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97話 勧誘とご機嫌

「将来は国の騎士になるつもりだからごめんなさい」

「そうですか、ですが気が変わったらいつでも言ってくださいね」

「ご縁があったら」

今日何度目か分からないお断りを入れる。

断りを入れた女の子が離れたことを確認する。

「はーもう今日何度目だよ」

誰もいない場所で俺はため息を吐く。

今日だけで勧誘を受けるのは4回目だ。

理由は分かっている。魔術の授業のせいだ。

カミラに魔法を使ってもらったら熟練の騎士以上の力が出てしまいクラス中を驚かせた。

その噂を聞いたクラスメイトや他のクラスの生徒が俺を自分の家で雇おうと勧誘しにくるのだ。

まだ魔術を習い始めたばかりなのに教師以上の魔法を使った天才。

それも身体強化とはいえ人型の精霊と契約しさらにAクラスに所属できるほどの学力と剣術が使える。

今のうちに自分の家で雇っておくと家や自分を守ってくれると思われて勧誘に来たのだ。

「あれデニスちゃん終わった?話長いよね」

最初勧誘の時は俺の側で話を聞いていたカミラだが四回目ともなると少し離れた場所にいた。

「誰のせいでこんなことになっていると思っている」

俺は地面に座り文句を言う。

本当はこんな行儀の悪いことをしない方がいいのだろうが、この場には誰も居らず何度も断って精神的に疲れた。

少し気を楽にしたい。

「誰のせいってデニスちゃんがきちんと自分で魔法を使わず私に任せたからでしょ。これからは反省して自分で魔法を使うようにしたら」

確かに自分で魔法を使わずにカミラに全部任せた俺も悪い。

しかしこうなることを予想していたのならもっと手加減してくれてもよかったじゃないか。

「最初の魔法がこの威力ならこれからはカミラに魔法を使って貰わないといけなくなったけど」

もし俺がかなり練習して魔法を使えるようになっても今日カミラが使った以上の魔法が使えるようになると思えない。

そのためこれからもカミラに魔法の授業は手伝って貰うことが確定したことになった。

そのことに今頃気付いたのかカミラも「あ、」と言っている。

「もしかしてそのことに気がついていなかったか」

相変わらずカミラも抜けている。

「デニスさんちょっとよろしいですか」

カミラと話しているとまた別の生徒から話かけられ俺は気が進まないが渋々その子のところに向かった。


「デニスさん今日は人気者だね。本当にいいご身分で」

授業が終わりレットと共に寮に帰る途中レットが怒ったように言われた。

「全く気が進んでいないことくらい分かっているよね」

今日だけで結局六回も勧誘を受けてしまった。

子供相手とはいえ貴族相手に断るのは精神的にくる。

お姫様のレットと常に話しておいてなんだが。

「仕方ないよねデニスさんは学園始まって以来の天才だもんね。」

「ちょっと待って私そんなふうに言われているの」

本来は全く魔法を使うことが出来ない俺がズルしてそんなふうに言われていると思うとかなり罪悪感がある。

「それよりなんでレットはそんなに怒っているの」

事前にレットにはカミラに魔法を使ってもらうことは話していたはずだ。

想定よりだいぶん強力な魔法だったとはいえレットがこんなに怒る理由はないはずだ。

「そんなの今日デニスさんを勧誘してきた人達に怒っているにきまっているじゃない。だって今まではタダ飯食いとか俺たちの学費を使って生活しているとか好き勝手言ってたのに魔法の才能があるとわかるとすぐに勧誘しにくるなんて都合のいい人たちばかりだから」

レットの話を聞いて俺は嬉しい。

てっきりレットは俺が構ってくれないから怒っているのかと思っていたのだが俺のために怒ってくれるなんて

「レットはいい子だね。ありがとう」

俺はレットに感謝をする。

「そんなことないよ。それより誰のところに行くの」

え?なんのこと言ってるの

「かなりいい条件を出されているよね。だから将来デニスさんは一体どこで働くつもりなのかなと」

どうやらレットは俺が今日勧誘された生徒のところで働くと思っているみたいだ。

「どこにも行かないよ。私は国の騎士団に入って護衛騎士になるって決めているから全員の誘いを断っているよ」

俺にとって騎士団に入るのはエマちゃんとの約束でもある。

そう簡単に目標を変えるつもりはない。

「え、そうなの。だって騎士団よりもいい条件のところとかあったよね」

「確かにいい条件のところはあったけどそれでも私の大事な目標を変えるつもりはないよ。」

俺の答えをいいたレットは途端に嬉しそうになり「そっか」と言った。

デニスちゃんとレットちゃんは仲良しです。

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