第二十八話
レイラが悪魔の発見を告げた直後、レイラが顔を向けた方向から爆発音が起こる。
「っ、こんなに早く!?」
「ふゆっ、悪魔は一体。でも、すばしっこいから、このままじゃ逃げられちゃうのっ!」
「っ、分かった! 全員っ、悪魔の討伐に向かうぞ!」
「「「おうっ!!」」」
ネズミと視覚や聴覚を共有することが可能なレイラの言葉で、パーシーはすぐに指示を出して動く。静かに、素早く、爆発音が発生した場所へと向かうパーシー達。レイラも地面を走って、遅れることなく彼らへと続く。そして……。
「ぐっ、何なのですかな? このネズミどもはっ」
見えてきた悪魔は、ヒョロリと長い背格好の者だった。
悪魔。それは、人の形はしているものの、全身に黒い紋様を浮かべた異形。彼らは総じて紫の瞳を持ち、身体的にも、魔力的にも戦闘に長けた存在だ。そして……。
「っ、レイラ!?」
「っ、キメラですと!?」
キメラを生み出した、罪深い存在。
「殺す」
低く呟かれたのは、本当に、あのレイラの声だったのか。あまりにも濃厚な殺意を瞳に宿して悪魔へと突進するレイラを前に、調査隊メンバーは思わず息を呑む。
「ふふっ、そちらから出てきてくれるとは好都ゴフゥア!!?!」
レイラの拳は、綺麗にネズミに集られている悪魔の頬に命中する。
拳一つでボーの群れを撃退するレイラ。そのレイラが本気で振り翳したであろう拳は、きっとどこに当たっても致命傷となる。
木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ悪魔を見て、誰も悪魔が生きているなどとは思わなかった。
「レイラ! 危ないだろう! この調査隊に居る以上、勝手な行動はするな!」
「っ、ふゆ? パーシー……? あれ? 私、今、何を……?」
ひとまずは、レイラに注意をと声をあげたパーシーだったが、レイラの様子がおかしいことにすぐに気づく。それは当然、他の調査隊メンバーも同じだった。
「レイラ? 大丈夫っすか? さっきのこと、覚えてるっすか?」
「さっき……? えっと、悪魔の居場所を突き止めるために、ネズミを放って、それから、悪魔を見つけた合図が聞こえて走って…………ふゆ?」
悪魔と対峙した時、レイラのトラウマが蘇るかもしれないという危惧はあった。しかし、悪魔の存在を確認した瞬間、反射的に殺意全開で殺しにかかるなどというのは予想外であり、しかも、それを覚えていないというのも悩みどころだった。
覚えていない、ということは、それがレイラの精神にあまりにも大きな負担だから、という理由が考えられる。そうなると、パーシーも無闇に刺激するわけにはいかない。
「ふゆ……パーシー、私、何があったの……?」
不安そうに尋ねるレイラ。それに、何と答えようかと悩んでいる様子だったパーシーは、その前にソレに気づく。
「レイラ!」
「っ!!?」
レイラへ向けて放たれた何か。死んだだろうと思っていた悪魔のものか、はたまた、他にも敵が居るのかは分からないが、それから守るために、パーシーはレイラの前に出て、それを魔力を纏わせた短剣で切り捨てる。
「い、今の、は……」
「レイラ。気を確かにして聞いてくれ。今、あたし達は悪魔との戦闘中だ」
本当は、その戦闘はレイラが終わらせたと誰もが思っていたのだが、攻撃が来た事実を考えれば、まだ悪魔は生きているか、別の敵が居ると考えた方が良い。
「戦闘……私……」
「レイラは休んでるっすよ」
「俺達にも見せ場を譲ってくれや」
「そうですぜ。今回は、おいら達が活躍する番です」
「心配せずとも、守るすから」
震えるレイラを見て、前に出てくるのはモナ達だ。
「皆……」
弱りきった瞳を向けるレイラへ、モナ達は笑顔でうなずく。
「ずっとレイラに任せっきりだったっすからねっ。あっし達も働かないと、給料泥棒って言われるっす」
「ふゆ……」
モナはパーシーと同じく短剣を、ダモンは戦斧を、アレイルは円月輪を、ガットはクロスボウを手にして、敵の様子を伺う。
「く、くふふ、あぁ、先程のは随分と、強烈でしたな?」
ヒョロリとした影は、ユラリと立ち上がって、レイラの拳によって陥没した顔で笑う。
不思議と、血は一滴も流れていない様子で、元々そういう形だったかのように変形した顔。それを向けられたレイラはというと……。
「ふゆぅっ!?」
まるで、オバケにでも遭遇したかのように怯えを見せていた。
いや、確かに、ランランと光る目でニタァと笑う悪魔は、下手なオバケより怖いに違いない。
「鬱陶しいネズミも居なくなったことですし、次は、こちらから、ですな?」
何の魔術なのか、黒い球体を浮かべた悪魔を前に、パーシーは、凄まじい速度で悪魔へ迫り、短剣を振り抜いた。




