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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第三章 レイラ
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第三十八話

「シェラ、いい機会ですので、洗い浚い吐いてください。レイラが元々どういった性格で、どういった立場で、あなたとどういう関係を築いていたのかっ」



 硬直から解けたフィスカは、恐ろしく据わった目でシェラへと問いただす。



「レイラは、元々お姉ちゃんっ子だったわね。それで、お姉ちゃんみたいになりたいからと、私に戦いの指導を頼んだのだと、言葉が通じるようになって聞かされたわ。立場は……『ジンジャ』というものの後継者らしかったわね。お姉ちゃんと一緒に後継者になるんだと言っていたけど、その辺りは結構複雑だったみたいよ」


「シェラ、その『ジンジャ』っていうのは何なんだい? さっきも、『ジンジャノミコ』とか言ってたけど……」



 考え込むように告げたマディンに、シェラは一つうなずく。



「『ジンジャ』っていうのは、神を祀る場所らしいわ。近いもので言うと教会だけど、レイラは『マヲハラウ』仕事が大きく違うって言っていたわね」


「『マヲハラウ』??」


「レイラの世界には、人に取り憑く……いわば、幽霊の存在が確立されているみたいで、その中でも人に害をもたらすものを『マ』と呼んでいたわ。そして、その『マ』を討伐する力が、その『ジンジャ』に属する人間に必要なものだったみたい」



 そんなシェラの説明に、アシュレーはチラリと扉の方へと視線を向ける。

 パーシーは、まだレイラを連れて帰ってから、こちらには合流していない。しかし、幽霊の話となると怯えるパーシーに、この話を聞かせるのは大変なことかもしれなかった。



「幽霊を、討伐、ですか……。では、レイラの世界では、何か、幽霊に作用する力があった、ということなのでしょうか?」


「そうね。一応、それはあるみたいだけど、取り憑いた幽霊が人間を動かしてしまうから、レイラが戦うのは人間相手という形になることが多かったみたい。……だから、情報収集能力が突出したのもあるのかもしれないわね」



 幽霊と戦う世界など、フィスカ達にとっては物語の世界でしかない。実際、レイラと共存していたはずのシェラでさえその戦いを目にしたことはなく、それがどんなものなのか、正確には掴めていないようだった。



「レイラは、どちらかというと姉のサポート役だったみたいで、姉の方が強いと称賛してはいたけど、レイラ自身も十分に強くて、それでもまだまだ未熟だと、姉にも母親にも敵わないと話すのを見ていたら、随分と危険な世界だったんじゃないかとは思っているわ」



 その予測が正確なものかどうか、今となっては誰にも分からない。しかし、そうなると、レイラが強いというシェラの言葉も、だんだんと確かなものに見えてくる。



「それと、私との関係は、師匠と弟子であり、寄生虫と宿主の関係でもある、という形かしら? 一応、『シェラお姉ちゃん』と言って慕ってはくれていたけど、一番は自分の本当の姉のようだったわ。……今では、きっと記憶を失った影響で、その『お姉ちゃん』の座に私が当てはめられているみたいだけど」



 かつて、シェラはパーシーから『シェラがレイラの言う『お姉ちゃん』だったのか!?』と問いかけられて、確かにこう言った。『……最初は違ったはずだけれど、最近は、そう、だったわね』と。

 それはつまり、レイラの記憶が本格的に失われて、それを補うために、シェラという存在が入り込んだということでもあったのだろう。


 シェラの、レイラに関する情報を聞いたフィスカ達は、それぞれに思うことがあるのか、完全に沈黙する。



「……きっと、この世界に戻ってきたのは、私がレイラの中に居たから。そして、そのせいでレイラが酷い目に遭ったというなら、私は、レイラが失った全ての代わりに、レイラを幸せにしたいと、そう、思うのよ」



 シェラは、とにかくレイラに甘い。そして、レイラを幸せにするために必要なことは、率先してやろうとしてきた。それは、シェラ自身の自責の念からくるものでもあったのだと、今、この場の全員が理解する。

 当然、フィスカ達とて、レイラは可愛い。シェラもパーシーもベルも、レイラが救ってくれたのだから。しかし、それでも国と天秤にかけた時、少なくともフィスカとアシュレーは国を選択するだろう。マディンは、ベルの恩人ということもあって手が出せなくなるかもしれないが、かといって、手を貸すかどうかも分からない。

 いくら助けられたからとはいえ、レイラを溺愛していたシェラの姿は、冷静な目で見れば不可解なものだったのかもしれない。そこに、シェラが負う罪の意識が加わって、ようやく、その行動の意味が、その輪郭が、見え始めた。



「……レイラを調査隊に加えたのは、レイラを逃がすためでもあったのですね」



 だから、フィスカのその確認の言葉に、シェラは、小さく、小さくうなずいていた。

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