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 俺はアベル。騎士団長を務めていた。俺が率いていた騎士団は異界の門から出現するありとあらゆる竜難から、この世界を護るために編成されていた。竜難はこの世界では地震、火山の噴火、風水害などよりも恐ろしいものであり、そんなに戦争をしていても異界の門が開けば交戦国であっても協力して対処するのが世界の秩序であった。



 酷い痛みの中、俺が目覚めたのは麦藁の中だった。その麦藁は匂いが若くてまだ収穫して間もない気がした。そのとき、おかしい事に気付いた。意識を失う直前の記憶がよみがえったが、それは冬だったはずだ! 俺ってずっと眠っていたのか?


 俺は身体を起こそうとしたが、どうやら麦藁の中に埋まっている様だった。埋まっている? いったいどうなっているんだ? これでは水の中に沈んでいるみたいだ、あがくように俺は両手でかきだそうとしたが、ここでも変な事に気付いた。右手がある!


 気を失う前、俺は聖女フランチェスカと戦っていた。彼女は俺が使える国公認の聖女であり、竜難に立ち向かう存在だった。なのに彼女は何かに憑依されたかのようにおかしくなっていた。原則として竜難の聖女は人間と戦わないはずなのに!


 気を失う前の事を思い出すと、俺の剣を持つ右手は彼女が放った衝撃波によって粉々になった。俺は絶叫しその場に崩れ落ちた。そして彼女は俺の左手を掴み上げた。その力は抵抗できないほど強かった。そして彼女はこういった。


 ”うまそうな身体だ! もらい受けるぞ!”と。



 そして彼女は俺の後頭部を鷲掴みしたところで、意識は飛んでしまった。あれから何が起きたんだというのか、見当もつかなかった。


 それにしても、右手はあるのはどうしてだろう? 全身に激痛が走り、血の匂いが鼻腔を支配している状態なので考えられなくなっていた。それよりも俺は藁の山の中から脱出しなければならなかった。そっちが優先であった。麦藁の中を脱出した途端、俺の身体は転がりだし、どこかの壁みたいなところに激突した。


 「い、いたいじゃないか!」


 思わず口にした自分の声に違和感を感じた。声が高く鈴がなるようなきれいな声だったからだ。それで右手を顎のところに触れるとさらに驚いた。”やわらかい”感触であった。まるで女のような・・・本当なら俺は髭をのばしているにの! その時、右手が胸に落ちるとさらに驚いた。まるで・・・女?


 分厚い鍛えられた胸板ではなくクッションみたいなふくらみだった。その感触って・・・俺が早くに亡くした妻のものに似ていた。それってまさか・・・俺は女になった?


 とにもかくにも自分の身体を確認しないといけない! 藁の山を抜け出した俺はその場を離れた。その時、夜で周囲に人影はなかった。ここはどこなのかよりも自分の姿を見ないといけないと。俺は何を着ているのかを確認すると、それは甲冑の下に着る下着姿だった。しかも血で穢れていた! 俺には悪い予感しかなかった。月明りを頼りに急ぎ歩いて行くと、家畜の為の水飲み場を見つけた。その水面に映る”自分”の顔を見ると、こう口にしていた。


 「ふ、フランチェスカ様?」


 俺の顔は聖女フランチェスカになっていた!

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