言われるけど、数事言葉を交わしただけで、内面が……と言われてしまう。何でだ……。



 それに、また?



 私はこんな人は見たことも聞いたこともない。それこそ神に誓っても、だ。

 

 うんよくわからない。とりあえず不法侵入だよね、私の家だよ、ここ。


 頭のおかしい人に違いない。こっちが何かされる前に動かなければ。先手必勝だ。


 私は息を整え、目の前に手を突き出し呪文を紡ぐ。

 こう見えて私は試験の実技で2位を取るほどの実力者だ。

 

 因みに1位はこの国の王子。魔法を放つところこの目で見たけど、あれで一位はない。

 私と王子の魔法は象とアリほど力が違う。王子は権力を、私は魔力を。権力には誰も逆らえない。馬鹿みたいだ。


 その時のことを思い出すと腹が立ってくる。理不尽な力でねじ伏せられる才能。もう、権力に屈しないと。


 想いが反響して、今まで以上に強く、速く。



 『アイスボール』



 その刹那。勢いよく放った魔法は、シュウという音と共に霧散した。

 

 これまでの警戒心なんて忘れて立ち尽くす。

 普通の人間ならこれで凍らせれるはずなのに。今までで一番上手くいった魔法だったのに。


 顔に絶望を浮かべる私をよそに、目の前の男は嘲弄を込めて呟いた。


 

 「相変わらずですね」

 


 圧倒的な力の差を見せつけられて、攻撃の手を止めるしかなかった。

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