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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第三章 レイラ
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第二十五話

「守れ、なかった……。私、全然、何もできなかったの。ただ、終わらせることしか、できなかったのっ……」



 胸の内に抱えた後悔をさらけ出すレイラ。

 誰もが沈黙する中、最初に動いたのはパーシーだった。



「レイラ。あたしは、そのロウグってやつのことは知らないけど、そいつの意識は、ちゃんと、キメラの状態になっても残ってたのか?」



 そう問われて、レイラは首を横に振る。

 様々な衝撃的な発言もあったが、今は、レイラの精神をなだめることを優先したらしいパーシーは、そっとレイラの頭を撫でる。



「残酷なようだけど、時には、終わらせることが大切なことだってある。きっと、コイツだって、そう望んでただろうよ」


「……ふゆ……」



 まだ、そんな言葉で納得ができるほど、その心は成長していないだろうに、レイラは、苦しそうにしながらも、それを呑み込んでみせる。



「……とにかく、私、この人を知ってて、この人が、悪魔の命令で動くキメラになってて、幻術を得意とすることも知ってるの」


「っ、そうか、攻撃が見えなかったのは、幻術かっ」



 あれほどまでに強力な攻撃を、パーシー達は誰も認識できていなかった。どこかの段階で幻術にかかったことは確かだ。レイラはキメラとしての能力か、はたまた恐ろしいまでの魔力によるものか、完全には幻術にかからなかったのだろう。



(そういえば、フィスカの幻術を見抜いてた節もある、か……)


「ふゆっ、そうだけど、そうじゃないの! この人は、悪魔の命令で動いてるはずなのっ!」



 着眼点が違うと主張するレイラに、全員がその意味を理解して周囲への警戒をいっそう強める。



「つまり、悪魔の関与が、コイツの存在だけで明らかになったってわけか」


「そうなの! 確か、キメラの中には単独で動いちゃうものも居るんでしょう? けど、この人は、命令通りにしか動けないはずなの……」


「お頭ぁ、悪魔が背後に居るのは分かったが、今のままじゃあ、それを証明する手立てがない」


「分かってる。だから、これからはあたし達の腕の見せ所だ」



 レイラの証言によって、悪魔が関与していることは確実となった。しかし、レイラの証言だけでは、客観的に見た場合、何の証拠にもならない。



「全員聞け! 今のあたし達には、このまま尻尾を巻いて逃げ帰るか、調査を続けて悪魔を討伐する機会を狙うかの二つの選択肢がある! 体勢を整えたいなら、逃げるのも手だ。だが、幸いにも、あたし達の消耗は少ない。ここは、調査を続行しようと思うが、異論のある者は居るか?」


「やってやるっす! レイラを傷つけたやつなんか、あっしがけちょんけちょんにするっすよ!!」


「おうっ! 俺も、こんなちっちゃいやつに負けてられないからな」


「おいらも当然、ついていきますぜっ!」


「見せ場がないのは困るすよ」



 調査隊のメンバーは、全員が賛成の意向を示していく。そして、レイラも……。



「ふゆっ、私も頑張るの! 悪魔の狙いは分からないけど、様子見じゃない限り、罠が一つで終わるとも思えないのっ! いっぱい頑張って、無念を晴らすの!!」



 やたらと気合を入れたレイラの体からは、黄金の魔力が迸っている。しかも、その瞳も瑠璃色から黄金へと変わっている。



「よしっ、それじゃあ、もうしばらくの休憩を挟んで出発する!」


「「「おう!!」」」


「おーっ、なの!」



 すぐに出発するわけじゃないと分かったからなのか、レイラの魔力は霧散して、瞳の色も元に戻る。



「レイラは話があるから、こっちに来てくれ」


「ふゆっ、分かったの!」



 真剣な面持ちでうなずいたレイラに、パーシーは苦笑しながら休憩を命じる。そして、パーシーのところへ向かったレイラは……。



「ふゆ!? パーシー?」


「あー、癒やされるー」



 パーシーに抱き締められて、頭を撫で撫でされていた。



「パーシー、あの、お話は……?」


「ん? あぁ、あれは、レイラを独占したいだけの方便だ」


「ふゆ!?」



 驚いたような表情を浮かべたレイラに、パーシーはニヤリと笑う。



「レイラも、リラックス、リラックス」


「ふ、ふゆ、でも、悪魔が居るかもしれなくて、警戒しなきゃいけなくて」


「それは、他の連中に任せとけ。今のレイラは、ちゃんと休むのが仕事だ」


「ふ、ふゆ??」



 よく分かっていない様子のレイラに、パーシーはポンポンと頭を撫でてやる。



「だいぶ、体に力が入ってる。不安なのは分かるけど、ここにはレイラだけが居るわけじゃないんだ。仲間と一緒に戦えるんだから、そこまで気負う必要はないぞ」


「仲間……」


「そうだ。頼って、頼られる仲間だ。だから、今は頑張ったレイラが頼る番なんだ」


「頼る、番……」



 呆然とパーシーの言葉をオウム返しにするレイラ。しかし、徐々にその意味を理解したのか、パーシーに頭を撫でられているうちに、余計な力も抜けていく。



「ふゆ……分かったの。その、まだ上手くできるとは思わないけど、パーシーの言葉、ちゃんと、分かったの」


「間違った時は、あたしも、他のやつらも教えてくれる。だから、ゆっくりでも良いから、頼ることを覚えような」


「ふゆっ」



 それから、レイラの余計な力が完全に抜けた頃、パーシーは休憩終了を言い渡していた。

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