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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第三章 レイラ
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第三十九話

 レイラは、この世界ではキメラとして恐れられる存在だ。そして、国内の戦力が一箇所に集まるこのバルスフェルト城は、レイラにとって危険な場所であることも事実。たとえ、シェラの妹という身分が保証されようと、氷晶宮の主という役職を与えられようと、レイラがキメラである限り、憎しみは向けられ続けるに違いなかった。



「……無理だとは分かっていたのよ。レイラが望むわけがないって……。でも、レイラがここから逃げたいと願うなら、逃げられるようにしてあげたかった」



 レイラにとって、外に出ることは危険ばかりではない。むしろ、外であるからこそ安全だということもあるのだと、シェラはよくよく理解していた。

 当の本人はとにかくシェラのためにと動いており、全く逃げることなど考えてはいなかったようだが、フィスカ達にとっては現実の重さを実感することとなる話だ。



「……パーシーには、この話は?」



 重い沈黙の中、アシュレーがそっと問う。

 レイラのために、シェラに逆らってまで動こうとしていたパーシー。一度は命令に従って城へ帰還したものの、すぐにでも捜索隊をとシェラに訴えていたパーシーは、どんなことがあってもレイラの味方でいるであろう貴重な存在だ。



「……今はまだ、するつもりはないわ。時と場合によっては、パーシーにはレイラを連れて逃げてもらうことになるかもしれないけど、ね……」



 できる限りの牽制はしている。とはいえ、その程度でレイラの身の安全が保証されることはないのだ。

 本当に、レイラに深刻な危険が迫った場合、パーシーの存在は、シェラにとってとても大きなものだった。たとえ、自分と対立したとしても、嫌われたとしても、レイラを守ってもらえるならそれで良い。そんな考えに、誰もが反論できないらしく、口籠る。



「さっ、暗い話はお終いよ。それより、そろそろこっちに顔を出さないパーシーを呼びつけるとしましょう!」


「っ、えぇ、そうですね。では、レイラも一緒に、報告をしてもらいましょうね」



 本来、まだまだ仕事は山積みで、こんなところで落ち込んでいる場合ではないが、ひとまずは対面して報告を受けることを優先したらしい。



「なら、僕達も同席するよ」


「む、そうだな」



 報告を受けるのはシェラだけで十分ではあったが、マディンやアシュレーも嬉々として同席しようとする。フィスカもシェラの補佐として、シェラの側から離れるわけにはいかないため、実質、王と将全員の前での報告会ということになる。これがレイラ以外の者であれば、完全に萎縮するであろう状況だ。



「今、念話をしておいたから、すぐに来ると思うわ」



 そんな会話をして、しばらくも経たないうちに、執務室の扉がノックされる。



「入って」


「あぁ……っ……」


「ふゆっ! お姉ちゃん! 皆もっ!」



 入ってきたのは、当然ながらパーシーとレイラだ。

 パーシーは、扉を開けた途端、そこにシェラとフィスカのみならずマディンやアシュレーまで居ることに警戒を示すが、レイラはただただ、大好きな人達が皆揃っているということに喜ぶ。



「パーシー、レイラ、無事で何よりよ。レイラは、本当に、怪我はないのかしら?」


「ふゆっ! だいじょーぶなの!」



 レイラはすでに着替えを済ませており、普段から良く着ている花柄のワンピース姿だ。当然、血の跡も残ってはいない。


 レイラの元気の良い返事に、ホッと息を吐いたシェラ達は、そこから、パーシーとレイラに報告を求める。そして……。



「……レイラ、キメラが、人間を材料に作られている、というのは……?」



 悪魔が用意した小屋があったことや、森林破壊をしてしまったものの、再生させたという方法やら、きっと聞きたいことは様々だったのだろうが、パーシーの報告でまずは、その内容を問いただす。



「ふゆっ、キメラは、人間と、他の動物や魔物を組み合わせて作った兵器なの。普通のキメラは、作り替えられる過程で自我を失っちゃうんだけど、たまに、私みたいに、自我を持ったままのキメラも存在するのっ」



 前半の内容はパーシーも聞いていたことだったが、後半の内容は初耳だ。しかも、かなりの重要事項でもある。



「っ……ではっ、今までに、自我を持ったままのキメラを、わたくし達が討伐してしまったかもしれない、ということですか?」



 青ざめながら問うフィスカ。フィスカ自身は、シェラの魂が行方知れずとなってから、城に縛りつけられる形で、直接討伐に参加することはなかった。しかし、それを命じたのはフィスカ自身でもある。



「ふゆ……あの、ね。自我を持ったキメラは、その、悪魔にとっては、面白いものみたいで、自我が壊れるようなことを命じることは多かったの……。だから、もし、討伐してたのだとしても、それは、その人にとって救いだったはずなの」



 具体的な内容を濁すレイラ。しかし、それがどういう意味なのか察せない者は、この場には居なかった。

 自我が壊れるような命令。それはすなわち、自らの手で、大切な者を害することだったのだろうから……。



「自我を保ったままのキメラで、私が知ってるのは、アイラ村のカルティナ、レング街のドルック、バズ村のリディアの三に「リディア!?」ふゆっ!? マディン??」



 フィスカの目から逃れるようにして、情報を吐き出していたレイラは、突如として叫んだマディンにビクッとうさ耳を跳ね上げる。



「バズ村といえば、マディンの故郷に近い場所、ですね」



 そんなフィスカの言葉に、マディンは呆然と応える。



「リディアは、僕の故郷のロウグってやつと婚約してた女の子だ……」



 その瞬間、レイラとパーシーは顔を見合わせた。

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