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議長の前に立ったシモーネはおもむろに顔をあげた。そのころには議場の見学席は群衆でいっぱいだった。かつての聖女、そして皇帝の姉が何を発言するのか注目していた。
「議長ならびにムリージョのみなさん。私の弟がしでかした行為に対し謝罪いたします。弟からは特別な事は何も連絡ありません。ただ、ひとつだけ分かった事があります。弟のアベルは異界の何者かによって姿を奪われたことです」
その発言を聞いていた者たちからどよめきが起きた。そのどよめきが収まらないうちに続けた。
「少し前の事であります。私の元に一人の少女がやってきました。彼女は記憶を失っていましたが、私の読心術によれば、現職の聖女フランチェスカ・ソフィア様です。彼女の断ち切られた記憶を呼び起こしたところ、三か月前に来襲した異界の魔王が全てを奪いに来たようです」
異界の魔王! その言葉は恐ろしい響きであった。昔からの言い伝えによれば異界の魔王がやってきたら、この世界は終末を迎えるといわれていた。そして今存在している人間は別の何者かに変えられてしまうと。
「修道院長! 本当なのか? その少女は?」
議長の問いにシモーネは座っていたフランチェスカを証言台に招く許可を求め認められた。シモーネと同じく修道服を着たフランチェスカは緊張を垣間見せながら歩みだした。




