第四十七話
レイラが爆弾発言をして数日、いよいよ、レイラが氷晶宮の主として就任する日がやってきた。
「ふゆっ……ここが、氷晶宮……」
普段とは違い、濃紺のドレスを身に纏ったレイラは、その建物を前に目を丸くする。
古ぼけた石造りの建物であるそこは、最低限の手入れ以外、何も施していないような場所だった。建物の大きさこそ、数百人を収容できるほどの三階建ではあるものの、実際、建物の前に立っても、そこがとても静かなのが分かる。
城の敷地面積のギリギリの場所に間隔を空けて配置されるそれぞれの宮。炎、水、風、大地を司る宮には、それなりの人員の行き来があり、賑やかだ。対して、雷、氷に関しては使い手そのものがあまりにも少ないという事情で、一応は主となる者がいるにしても、それ以外のメンバーというのはほとんど居ない。そして……。
「フィー、案内の人、来ないね?」
「えぇ、そうですね」
この氷晶宮にも、仮の主として勤めていた者が居る。そして、その補佐の人間も当然ながら存在していて、二人がレイラを氷晶宮の中に案内する手筈だったのだ。
「うふふ、これは、必ず見つけ出さなければなりませんね?」
氷の属性魔法は持っていないはずのフィスカだが、今は、その体から冷気を放っているように見えた。
「ふゆ……夜逃げ?」
「そのようです。では、愚か者のことは忘れて、中をわたくしが案内しましょう」
本来は、レイラを二人に引き渡して、その後は仕事に戻るはずだったフィスカ。しかし、案内役であったはずの者が揃って出てこないとなれば、レイラを案内する役目はフィスカが請け負うしかない。
「フィー、でも、お仕事が……」
「心配無用です。レイラのおかげで、随分とはかどっていますからね」
レイラに力の行使の許可を与えてから、レイラは堂々とシェラ達の手伝いに参加した。すると、あれほど大量だった仕事の山が、どんどん減っていったのだ。
「さぁ、行きましょうか。……ついでに、修繕箇所も大きなものを確認しておきましょう」
そこそこに古ぼけた建物を前に、フィスカはその心配をどうしても取り去れなかったらしく、ついつい口にしてしまったらしい。
「ふゆ……ある程度なら、私も修繕、できるの!」
とはいえ、実際に中に入ってみないことには分からない。そういうわけで、フィスカとレイラは建物の中に足を踏み入れた。
「だいたい、どこの宮も同じですが、一階には食堂や休憩スペースが設けられています。本来ならばここにも料理人を配置するはずなのですが、今までは二人だけだったこともあり、料理人までは雇っていなかったようですね」
整えられてはいるものの、長く使っていなさそうなキッチンを見て、フィスカはそう説明する。
「休憩スペースには、ベッドもお風呂も完備してあります。状態も悪くはなさそうですし、レイラも好きに使って良いですよ」
休憩スペースそのものは、シンプルながらもソファがあったり、ベッドがあったりととてものんびりできそうではある。
そうして、フィスカは二階へとレイラを連れていく。
「二階は、主に事務仕事のための場所ですね。……あぁ、やりかけの仕事を残してくれていますね。やはり、早急に見つけ出してシメなければ……。分からない内容があれば、いつでも聞きに来てくださいね。わたくしでも、シェラでも、マディンでも、この三人ならば、ある程度は答えられますので」
「ふゆっ、分かったの!」
事務スペースや、給湯室などを回ったレイラとフィスカは、最後に三階へと上がる。
「ここが、氷晶宮の核の部分です。中心に浮かぶ球体や、それ以外の小さな球体に氷属性の魔力を込めてください。球体が輝けば、たっぷりと魔力が籠もった証拠ですが、今まで、氷晶宮や雷晶宮の核が輝いたことはないので、気楽にやってくれて構いません」
「ふゆ……今、やってみても良い?」
「えぇ、もちろんです」
三階に広がるのは、いくつもの黒に近い色合いの球体がバラバラに、ちょうど、レイラの腰くらいの高さに浮かぶ世界だった。
それぞれの球体の大きさは、中央のものが一段と大きく、大きなスイカ玉くらいはある。それ以外はマチマチの大きさで、一番小さいものならビー玉サイズだ。
レイラはその中で、中央の球体に近づくと、その球体に手を当てる。
「氷の、魔力……」
次の瞬間、凄まじい魔力がレイラから発せられた。




