第四十六話
「待ってくださいシェラっ。それは、レイラがどんなことにも、その力を使える許可になるのですよ!?」
そう告げるのはフィスカ。フィスカとて、レイラがその力を悪用するとは考えていないのだろうが、それでも、懸念は存在する。
「フィー……」
「フィスカ、そのくらいは分かっているわ。分かった上で、レイラを信頼しているのよ」
レイラのうさ耳が垂れ下がると同時に、シェラはフィスカへとその決意を告げる。
「……では、レイラに聞きます。もし、レイラがシェラの敵を見つけた場合、どうしますか?」
その質問は、レイラがシェラのことをあまりにも盲目なまでに崇拝しているように見えたから行われたものなのだろう。
シェラが王として、再び舞台の上に上がったあの日、宝剣がシェラの元からレイラの側へ向かい、レイラが凄まじい豹変を見せたことは、まだフィスカの記憶に新しいのだろう。
フィスカを止めようとしていたパーシー達も、そんなフィスカの質問を聞けば、その出来事を思い出したのか、そのまま動きを止める。
「ふゆ……まずは、色々調べるの」
そんな様子に気づいているのかいないのか、レイラはじっと考えながら答えていく。
「それで、お姉ちゃんに敵対する理由次第では、弱みを見つけて、攻撃手段にできるように整えるの」
その辺りの仕事は、パーシーが担うタイプの仕事だ。そして、手順そのものも大きく間違ってはいない。
「その次は、その罪に見合った破滅をプレゼントするために、色々な環境を整えてあげるの」
「え?」
「レ、レイラ……?」
と、ここで、何やら雲行きが怪しくなり始める。
シェラとパーシーだけが言葉をかろうじて発して、後の面々はただただ息を呑む。
「その時々によって差はあるだろうけど、どうしても殺さなきゃならない場合を除いては、じっくり、ジリジリ、追い詰めて、追い詰めて、心の底からお姉ちゃんに敵対したことを後悔させて、惨めに、屈辱に塗れたまま生きてもらうのっ」
『じっくりジリジリ』ではなく、『じっくりジワジワ』だというツッコミは誰もしない。
なぜなら……炎の属性魔力をユラリと放出するレイラを見て、誰もが確信したからだ。
『『『炙るつもりだっ! 物理的にっ!!』』』
それと同時に、フィスカはハッと何かに思い至ったのか、ニコニコ笑うレイラへと質問する。
「レイラ、まさか、もう、実行してるなんてことは……?」
「ふゆ? まだ、してないのっ」
「そ、そう、ですか……」
『まだ』ということは、今後その予定があるということでもあるが、そこを言及する者は誰も居なかった。
「だいじょーぶなの! 悪用は絶対しないし、痕跡だって残さないの! 証拠隠滅を徹底的にして、ちゃんと破滅に導いてみせるのっ!」
懸命に宣言するレイラではあるが、それにまともに答えられる者は誰も居ない。
「……シェラ……」
「わ、私のせいじゃないわよ!?」
レイラの言葉に固まるフィスカに代わって、マディンがシェラへ批難の眼差しを向けるが、シェラは必死に否定する。
「シェラ……」
「パーシーまで!? 違うわよ!? 私、こんな教育はしていないわっ!!」
涙目のパーシーの視線に、シェラは懸命に首を横に振る。
「…………」
「……アシュレー? 本当に、違うから、その疑うような目は止めてもらえないかしら?」
もはやシェラ自身が涙目になりつつ、レイラにこんな物騒な教えを施した覚えはないも否定する。
「ふゆっ! だいじょーぶなの! お姉ちゃんのために、ちゃんと頑張るの!」
「レイラ!? 今のタイミングでそれは止めて!?」
「ふゆ??」
一斉に批難の視線がシェラに集中する中、レイラだけが何も分かっていない様子で首をかしげる。
「ふゆっ! だいじょーぶなの! お姉ちゃんだけじゃなくて、皆に敵対の意思を持ってる人達、全部把握してるの! 何も、問題ないの!」
最後の最後に爆弾を落としたレイラ。その言葉で、室内は完全に固まることとなった。




