第二十五話
「守れ、なかった……。私、全然、何もできなかったの。ただ、終わらせることしか、できなかったのっ……」
胸の内に抱えた後悔をさらけ出すレイラ。
誰もが沈黙する中、最初に動いたのはパーシーだった。
「レイラ。あたしは、そのロウグってやつのことは知らないけど、そいつの意識は、ちゃんと、キメラの状態になっても残ってたのか?」
そう問われて、レイラは首を横に振る。
様々な衝撃的な発言もあったが、今は、レイラの精神をなだめることを優先したらしいパーシーは、そっとレイラの頭を撫でる。
「残酷なようだけど、時には、終わらせることが大切なことだってある。きっと、コイツだって、そう望んでただろうよ」
「……ふゆ……」
まだ、そんな言葉で納得ができるほど、その心は成長していないだろうに、レイラは、苦しそうにしながらも、それを呑み込んでみせる。
「……とにかく、私、この人を知ってて、この人が、悪魔の命令で動くキメラになってて、幻術を得意とすることも知ってるの」
「っ、そうか、攻撃が見えなかったのは、幻術かっ」
あれほどまでに強力な攻撃を、パーシー達は誰も認識できていなかった。どこかの段階で幻術にかかったことは確かだ。レイラはキメラとしての能力か、はたまた恐ろしいまでの魔力によるものか、完全には幻術にかからなかったのだろう。
(そういえば、フィスカの幻術を見抜いてた節もある、か……)
「ふゆっ、そうだけど、そうじゃないの! この人は、悪魔の命令で動いてるはずなのっ!」
着眼点が違うと主張するレイラに、全員がその意味を理解して周囲への警戒をいっそう強める。
「つまり、悪魔の関与が、コイツの存在だけで明らかになったってわけか」
「そうなの! 確か、キメラの中には単独で動いちゃうものも居るんでしょう? けど、この人は、命令通りにしか動けないはずなの……」
「お頭ぁ、悪魔が背後に居るのは分かったが、今のままじゃあ、それを証明する手立てがない」
「分かってる。だから、これからはあたし達の腕の見せ所だ」
レイラの証言によって、悪魔が関与していることは確実となった。しかし、レイラの証言だけでは、客観的に見た場合、何の証拠にもならない。
「全員聞け! 今のあたし達には、このまま尻尾を巻いて逃げ帰るか、調査を続けて悪魔を討伐する機会を狙うかの二つの選択肢がある! 体勢を整えたいなら、逃げるのも手だ。だが、幸いにも、あたし達の消耗は少ない。ここは、調査を続行しようと思うが、異論のある者は居るか?」
「やってやるっす! レイラを傷つけたやつなんか、あっしがけちょんけちょんにするっすよ!!」
「おうっ! 俺も、こんなちっちゃいやつに負けてられないからな」
「おいらも当然、ついていきますぜっ!」
「見せ場がないのは困るすよ」
調査隊のメンバーは、全員が賛成の意向を示していく。そして、レイラも……。
「ふゆっ、私も頑張るの! 悪魔の狙いは分からないけど、様子見じゃない限り、罠が一つで終わるとも思えないのっ! いっぱい頑張って、無念を晴らすの!!」
やたらと気合を入れたレイラの体からは、黄金の魔力が迸っている。しかも、その瞳も瑠璃色から黄金へと変わっている。
「よしっ、それじゃあ、もうしばらくの休憩を挟んで出発する!」
「「「おう!!」」」
「おーっ、なの!」
すぐに出発するわけじゃないと分かったからなのか、レイラの魔力は霧散して、瞳の色も元に戻る。
「レイラは話があるから、こっちに来てくれ」
「ふゆっ、分かったの!」
真剣な面持ちでうなずいたレイラに、パーシーは苦笑しながら休憩を命じる。そして、パーシーのところへ向かったレイラは……。
「ふゆ!? パーシー?」
「あー、癒やされるー」
パーシーに抱き締められて、頭を撫で撫でされていた。
「パーシー、あの、お話は……?」
「ん? あぁ、あれは、レイラを独占したいだけの方便だ」
「ふゆ!?」
驚いたような表情を浮かべたレイラに、パーシーはニヤリと笑う。
「レイラも、リラックス、リラックス」
「ふ、ふゆ、でも、悪魔が居るかもしれなくて、警戒しなきゃいけなくて」
「それは、他の連中に任せとけ。今のレイラは、ちゃんと休むのが仕事だ」
「ふ、ふゆ??」
よく分かっていない様子のレイラに、パーシーはポンポンと頭を撫でてやる。
「だいぶ、体に力が入ってる。不安なのは分かるけど、ここにはレイラだけが居るわけじゃないんだ。仲間と一緒に戦えるんだから、そこまで気負う必要はないぞ」
「仲間……」
「そうだ。頼って、頼られる仲間だ。だから、今は頑張ったレイラが頼る番なんだ」
「頼る、番……」
呆然とパーシーの言葉をオウム返しにするレイラ。しかし、徐々にその意味を理解したのか、パーシーに頭を撫でられているうちに、余計な力も抜けていく。
「ふゆ……分かったの。その、まだ上手くできるとは思わないけど、パーシーの言葉、ちゃんと、分かったの」
「間違った時は、あたしも、他のやつらも教えてくれる。だから、ゆっくりでも良いから、頼ることを覚えような」
「ふゆっ」
それから、レイラの余計な力が完全に抜けた頃、パーシーは休憩終了を言い渡していた。




