第八話
外は快晴。新たに新調したレイラのワンピースは、フリルたっぷりのものだ。淡い水色のそれを纏ったレイラは、パーシーをこの城に連れてきて以来、一度もまともに出ることのなかった外へと、踏み出していた。
「ふゆぅぅうっ! お外なのっ!」
「あぁ、そうだよな。レイラにとっては久々だもんな」
ともすれば、喜びのままに飛びそうなレイラの手をしっかりと繋いだパーシーは、そのまま目的の建物へと向かう。
シェラの許可によって使用可能になった訓練所は、このバルスフェルト城の敷地内で、離れた場所に設けられた施設だ。
バルスフェルト城の本城の西隣に中央棟、その更に西に西棟、中央棟から見て北と南にそれぞれ北棟と南棟が存在する。それならば、東側には何もないのかと言えば、そうでもない。東側には、訓練所が三つと、個人訓練施設が一つ建っている。全体の敷地面積で言えば、この東側の施設だけで五分の三くらいは取っている状態だった。
「パーシー、第三訓練所って、どんなところなの?」
「んー、あたしも、あまりあそこに行ったことはないけど、訓練所っていうより、ジャングル……?」
「ジャングル??」
「まぁ、行ってみれば分かるさ。それぞれの訓練所の中で、一番大きな訓練所でもあるからさ」
その大きな訓練所を、今回はレイラのために貸し切りにしている。しかし、第三訓練所そのものは広いのと特殊な環境故に、そうそう多くの利用申請があるわけでもない。年に数回、大規模訓練を行う時くらいしか使用されないため、レイラの貸し切りも全く問題はなかった。
「ふゆっ、楽しみなの! それなら、魔力検査ってどうやるの?」
今回の一番の目的は、レイラの魔力検査だ。本来は、シェラの元へ申請があったように、五歳を迎える子供が団体で受けるものであり、そこで将来的な素質を見定め、能力の高い人材に目をつけるというものでもある。しかし、成長するに従って、その魔力量には必ず変化が現れるし、稀に属性が増える者とて存在する。そのため、民間でも気軽に申請して検査を行うことは可能だ。
「そういやぁ、説明してなかったな。後で見せるけど、このくらいの水晶型の魔導具に魔力を流すだけで、属性とか、魔力量が分かるんだ」
ここでも出てきた魔導具は、やはり貴重なものだ。ただし、この水晶型の魔導具は、本体の場所が分からないという厄介な特徴がある。というのも、同じ水晶型の魔導具は、それこそ百を超える数が存在しているのだ。その能力も同じで、全てを魔導具と呼んではいるものの、オリジナルがどれか、というのは誰も知らない。珍しく民間にも普及している魔導具であり、民間での魔力検査で活躍しているはずだった。
バスケットボールくらいのサイズを手で示しながら説明するパーシーは、そこから更にその水晶型魔導具の様子を説明する。
「魔力を流すと、一つか二つの色がその水晶の中に見えて、グルグル回るんだ。色は属性を表していて、その色の大きさは、その属性にどれだけ高い適性を持つのかということ、そんで、回る速度が速いほど、そいつの魔力は高いってことになるな」
「ふゆぅ、面白いの!」
「おうっ、一緒にどんな感じなのか観察しような」
「ふゆっ!」
水晶型のその魔導具には、いくつかの噂が存在する。
一つは、その魔導具は、魔力を測るためのものではなく、何かを封じているものだというもの。
一つは、これは魔導具ではなく、代々、職人が作っているもので、彼らが表舞台に出るのを嫌うがゆえに、謎だらけの魔導具とされているというもの。
一つは、この魔導具のオリジナルは、国王が所持しているというもの。
その他にも、様々な噂のある魔導具ではあるものの、その中に正解があるのか、はたまた、どこにも正解が存在しないのかは分からない。むしろ、それらは、面白い娯楽扱いにすらなっており、誰もその噂をまともに受け取る者はいなかった。
それからほどなくして、二人は第三訓練所の前に到着していた。




