第四十三話
一時的にモナをレイラから借りてきたパーシーは、現状をモナに説明する。
「レイラが、っすか!? ……すみませんっす、全然、気づかなかったっす……」
話すうちにどんどん青ざめたモナは、本当に気づいていなかったらしく、シェラ達を前に平謝りすることとなる。
「モナ、分からなかったじゃあ済まされないぞ?」
「はいっす。すみませんっすっ」
厳しくモナへ告げるパーシーに、モナはガバッと頭を下げて謝罪する。
「具体的に、レイラから目を離した瞬間はあるのか?」
「はいっす。お互いのお手洗いの際は、流石に見ているわけにはいかなくて、その時だけは、目を離してるっす」
その答えに、何とも言えない沈黙が流れる。
「……つまりは、その程度の、ごく僅かな時間だけで、レイラはあれだけの行動をした、ということですか……」
フィスカの言葉に、その場の誰もが渋い顔になる。
確かに、レイラが何かを渡したり、報告したりだけであるならば、さほど時間は必要ない。ただし、本を探したり、植物の状況を確認したり、模擬剣の在庫状況を調べたり、紅茶を淹れたり、なんてことは、その程度の時間でどうにかなるものではなかった。
「移動は、転移か……? けど、他はどうやって……?」
モナに厳しい対応を取ろうとしていたパーシーも、具体的にレイラがいかにしっかり見張られているのかを理解して、レイラの能力に頭を悩ませる。
「協力者でも、居るのかしら?」
あまりにも不可解なレイラの行動。シェラがそんな結論を出すのは無理もないことだった。
「モナ、レイラがここ最近、ここに居るメンバー以外で仲良くなった相手は居るか?」
「あっしが知る限りでは、前回の調査隊メンバーとベル様以外に、レイラの親しい相手なんて居ないはずっす」
「だよなぁ」
しかし、シェラの予測も、レイラの状態を知っていれば違うと分かることだった。
「そもそも、レイラを知らない者は、レイラに近づこうとは思わない。知っていても、シェラの妹としての身分とキメラという点から、近づくのは難しいだろう」
アシュレーの的確な指摘によって、完全にその可能性は潰えた。
「そうなると、残す可能性は……魔法、とか……?」
最後の最後に残った可能性。それは、レイラの規格外の魔法を知るからこその予測。
「いやいやいや、いくら何でも、レイラにそんな魔法は使えないっすよ……………ね?」
モナ以外、マディンの言葉に反論する者は居ない。レイラの魔法はこれまで、シェラとの魂分離と、亀の撃退、ネズミによる偵察というものがあった。もちろん、モナはネズミと、それ以外の『万能金庫』の魔法と見ているのだが、モナからすると、それは既存の魔術の応用に見えるもので、そこまで強烈な意識があるものではなかったのだろう。
「……レイラに、聞くべきかしらね?」
「そう、ですね。レイラがどうやったのかは分かりませんが、内容によっては注意も必要でしょうし」
「危険なことをしてなければ良いんだけどね」
「レイラならやりかねない……」
「む、話を聞かなければ、何も分からないだろう」
一様に、悩むシェラ達は、どうあってもレイラから話を聞かなければならないという結論に達したようだった。
そうして、今度はレイラが、パーシーに連れられて執務室へ向かうこととなった。




