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「姿を盗む竜族だと?」
アベルの記憶の中に、以前聖女を務めていた姉のシモーネの言葉が蘇った。昔、戦った竜族に人間の皮を被って騙そうとしたやつがいたと。
「はい、おそらくは・・・フランチェスカ様は敗れてしまって・・・」
「わかった。みな言う事はない」
この時、目の前にいるフランチェスカの中身は別物になっていて、本当のフランチェスカは殺されたのだと分かった。
「ならば・・・遠慮なしに戦っても構わないってことだな」
アベルら殿の部隊は全滅を覚悟して突入する事にした。最悪でも聖女の姿と能力を奪った敵を葬ろうというわけだ。聖女が本来使うはずの武器をアベルが持って中央突破を図った。
「突撃!」
だが、前方の防御が手薄なところに突入したが後ろから伏兵が現れ挟撃されてしまった。そのうえで四方八方から激しい攻撃魔法がかけられ、敵兵を討ち取る前に散華していった。そしてアベルも腕を吹き飛ばされ、腹に致命傷を負いその場に倒れた。
「くそう・・・これまでか・・・」
その時、身体が宙に浮かんだような気がした。それはフランチェスカいや、彼女の姿を盗んだ神通力によるものだった。
「ふん、お前が聖女だったらなんとかなったかもしれないな」
「おのれ!」
アベルは空中で地団太を踏んでいた。でも、命が絶えるのも時間の問題であった。