70話 お礼の料理
「まったくエマ様だけずるい私もデニスちゃんと一緒に夕ご飯の買い物したかった」
寮に帰ってくるなり買い物袋を持った俺たちを見てレットは予想通り怒り出した。
「ごめんごめん今度はちゃんと忘れないようにするから」
レットはもしかしたら俺たちが買い物をしてくると予想していたようで寮の食堂で待ち構えていた。
レットの対応はエマちゃんに任せて俺は調理場へ向かう。
外ではエマちゃんとレットの話し声が聞こえてくるがここ数日で二人はかなり仲良くなったようだ。
本来忙しい時間に使うのは迷惑になるが魔物の騒動のせいで帰りが遅くなり夕食の準備は終わってしまっているため遠慮なく使うことが出来る。
「デニスさん今日は何を作るの」
レットはエマちゃんとの喧嘩を終わらせて中に入ってきた。
「市場で卵が安かったのとエマちゃんが食べたいって言ってたからオムレツは確定かな。あとは新鮮なお肉が手に入ったからお肉を使った料理かな」
俺は市場で考えていた献立を言う。
新鮮なお肉というのは俺が撃退した熊の魔物のことだ。
取り調べが終わり帰ろうとした時に丁度騎士達が熊の魔物を持ってきた所だった。
俺が倒したということもあり肉を分けて貰ったのだ。
俺が料理をしている時エマちゃんレットカミラの三人は俺の姿をずっと見ていた。
「いえーデニスちゃんはいいお嫁さんになるよ」
「将来私の専任侍女になりませんか」などエマちゃんとレットは俺のことを見ながら話している。
「はいはいエマちゃんは少しは料理できるようになっとかないと何かあった時不便だよ。あと私は侍女にはならないよ。私は騎士になるんだから」
俺は二人の茶化しを適当にあしらいながら肉料理を調理する。
俺は肉を食べやすい大きさに切るとワインに漬ける。
「デニスさんこれは何をしているんですか」
レットは俺が肉をワインに漬けているのが気になるようだ。
「これは肉の臭みを取ってるんだよ。魔物の肉は臭みが凄いからこうやって漬けとかないとおいしく食べられないからね」
本来俺一人で食べるのならもっと適当でいいのだがこれはお礼の料理だ。みんなには少しでもおいしく食べてほしい。
「へー家ではそんなことしてなかったよね」
「あれエマちゃん覚えてたんだ。てっきり料理は何も覚えてないのだと思ってた」
家でエマちゃんが料理をしている姿を見たことがない。
いつも手伝おうとしてその手前で何らかの問題を起こすからだ。
「普通に街で売っているお肉は食べやすい野生の動物だけどこれは魔物だからね」
俺は料理をしながら答える。
「普通そんなことは騎士とかの魔物をよく狩る人しか知らないはずなのによくデニスちゃんは知ってるね」
「え、ああそうだね。えーと本で読んだんだよ」
俺はカミラに言われてから驚いた。
そういえばこれは前世で騎士をしていた時に学んだことだったからだ。
俺が急いで言い訳をしたがカミラが「ふーん」と納得したのかしてないのか微妙な返答だったがこれ以上は聞かれなかったのためいいのだろう。
それからしばらくすると料理が出来上がった。
「ヴァイオレット様事前に私が毒見を」
レットの傍に控えていた侍女が毒見をしようとする。
「そんなのダメです。私の友達の料理に毒なんて入っているわけではないので不要です」
レットの答えに侍女が慌てる。
「で、でももしものことがないとは限りませんので一度毒見を」
「だめなものはダメです」
しかし頑なに毒見を断る。
「レットだめだよ侍女さんもお仕事だからもし何かあれば侍女さんが怒られてちゃう」
このままでは侍女さんがかわいそうなため俺がレットを説得する。
「だってデニスちゃんが私のために作った料理なのに毒が入ってるって疑われるのが嫌で」
そんなにレットが俺のことを信用してくれているとは思ってなかった。
俺はどうするか考えてレットの料理を俺が一口食べることにした。
「ちょっとデニスさん何しているの」
丁度すべての料理をすべて一口ずつ食べ終わると侍女さんとレットを見る。
「レットこれは私の作った料理の味見だから別にいいよね。あと侍女さんこれで毒が入っていないと証明できましたか」
俺は二人の顔を見ながら言う。
二人がうなずくとやっと食事を食べることが出来る。
デニスちゃん久しぶりの料理でした。




