121話 決勝戦④
俺はヴィクター先輩を迎え撃つ。
先輩は攻める方が得意のようだ。
先ほどから攻めてばかりだ。
俺は当然のように迎え撃つ。
俺は落ち着いて相手の動作を観察する。
エマちゃんが言っていた通りの行動をした。
だがさっきはそれで油断して反撃を食らいそうになった。
だから最後まで相手の動作を観察する。
ちょっとでも不審な動作をしないか観察をする。
今回はヴィクター先輩はエマちゃんとの予習通りの行動だったためそのまま回避して反撃をした。
最初の時のミスをしないように一歩踏み込んでの反撃のため俺の剣は綺麗にヴィクター先輩の体に当たった。
これで勝負ありだ。
場に静寂が流れる。
審判が俺の勝利を宣言をする。
しかしそれでもグラウンドは静まりかえっていた。
ヴィクター先輩から離れても誰も話そうとしない。
おかしいな?俺の予想だったら勝負が決まった途端拍手なり歓声なりがあると思っていたのだがいつまで経っても場は静まり返ったままだ。
しばらく経つとポツポツと声が聞こえてくる。
「なんだ、ヴィクター様が勝つのを期待してたのにあんなガキが勝つなんて」
「用意していた優勝した時のプレゼント無駄になった」
「早く行こうぜ」
どんどん観戦に来ていた観客が帰っていく。
観客は俺が勝ったことが不服だったようで歓声や称賛の声もない。
仕方ないかと思いながら定位置に向かって歩く。
定位置に着くと頭を下げてグラウンドから出ようとした。
しかしいつまで経ってもヴィクター先輩は定位置に来ない。
何をしているのかと思いながらヴィクター先輩を探すとさっき勝負がついた場所に倒れ込んでいた。
よく見ると体が震えている。
耳を澄ますと何か独り言を言っている。
「なんで負けるんだよ。今年こそ勝てると思ったのになんでなんで」
負けたことがそれほど聞いたのかとても悔しそうだ。
顔を見ることが出来ないがもしかしたら泣いているのかもしれない。
だが俺もこの悔しさを知っている。
前世では俺が騎士団に入って味わった悔しさだ。
周りのみんなが身体強化の魔法をどんどん覚え精度を上げていくなか俺だけいつまで経っても習得することが出来なかった。
習得を諦めてからも身体能力の高さで全員に負け続けそれでも目標があるからと努力してきた。
負けるたびに泣くほど悔しくてそれでも目標に向かって進み続けた。
その悔しさを知っている俺はどうしてもヴィクター先輩を放っておくことが出来なかった。
「先輩」
俺が近づいて声をかける。
「なんだ、俺を笑いにきたのか」
俺の声にすぐに反応してくれる。
「先輩は強いですね。こんなに苦戦するとは思っていなかったです」
返事をしてくれるとは思っていないため俺が思っていることを話す。
「先輩が努力していることはわかります。努力も何もしていないのならこんなに悔しそうにしません」
俺の話を聞いてくれているのかさっきまでしていた独り言はなくなっていた。
「私は先輩のこと凄いと思います。どれだけ負けてもどれだけ泥だらけになっても勝つために努力できるなんて。そんな人が強くなれると思います」
ここまで言うと俺は何を言えばいいのかわからなくなり、途端に恥ずかしくなって立ち去ろうとする。
「君みたいな天才でも負けることがあるのか」
立ち去ろうとすると突然鼻声が聞こえてきた。
声の方向を見るとさっきまで倒れていたはずのヴィクター先輩は起き上がっていた。
「君は俺より年下なのに俺より強い。きっと負けたことなんてないんだろ」
さっきまで泣いて倒れていたとは思えないほどしっかりと俺の顔を見ながら話ている。
「私だって何度も負けてます。負けるたびに悔しいです」
これは俺の本心だ。
俺だって何度も負けたことがある。
辺境の街にいた時だってどうしても敵わない人がいた。
「君は強いんだな」
「先輩ほどではありませんよ」
俺は笑うとそのままグラウンドから立ち去った。
やっと決勝戦が終わりました。




