表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第一章 出会い
9/89

第八話

次回から、23時に一話のみの投稿となります。


それでは、どうぞ!

 居心地が悪そうにするキメラと、上機嫌にキメラを膝に乗せて頭を撫でているパーシー、そして、どうにか衝撃から我に返って、今度は困惑した様子のフィスカ。それぞれがそれぞれの反応を示す中、最初に口を開いたのはパーシーだった。



「なっ、このキメラは可愛かっただろう?」


「え、えぇ、まぁ……そうですね」



 どことなくビクビクしているキメラに気づいていないらしいパーシーは、キメラと一緒に居ることが嬉しくて仕方がないとでもいうかのように、ギュッとキメラを抱き締める。



「不満は、あんまりにも細くて、不健康そうなところなんだが、何とかできないか?」


「いえ、そういう話ではなかったはずですよね!?」



 現在、パーシーの部屋には防音結界を張っている。いや、そもそもキメラの存在が他にバレないようにするため、パーシーは常時、この部屋に防音結界を張っていた。そのため、フィスカがどんなに声を荒らげたところで外に漏れることはない。



「あー、まぁ、そうだけどな? 昼間にこうして会えるのが嬉しい気持ちは分かるだろ?」


「分かりませんっ」



 パーシーは、男勝りな性格をしているものの、可愛いものは大好きだ。ただ、普段は嘗められないようにぶっきらぼうに振る舞っているだけであって、このキメラのような可愛い女の子は、パーシーの癒やしとして最上級の存在だったりする。



「そこまで言わなくても……」


「良いですか? パーシー、あなたは今、反逆罪に問われても仕方のない行いをしているのですよ? それでもパーシーがそのキメラに何かを感じ取ったのであれば、そのキメラの有用性を証明しなければならないんです」


「まぁ、それは分かってるんだけど、な……」



 現実問題として、キメラをこのまま置いておくのはあまりにも危険だった。

 バレるかもしれない、という危険性はもちろんのこと、キメラ自身のことも何も分かっていない状態で、キメラを守ることはとても困難だった。万が一にでも、キメラが人を殺してしまいでもすれば、庇い切れない。例えそれが、正当防衛と呼ばれるものだったとしても、キメラに人の法は適用されないのだ。



「最終手段として、そのキメラを殺すことも念頭に入れるべきですよ」


「っ、そんなことっ」


「そうせざるを得ない可能性を頭に入れておけば、下手な行動はできないでしょう?」



 フィスカの物言いに怒りをあらわにしたパーシーだったが、続く言葉で口を閉ざす。フィスカの言い分はもっともなのだから。



「ぁ……わ、悪い。怖がらせたな」



 そして、黙り込んだパーシーは、すぐに、腕の中のキメラの震えに気づく。



「……キメラが怯える姿なんて、初めて見ましたね」


「あぁ、そうだろうな。けど、こいつは結構怖がりっぽいぞ? 悪魔も怖いみたいだしって、悪かった! もう話題にしないから、大丈夫だから、なっ?」



 『悪魔』という単語が出ただけで、大きく震え出したキメラに、パーシーは大慌てでキメラを慰める。しかし、キメラにその声は聞こえていないのか、目をギュッと閉じたまま体を翼で覆って、震え続ける。そして……。



「…………?」


「……ぬいぐるみを抱えていれば良いですよ」



 自分の翼以外のモフッとした感触に驚いたらしいキメラが目を開けた先には、難しい顔をしながらもクマのぬいぐるみを押しつけるフィスカが居た。



「もう、大丈夫ですね?」


『もう、大丈夫だよ。キメラのお姉ちゃん』



 フィスカの言葉と同時に、キメラが思ったそれは何だったのか……。ただ、キメラは大きく目を見開いて、その後、静かに目を閉じる。



「おわっ、え? キメラ……?」


「……意識を失っているようですね」



 急に力を失ったキメラを、パーシーは抱き締める腕に力を入れることで支える。そして、フィスカは、そんなキメラの様子を軽く診断して、結論を下した。



「意識を失ってるって……どうして?」


「わたくしも分かりませんが……特に魔法の形跡もないので、疲労か何かかと」



 パーシーもフィスカも、お互いが何かをするはずがないという信頼をしているからこそ、取り乱すことはない。しかし、キメラの状態がそれで分かるということもなく、結局は、疲れが溜まっていたのではないかという結論になる。実際、フィスカの診断で寝不足や栄養不足が確認できたのも大きかっただろう。



「とりあえず、キメラを残して出ましょう。あまりわたくしがここに居続けるのは、不自然に思われますしね」



 ここでしかできない、キメラの確認はもう終えた。後は、パーシーとの会話のみであったため、フィスカは後ろ髪を引かれていそうなパーシーを連れて部屋を後にする。


 キメラを取り巻く事態が動いたのは、その日の夜だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ