9 血まみれ聖女
辺境の地ムリージョの修道院がある村落で異様な光景があった。朝もやの中を杖を突いた娘が歩いてきたからだ。その娘が着ているのは退魔の時に聖女が着用する衣であったが、血まみれであった。まるで戦場を離脱した落ち武者のようであった。
「朝早うからどうされたんですか?」
少し引き気味の老女が尋ねてきた。年の頃は18前後で、どこか幼さが残るがもう少しすれば美人になるのは間違いないと思えた。でも、何故血まみれ?
「すいません、あそこの修道院に行きたいのですが、どなたかおられませんか?」
鈴がなるような声であったが、なぜか違和感があった。
「たぶん、おりますよ修道女のシモーネさんが」
その言葉に娘は満面の笑みを浮かべた。どうやら、修道女に用事があるようだ。でも、なんでこんなところに聖女がいるのだろうか?
だんだん修道院に近づくと人が多くなり注目されるようになったが、村人はなぜ彼女がいるのか不思議に思い出した。
「すまんがお嬢さん、お名前は?」
村長らしき老人に聞かれたが、なぜか娘は警戒した様子だった。
「それは、シモーネ様にお会いしてから名乗ります」
どうやら、ここで名乗れない理由があるようだ。では、何故か? それには村人たちも警戒した。
「そんなことでは、困りますな。あんた聖女でしょ! まさかフランチェスカというんじゃねえのか?」
その言葉に、娘はドッキとした様子を見せた。